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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.071

労働者災害補償保険法(11)

特別加入

労災保険法の規定を厳密に適用するならば労災保険による保護の対象にはならない者であっても、中には労働者と変わらない実態の者もおり、その保護を必要とするという観点から特別加入が認められています。しかし、あくまでも特別に加入が認められたということで、一部、取り扱いが違うところもあります。試験では、この相違点が出題されます。

①特別加入の対象者

特別加入の主な対象者は、
・第1種特別加入者…中小事業主+家族従事者(必ずセットです。)
・第2種特別加入者…自営業者(一人親方)+家族従事者、又は、特定作業従事者
・第3種特別加入者…海外派遣者(有期事業から派遣される者を除く。)
となっています。
試験にも出ないであろうことなのに、わざわざ第1種、第2種、第3種と書いたわけを後で説明しようと思いましたが、単なる語呂合わせのことなので、もうここで説明しますと、労災保険の保険料率が第3種だけ業種によらず固定で、その率が『1000分の3』。。。ということへのネタ振りでした(笑)。第1種と第2種は、その事業により定められた労災保険料率がそのままが適用されます。

1)中小事業主等

1.対象者

以下に示す規模の事業(以下『特定事業』といいます。)を行う中小企業主及びその者が行う事業に従事する者(家族従事者や法人企業の代表者以外の役員であって労働者ではない者をいいます。)が特別加入の対象者となります。
①金融業、保険業、不動産業、小売業…常時50人以下
②卸売業、サービス…常時100人以下
③その他…常時300人以下
※『以下』であって『未満』ではありません。こういう国語的問題は社労士試験ではあまり出題ポイントとされないと思いますが、『ピッタリの場合』に労働者や事業主側に有利な場合は、ピッタリの境目が『入る方』がほとんどだと思います。上記だとピッタリが入れば特別加入できるのですから『以下』です。
【暫定任意適用事業】
暫定任意適用事業(個人経営の農林水産の事業であって常時使用労働者数が5人未満)であって、労災保険に係る保険関係が成立していない事業の事業主は特別加入することはできませんが、(使用する労働者の)労災保険の任意加入の申請と(事業主の)特別加入の申請とは同時に行うことができます。
つまり、使用する労働者とセットだったら事業主も労災保険に入れるということです。
【徴収法(後日、記事で説明します)の規定により労災保険の保険関係が一括されている場合】
建設業等、徴収法の規定により労災保険の保険関係が一括され、元請負人のみが事業主となる(事業主とみなされる)場合であっても、下請負人である中小事業主は労災保険に特別加入することができます。中小事業主は、自ら労働者となって働くことも多いからです。

2.特別加入の承認

中小事業主等が特別加入するためには、中小事業主が、特別加入申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に提出し、政府の承認を受けなければなりませんが、この承認を受けるためには、次のすべての要件を満たしていなければなりません。
また、2つ以上の事業を行う事業主は、上記①~③の承認基準を満たしている限り、2つ以上の事業について特別加入することができます。健康保険は1つの健康保険協会(又は健康保険組合)を選択しなければならない(ただし、保険料はすべての事業において、その賃金の割合に応じて負担しなければなりません。)ので、この取り扱いの違いが試験で問われるかもしれません。
①その事業について労災保険に係る保険関係が成立していること。
※この要件を満たしていなくても、次項の2)一人親方に該当すれば特別加入できます。
②労災保険に係る労働保険事務の処理を労働保険事務組合に委託していること。
※政府としての事務負担の軽減と、労働保険事務組合に身元保証人的な役目を負わしています。
③中小事業主及びその者が行う事業に従事する者を包括して加入すること。ただし、就業の実態がない中小事業主(病気療養中・高齢のために就業していない場合や株主総会・取締役会に出席する等の事業主本来の業務のみに従事している場合など)については、その者が行う事業に従事する者のみを加入させることができます。
※本来的なら事業主とその従業員はセットでないと特別加入できないところ、事業主に労働者的な性格がないのであれば、その事業主を労災保険に加入させる必要性がないので、その場合は、その従業員だけの特別加入を認めます、ということです。

