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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.009

労働基準法(8)

労働者の長期人身拘束の禁止

今回は、昔あった『様々な理由により、会社を辞めたくても辞められない』という人身拘束の構造から労働者を保護するためにできた労働基準法での規定を見ていきます。

①労働契約の期間

資本主義の初期に於いては、労働者が会社を『辞めたくても辞められない』ようにするために長期の労働契約を結ぶことが行われていました。ですので、従来、労働基準法は、こういう人身拘束の弊害を排除するために、契約期間は原則として1年までとしてきました。(無期契約を除く)
しかし、資本主義が成熟してきた今日では、むしろ『辞めたくないのに辞めさせられる』という弊害も生じてきていますので、この契約期間の上限は引き上げられる傾向にあり、平成15年の法改正により、現在では、原則として『3年まで』となっています。従って、試験対策としては、『上限が3年ではないケース』を押さえることになります。慌てると引っ掛かる論点もありますので、試験問題は、よく読んで下さい。
今では『短時間有期雇用労働者』の保護の規定も法改正が続いて充実してきていますが、この詳しい内容は、後述する『労務管理その他労働に関する一般常識』で取り上げます。

1)契約期間の上限の原則

a.3年の上限

『労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次のb.の労働契約にあっては5年)を超える期間について締結してはならない。』
この3年には、見習い期間も含まれます。
例えば、契約期間を10年と定めた契約をしたような場合には、本条違反については使用者に対してのみ罰則が適用され、労働契約の期間については法13条により、3年又は5年に強制的に短縮されます。

b.5年の上限

高度の専門的能力を有する労働者がその能力を十分に発揮するための環境の整備に寄与するとともに、高年齢者がその経験や能力を活かせる雇用の場を確保する等の見地から、次の労働契約については、契約の上限が、5年とされています。
①専門的な知識、技術又は経験(専門的な知識等)であって高度のものを有する労働者(当該高度の専門的賃金等を必要とする業務に就く者に限る)との間に締結される労働契約
②満60歳以上にの労働者との間に締結される労働契約

①については、『高度のもの』の詳細な内容は、試験では問われないとは思いますが、社会保険労務士やシステムアナリスト、システムエンジニアなどで、年間1075万円以上の報酬をもらってる労働者を差します。この論点も出ないとは思いますが、『中小企業診断士』が入ってないことです。というのは、後述しますが、『見なし労働時間』の規定が適用される労働者はには、逆に、中小企業診断士が入っていて社会保険労務士が入っていないから、こことの引っ掛けはあるかも。。。ですね。
②の規定は、『65歳まで働きたい』という労働者側からのニーズからの規定です。ですので、現在は65歳定年が定着してきていますので、現実としては、意義が薄れた規定かも知れません。
あと、焦ると引っ掛かる論点で、『60歳以上の高度の専門的な知識を有する労働者が、その高度の専門的知識を必要としない業務についた場合』であってもは、②の規定により、契約期間の上限は5年となります。なぜ引っ掛かるかと言えば、上記のように問題文が長くなるので、最初の『60歳』というところが頭の中から消えてしまうからですね。
また、こんな論点は出ないとは思いますが、試験で出てしまうとうっかりミスをする論点としては、上限5年が適用される労働者が『3年契約』した場合は、✕。。。ではありません。『上限が5年』ですから。

2)契約期間の上限の例外

『一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約』については、3年(5年)を超える期間の労働契約を締結することができます。
東京スカイツリーのような長期の建設工事が該当します。通常、建設工事は、建物の完成までの『有期事業』ですが、これに携わる労働者の契約期間を3年としてしまっては、建物の完成まで、何人も労働者を入れ換えないといけなくなり、不都合だからですね。それに、建物が完成してしまえば自然に契約解除となりますから、『人身拘束』にはつながらないですからね。
その他、この項目に該当する労働者は、都道府県労働局長の許可を受けた使用者が行う『認定職業訓練』の受講生との契約期間は、職業能力開発促進法施行規則に定める訓練期間の範囲内で定めることができます。訓練生のための職業訓練なんだから、『人身拘束』にはならないですからね。

3)労働者からの解約

期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間の定めのあるものを除き、その期間が1年を超えるものに限ります。)を締結した労働者(前記1)b.の契約期間の上限が5年とされている労働者を除きます。)であっても、当該契約の期間の初日から1年を経過した日以降においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます。
有期契約というのは『その契約期間そのものが契約内容』なので、中途解約は『債務不履行』となります。しかし、労働者としても、契約期間内に、何らかの退職をせざるを得ない事情が生ずることもあるかと思います。だから、1年を超えたら、労働者側からの退職の申し出は、債務不履行とはしないということです。ただし、契約期間が5年とした労働者は、元々、『労働者のための制度』である、また、建設工事の労働者等については、途中で辞められたら困る。。。ということで、この制度からは除かれてます。が、1年未満で辞めたからといって、債務不履行として訴えられたのを見たり聞いたりしたことはありませんが。。。
ここでの試験的ポイントは、この規定は、『労働者から』の申し出であって、『使用者』からは、契約解除(つまり解雇)はできないということです。

②賠償予定の禁止

『使用者は、労働者の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。』
禁止されているのは、労働者の労働契約の不履行に対し、労働者や身元保証人に一定の金額を支払うことをあらかじめ定めておくことです。例えば、労働者による労働契約の不履行が生じた場合に、損害発生の有無に関わらず、労働者や身元保証が100万円支払うことをあらかじめ定めておくことです。従って、現実に生じた損害について損害賠償を請求することまでは禁止されているのてはありません。例えば、社有車で事故した場合の修理代などです。が、これも、故意や重大な過失(例えば、飲酒運転)でない場合以外は、大抵は、使用者も請求しないかと思います。この規定の趣旨は、『契約期間の途中で辞めたら、100万円支払うこと』をあらかじめ約して、不当に人身拘束をすることを禁止しているということです。

