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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.073

雇用保険法(1)

労働保険の2つ目は、雇用保険です。
勉強する際に最初に意識しないといけないことは、雇用保険の申請は自己申告の部分が多く、そのため『雇用保険は不正受給が多い。』ということです。特にそれをことさら前面には出してはいないのですが、そう意識することで労災保険との取り扱いの違いがイメージできるところもあります。例えば、雇用保険(失業給付)目当ての離職を防ぐため、最低でも1年間は会社勤めしないと雇用保険はもらえない(倒産やパワハラ離職、整理解雇などのケースは除く。)ですし、賃金日額も、『6箇月平均(6箇月分の合計額を180で除す)』と労災保険(給付基礎日額=3箇月平均)よりも長いというのも、そういう意味から考えたら理解できるかと思います。また、不正受給を抑止するため、不正受給が見つかったら『3倍返し』というのも雇用保険しかありません。また、就職後すぐにもらえるものではありませんので、雇用保険の届けも『雇い入れた月の翌月の10日』までにまとめてすることでいいとされています。
まったくの蛇足ですが、私の元にも『月に何件か案件を持ってくるから、キャリアアッブ助成金の手続きをしてくれ』というお話が来たりするのですが、キャリアアッブ助成金は『不正受給が多い』(当然、必要としている事業者の方が大半だと信じています。)と目を付けられていますし、そもそも、間に案件を斡旋するところを挟んで社労士として仕事をすることは禁止されているので、そう説明してお断りさせて頂いております。皆さんも社労士合格後、いろいろ美味しそうな話が来ると思いますが、うまく誘って来るので、うっかり不正に手を貸すことは絶対にないように注意してください。

①目的等

1)目的

『雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。』
『雇用保険は、この目的を達成するため、失業給付及び育児休業給付を行うほか、雇用安定事業及び能力開発事業(二事業)を行うことができる。』
以下、これから各給付についての説明に入りますが、前段の『目的』と後段の『給付』の対応関係を意識すると覚えやすいかと思います。
【離職】
被保険者について、事業主との雇用関係が終了することをいいます。
なお、『雇用関係』とは、労働者が事業主の支配を受けて、その規律の下に労働を提供し、その提供した労働の対償として事業主から賃金、給料その他これらに準ずるものの支払を受けている関係をいいます。
【失業】
被保険者が、
①離職し、
②労働の意識及び能力を有するにもかかわらず、
③職業に就くことができない状態
にあることをいいます。
不正受給を防ぐため、②の要件が厳しく問われることになります。『雇用保険をもらいながら外国までゆっくり船旅を楽しもう。。。』はダメだということですね。

2)管掌

『雇用保険は、政府が管掌する。雇用保険法に定める厚生労働大臣の権限は、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。都道府県労働局長に委任された厚生労働大臣の権限は、公共職業安定所長に委任することができる。』
つまり、身近な職業安定所(ハローワーク)で手続きができるということですね。
具体的には、主として『厚生労働省職業安定局』が雇用保険全体の管理運営を行っており、地方出先機関として、保険料の徴収・収納の事務(主に、対事業主)などを行う『都道府県労働局』と、適用及び給付事務(主に、対労働者)を行う『公共職業安定所』とがあります。
ただし、都道府県知事も、能力開発事業における職業訓練を行う事業主等に対する助成の事業の実施に関する事務など、雇用保険の事務の一部を行っています。
【厚生労働大臣の意見聴取等】
『厚生労働大臣は、雇用保険法の施行に関する重要事項について決定しようとするときは、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴かなければならない。また、労働政策審議会は、厚生労働大臣の諮問に応ずるほか、必要に応じ、雇用保険事業の運営に関し、関係行政庁に建議し、又はその報告を求めことができる。』
【船員の場合】
『船員法1条に規定する船員(船員職業安定法の規定により予備船員等みなされる者を含むものとし、以下、単に『船員』という。)が失業した場合は、『公共職業安定所』のほか、『地方運輸局(運輸監理部並びに厚生労働大臣が国土交通大臣に協議して指定する運輸支局及び地方運輸局、運輸監理部又は運輸支局の事務所を含む。)』も給付事務を行う。』
元々、船員については船員保険として雇用保険からは分離独立していたからです。

②適用事業

『雇用保険法においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。』
労災保険と同様、日本人以外の事業主が日本国内において行う事業や国及び地方公共団体が行う事業も、労働者が雇用される事業に該当すれば、原則として、適用事業となります。
また、事業主が適用事業に該当する部門(以下『適用部門』という。)と暫定任意適用事業(=次項)に該当する部門(以下『非適用部門』という。)とを兼営している場合は、
①それぞれの部門が独立した事業と認められる場合は、適用部門のみが適用事業となります。
②一方が他方の一部門に過ぎず、それぞれの部門が独立した事業と認められない場合であって、主たる業務が適用部門であるときは、当該事業主の行う事業全体が適用事業となります。

③暫定任意適用事業

次のすべての要件を満たす事業が暫定任意適用事業となり、雇用保険に加入するかどうかは、事業主及び労働者の2分の1以上の意思に任されています。つまり、労働者の2分の1以上が希望するときは、事業主は、雇用保険の加入を厚生労働大臣に申請しなければなりません。また、事業主の意思により雇用保険に加入しようとするときは、労働者の2分の1以上の同意を得なければなりません。
これが労災保険ですと、労働者側からの希望は過半数以上、事業主の意思だと労働者の同意不要となっています。この違いは、労災保険の保険料は全額事業主負担、雇用保険の保険料は、労働者も負担(事業主との負担割合は毎年変わります。特に期中の10月に雇用保険率が変更されると、社労士として保険料の計算がとっても大変です。。。)していることの違いからきています。
①農林水産業(船員が雇用される事業を除く。)であること
②個人経営であること(法人、国・地方公共団体等が経営する事業ではないこと。)
③常時5人未満の労働者を使用すること
ですので、法人(株式会社等その種類は問いません。)、国、都道府県又は市町村が行う農林水産の事業は、常時5人未満の労働者を使用していたとしても、当然に適用事業となりますし、個人経営の農林水産業であっても、常時5人以上の労働者を使用していれば、適用事業となります。
【人数計算】
『5人』の計算に当たっては、雇用保険法の適用を受けない労働者(次回の記事参照。1週間の労働時間が20時間に満たない労働者などをいいます。)も含めて計算します。単にその事業所の『事務処理能力の有無』を見ているからです。
ただし、法の適用を受けない労働者のみを雇用する事業主の事業については、その数にかかわらず(つまり5人以上であっても)、適用事業として取り扱う必要はないとされています。いくら人数がいても全員が適用されないのですから、当たり前の対応かと思います。

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