2)一人親方等

前項の中小事業主の場合は、たとえ企業規模が小さくても、最低限、『事業主』と家族従事者などの『事業に従事する者』は別々の個人になりますが、これがミニマムまで小さくなって『事業主=労働者』となったのが、今回の一人親方です。一人親方を労働者とみなして労災保険の保護の対象としたものです。

1)対象者

次の種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする『一人親方その他の自営業者』及び『事業従事する者(家族従事者等であって労働者ではない者をいいます。)』、並びに『特定作業従事者』が特別加入の対象者となります。近年、時代の変化により多様な労働者が誕生しており、毎年のように業種が追加されています。私が社労士試験を受け始めたときは、下記⑦までしかありませんでした。
じゃあ、試験には新しく追加された業種が狙われるのか?といえばそうでもなく、逆に新しく追加された業種は受験生がガチガチで押さえて来てるだろう。。。と、試験委員の先生が考えるのは明白ですよね。。。選択式で出題されることもあります。ダミーの語句を考えやすいからだと思います。
以下は、ガチガチに押さえる必要はありません。仕事をしている風景がなんとなく想像できて、それが頭の片隅になんとなく残っていれば大丈夫です。
①自動車を使用して行う旅客若しくは貨物の運送又は原動機付自転車若しくは自転車を使用して行う貨物の輸送の事業(個人タクシー業、個人貨物輸送業、自転車配達員の事業等)
②土木、建築その他の工作物の建設、改造、原状回復、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(大工、左官、とび、石工等)
③漁船による水産動植物の採捕の事業(⑦の事業を除く)
④林業の事業
⑤医薬品の配置販売の事業(富山の薬売り等)
⑥再生利用の目的となる廃棄物等の収集、運搬、選別、解体等の事業(古紙回収業者等)
⑦船員法第1条に規定する船員が行う事業
※船員法第1条(一部抜粋)
この法律において『船員』とは、日本船舶又は日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶に乗り込む船長及び海員並びに予備船員をいう。
第二項 前項に規定する船舶には、次の船舶を含まないものとする。
一 総トン数五トン未満の船舶
二 湖、川又は港のみを航行する船舶
三 政令の定める総トン数三十トン未満の漁船
(以外、省略)
※小さな船舶、比較的穏やかな水面での操業というイメージです。
⑧柔道整復師法に規定する柔道整復師が行う事業
⑨高齢者雇用安定法2規定する創業支援措置に基づく事業
⑩あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律に基づくあんまマッサージ指圧師、はり師又はきゅう師が行う事業
⑪歯科技工士法に規定する歯科技工士が行う事業
【特定作業従事者】
これも、毎年のように追加されています。私が社労士試験を受け始めたときは③までしかありませんでした。
①特定農作業及び指定農業機械作業
②職業適応訓練作業
③家内労働者及びその補助者の特定作業
④労働局長組合等の常勤役員の特定作業
⑤介護作業及び家事支援作業
⑥芸能関係作業
⑦アニメーション制作作業(⑦が追加されたことについては、代々木アニメーション事件は関係ありません。)
⑧情報システム設計等の情報処理作業に従事する者(労働者である者を除く)
をいう。(則46の18)
【特定農作業】
次の①~③の全てに該当する人をいいます。『危険が予想される農作業』というイメージです。
①『年間の農業生産物(畜産及び養蚕に係るものを含む)の総販売額が300万円以上』又は『経営耕作面積が2ヘクタール以上』の規模(このような基準を満たす地域営農集団などを含む)を有している。
②土地の耕作・開墾、植物の栽培・採取、家畜(家きん及びみつばちを含む)・蚕の飼育の作業のいずれかを行う農作業(労働者以外の家族従事者などを含む)である。
③次のアからオまでのいずかの作業に従事する。
ア 動力により駆動する機械を使用する作業
イ 高さが2メートル以上の箇所での作業(果実の採取などのこと)
ウ サイロ、むろなどの酸素欠乏危険箇所での作業
エ 農薬の散布作業
オ 牛、馬、豚に接触し、または接触するおそれのある作業
【指定農業機械作業従事者】
農業者(労働者以外の家族従事者などを含む)であって、次の機械(一部抜粋)を使用し、土地の耕作、開墾または植物の栽培、採取の作業をする人をいいます。
・動力耕運機その他の農業用トラクター
・動力溝掘機
・自走式田植機
など