③前借金(ぜんしゃくきん)相殺の禁止

『使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸しの債権と賃金を相殺してはならない。』
禁止されているのは、『労働することを条件とする』前貸しの債権と賃金を使用者の側から相殺することです。従って、労働者が使用者から人的信用(要は、親切)に基づいて受ける金銭など、身分的拘束を伴わないものは、含みません。また、労働者が自己の意思によって、相殺すること(例えば、毎月、給料から1万円ずつ返済しますという申し出)は、本条では禁止されていません。そこまで禁止してしまうと、逆に、労働者に火急にお金が必要となった場合であっても、身近で一番お金を持ってそうな使用者(社長)からお金を借りられないということになってしまいますから。

④強制貯金

雇用の条件として社内預金をさせるということ(強制貯蓄)は、禁止されています。その預金が『人質』になって、会社を辞められなくなるからです。(恐らく、このケースでも、民事訴訟法を起こせば、返金されるとは思いますが。。。)逆に言えば、そのような条件がなく、『労働者の委託を受けて』社内預金をするようなこと(任意貯蓄)は禁止されていません。『貯金はしたいけど、自分でお金を持ってたらついつい使ってしまう。。。』という人もいますから。
ただし、任意といっても、使用者が労働者の金銭を預かる(管理する)ことに変わりはないので、いくつかの弊害防止規定が設けられています。

1)強制貯蓄の禁止

『使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。』
いわゆる『強制貯蓄』が禁止されています。

2)任意貯蓄

『使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合には、法定の措置をとらなければならない。』
この『労働者の委託を受けて行う』任意貯蓄には、使用者自身が預金を受け入れて直接管理する『社内預金』と、使用者が受け入れた預金を労働者の名義で金融機関に預け入れし、その通帳や印鑑(筆者注:法趣旨から、キャッシュカードも含まれると思います)を使用者が保管する『通帳保管』があります。

a.共通の措置

社内預金の場合でも、通帳保管の場合でも、使用者は、次の措置をとらなければなりません。
①労使協定(貯蓄金管理協定)(※下記注)を締結し、所轄労働基準監署長に届け出ること。
②貯蓄金管理規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとること。
③労働者が貯蓄金の返還を請求したときには、遅滞なく返還すること。
もし③の規程に反して貯蓄金の返還がなされない場合でも、①によって行政官庁からの保護が受けられるということですね。
※注:労使協定とは、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者との書面による協定をいいます。試験には出ない論点ですが、最近、労働基準監督署の立ち入り検査があった場合、その『過半数代表者の選出方法・選出過程』が厳しく問われるようです。使用者が、手近な人を指名することが多いからですね。

b.社内預金の場合の措置

社内預金(預金の受入れ)の場合には、a. の共通の措置のほか、次の措置をとらなくてはなりません。

①労使協定(貯蓄金管理協定)に以下の事項を定めること。
1.預金の範囲
2.預金者1人当たりの預金額の限度
 注:貯蓄の自由及び返還請求の自由が保護されている限り、貯蓄金額を『賃金の一定率(例えば、通勤手当を除く賃金総額の5%)』としても違法ではない。
3.預金の利息及び利子の計算方法
4.預金の受入れ及び払い戻しの手続き
5.預金の保全の方法
②上記①の事項及びそれらの具体的取り扱いについて、『貯蓄金管理規程』に規定すること。
 注:『規程』と『規定』に注意。国語の試験ではないので、ここで引っ掛けくることはないとは思いますが。。。
③毎年3月31日以前1年間における預金管理の状況を、4月0日までに、所轄労働基準監督署長に報告すること。
④年5厘以上の利率により利子をつけること。
 注:利率の上限は定められていません。

c.通知保管の場合の注意

通知の保管の場合には、共通の措置のほか、『貯蓄金管理規程』に、所定の事項(預金先の金融機関名、預金の種類、通帳保管の方法及び預金の出し入れの取り次ぎの方法等)を定めておく必要があります。

d. 貯蓄金管理中止命令

『労働者が、貯蓄金の返還を請求したにもかかわらず、使用者かこれを返還しない場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、所轄労働基準監督署長は、使用者に対して、その必要な範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。この場合、使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。』
試験でのポイントは、『誰が中止命令を出すか?』ということです。

社労士試験(特に、労働安全衛生法)で出てくるのは、概ね、『総理大臣』『財務大臣』『厚生労働大臣』『都道府県労働局長』『労働基準監督署長』『公共職業安定所長』。その内、総理大臣と財務大臣は、かなり特別な時にしか登場しませんので、残りの4人から選択させる問題が出題されると思います。これは覚えるしかないのですが、大体のイメージとしては、
・公共職業安定所長は、いわゆるハローワークにいる人だから、失業したときにお世話になる人
・労働基準監督署長は、身近な手続きを担当する人
・都道府県労働局長は、専門的知識を必要とすることについて、命令を出す人
・厚生労働大臣は、都道府県をまたいだ事項について、命令を出す人ではあるが、専門的知識はない。。。だから、命令の前提として、あらかじめ、しっかりとした判断基準があること。  
※筆者の勝手なイメージですので、注意。

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