2.特別加入の承認

一人親方が特別加入するためには、一人親方等の団体が特別加入申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に提出し、政府の承認を受けなければなりませんが、この承認を受けるためには、次の要件を満たしていなければなりません。
①加入しようとする一人親方等が、団体の構成員となっていること。
※この団体が特別加入申請書の提出を行います。
※一人親方等が特別加入する場合に、労災保険に係る労働保険事務を労働保険事務組合に委託している必要はありません。(次項の海外派遣者についても同じ。)
②同種の事業又は同種の作業について重ねて特別加入するものではないこと。
※異種の事業又は作業について重ねて特別加入することは差し支えありません。
【団体の要件】
一人親方等の団体は、法人である必要はないが、一人親方等の相当数を構成員とし、団体の組織運営方法が整備されていることが必要です。
また、団体は、それが船員法第1条に規定するの船員が行う事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者の団体並びに家内労働者及びその補助者の団体である場合を除いて、あらかじめ業務災害の防止に関し、当該団体が構ずべき措置及び構成員が守るべき事項を定めなければならならない。
(則46の23-Ⅱ)

3)海外派遣者

本邦内とは違う海外の労働環境の中であっても、一定の要件を満たす限りにおいては、労災保険の保護の対象としようとする趣旨です。

1.対象者

次の海外派遣者が特別加入の対象者となります。
①独立行政法人国際協力機構等の開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する者
②日本国内出行われる事業(有期事業を除く)から派遣されて海外支店、工場、現場、現地法人、海外の提携先企業等の海外で行われる事業に従事する者(特定事業(中小企業)に該当しないときは労働者として派遣される者に限る(特定事業に該当していれば派遣先事業の代表者として派遣される場合でも特別加入することができます。)。)
また、新たに海外派遣される者でも、既に海外派遣中の者でも、特別加入することができますが、現地採用者は、例えそれが日本人であっても、特別加入することはできません。
※有期事業からの派遣労働者を除いているのは、労災事故が発生した場合に、徴収する労災保険料(有期事業の終了までしか徴収できない)と支給される保険給付の額がアンバランスとなるためと思います。(筆者推定)
【留学生として派遣される場合】
特別加入することはできません。労働者ではないからです。
【海外の有期事業に派遣される場合】
典型的な試験での引っ掛け論点です。
国内の有期事業から海外に派遣される者は特別加入することができませんが、国内の継続事業から海外において行われる有期事業に派遣される者は特別加入することができます。むしろ、海外が有期事業というケースが多いのではないかと思います。

2.特別加入の承認

海外派遣者が特別加入するためには、国内の派遣元の団体(前記①)又は事業主(前記②)が、特別加入申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に提出し、政府の承認を受けなければなりませんが、この承認を受けるためには、派遣元の団体又は事業主が行う事業について労災保険に係る保険関係が成立していることが必要です。
しかし、一人親方等と同様、労働保険事務組合に事務委託している必要はありません。

②特別加入の効果

1)業務上外の認定

特別加入者の業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害の認定については、労働者の場合と異なり、業務等の範囲を確定することが通常困難であることから、施行規則に基づき厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行うこととされています。
【業務遂行性が認められない場合】(抜粋)
①株主総会や役員会に出席するって等の事業主本来の業務を行う場合
②銀行等に融資を受ける受けるために赴く場合
※これも事業主本来の業務といえるためです。(以下、※は筆者注釈)
③建設業の一人親方が自宅の補修を行う場合
※業として行っているわけではないため。
④個人タクシー営業者が家族を一定場所まで送る行為
※使用しているのがタクシー車であるだけでマイカー使用と何ら変わらないため。当然ですが、自賠責保険などの適用はあります。

2)給付基礎日額

1.特別加入に係る給付基礎日額

特別加入に係る給付基礎日額は、原則として、3,500円(家内労働者の場合は2,500円)~25,000円のうちから、特別加入者の希望する額を考慮して厚生労働大臣(委任により所轄都道府県労働局長)が定めます。
また、この給付基礎日額は、スライド制の適用は受けますが、最低・最高限度額の適用は受けません。

2.複数事業労働者の場合

特別加入者のうち複数事業労働者(労働者として就業しながら、他の就業について特別加入している者など)に関し支給する保険給付の額の算定として用いる給付基礎日額の算定については、複数事業労働者の(労働者として就業している事業場の)給付基礎日額に前記1.の給付基礎日額を合算します。

3)保険手当・特別支給金

次の点で、一般の労働者と異なります。
①二次健康診断等給付は行われません。
※ただし、それでも保険料率は一般の労働者と同一の率です。
②休業(補償)等給付は、賃金喪失を要件とせず、全部労働不能を支給事由として支給されます。
※基本的に賃金という概念がないため。
③次の一人親方等には、通勤災害に関する保険給付は行われません。
※自宅と就業の場所が(現実はどうであれ)同一又は近接しており通勤という概念がないとされるため。
1.自動車を使用して行う旅客若しくは貨物の運送の事業又は原動機付自転車若しくは自転車を使用して行う貨物の運送の事業に従事する者
※個人タクシー業者は通勤災害の適用は受けませんが、タクシー事業を営む中小事業主(第1種特別加入者)は通勤災害の適用を受けます。(自宅と就業の場所が離れていると認められるため。)
2.漁船による水産動植物の採捕の事業(船員法1条に規定する船員が行う事業を除く)に従事する者
3.特定農作業・指定農業機械作業従事者
4.家内労働者及びその補助者
④特別給与を算定基礎とする特別支給金の規定は、中小事業主主等、一人親方等及び海外派遣者については、適用しません。

4)支給制限

政府は、次の事故に係る保険給付及び特別支給金の全部又は一部を行わないことができます。
①中小事業主の故意又は重大な過失によって生じた業務災害の原因である事故
※一人親方等及び海外派遣者には適用されません。
②中小事業主、一人親方等の団体、又は海外派遣者等の派遣元の団体若しくは事業主が、特別加入保険料を滞納している期間(催促状の指定期限後の期間に限る)中に生じた事故
※一人親方等の団体の一部の構成員が保険料相当額を団体に納めないために、政府に対してその団体が保険料を滞納した期間中の事故は、その団体が保険料を滞納した以上、たとえそれが保険料相当額を納めていている構成員の事故であったとしても支給制限の対象となります。

5)脱退

特別加入者は、政府の承認を受ければ、いつでも脱退することができます。ただし、中小事業主等の場合は、脱退する場合も原則として加入時と同様に『事業に従事する者』を包括して脱退しなければなりません。
【地位消滅後】
特別加入者たる地位が消滅した場合であっても、既に発生した特別加入者の保険給付を受ける権利はそれによって変更されません。また、特別加入期間中に生じた事故によるものであれば、特別加入者たる地位が消滅した後に初めて受給権が発生した保険給付であっても受給することができます。

6)承認の取消等

政府は、中小事業主や海外派遣者の派遣元の団体又は事業主が、労災保険法若しくは徴収法又はこれらに基づく厚生労働省令の規定に違反したときは、特別加入の承認を取り消すことができます。また、政府は、一人親方等の団体が労災保険法若しくは徴収法又はこれらに基づく厚生労働省令の規定に違反したときは、保険関係を消滅させることができます。

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