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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.074

雇用保険法(2)

被保険者等

予備校の講義順や外販テキストの掲載順は、ほぼ『法律の条文番号順』となっています。
しかし、雇用保険の被保険者については、被保険者の定義が『適用除外に該当しないものをいう。』となっており、実務上においても、1日でも働けば保険の対象となる労災保険とは違って、雇用保険は結構な割合で適用除外者がいますので、まず、『適用除外』を理解した方が全体を把握しやすいと思いますので、適用除外から説明します。試験上も、被保険者を問うときは、この適用除外をちゃんと押さえられているかを問う問題になります。
なお、日雇労働被保険者は、『最後の受皿』となるものなので、結構、幅広く適用となります。しかし、支払った保険料ともらう給付金のリターン率が他の区分の被保険者よりいいので、いつまでも日雇労働被保険者でいたいという者もいるので、『こういうケースは日雇労働被保険者とはならない。』という条件もしっかりと押さえましょう。

①適用除外等

1)適用除外

次に掲げる者については、原則として、雇用保険法は適用しません。(つまり、雇用保険の被保険者とはなりません。)
①1週間の所定労働時間が20時間未満である者(特例高年齢被保険者及び日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く。)
※特例高年齢被保険者は、高年齢のダブルワーク労働者のために近年制定されたもので、しばらく社労士試験から離れていた方は要注意です。端的にいえば『2つの仕事の所定労働時間を足せば週20時間以上になるんだったら被保険者として認めますよ。』ということです。なお、特例高年齢被保険者は強制適用ではなく、適用者のうち、それを希望する者だけの任意適用です。保険料の徴収については、一般の被保険者と同じ扱いです。事業主負担も同様にあります。
②同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者(前2月の各月において18日以上同一の事業主の適用事業に雇用された者及び日雇労働者であって日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く。)
※前2月の各月において18日以上同一の事業主の適用事業に雇用された者は、日雇労働被保険者とはならず、他の区分の被保険者となります。(事業主が、『たまたまその2月だけ18日以上になった』と証明した場合は日雇労働被保険者のままになれます。)
③季節的に雇用される者であって、次のいずれかに該当するもの(日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く)
1.4箇月以内の期間を定めて雇用される者
2.1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満であるとき
※この項は、『短期雇用特例被保険者に該当しない者』という意味です。短期雇用特例被保険者は、1週間の所定労働時間が30時間以上が条件なのでこういう表現になっていますが、わざわざ『20時間以上』となっているのは、20時間未満だと、①で適用除外となるからです。つまり、意味としては、単純に『30時間未満』です。
④学校教育法に規定する学校、専門学校又は各種学校の学生又は生徒であって、一定の者(いわゆる昼間学生等)
※つまり、夜間学生は雇用保険の適用者となります。
※小学生が『児童』、中学生と高校生、専門学校生が『生徒』、大学生が『学生』となりますが、小学生は労働基準法で就労が禁止されているので、『児童』という文言は、条文には入っていません。
⑤船員であって、漁船(政令で定めるものに限る)に乗り組むため雇用される者(1年を通じて船員として適用事業に雇用される場合を除く)
※漁師や船員の中にはは、一定の短期間だけで1年分の収入を得て、後は就労しなくても生活できる者もいるので、そういう者に、『今は働いていないから』と雇用保険を給付するは、雇用保険法の趣旨にそぐわないからです。
⑥国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、(雇用保険法による)求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であって、一定のもの
※下記捕捉説明参照
【季節的に雇用される者】
・季節的業務に期間を限定して雇用される者(除雪業務のように季節的に行われる業務に就く者。海の家やスキー場などでの業務も一例となります。)
・季節的に入離職する者(業務は年間を通して行われるが、季節労働者のように、入離職を季節的に行う者。夏は自宅で農業をして冬場だけ出稼ぎに出る者など。)
【学生又は生徒であって、一定の者】
次に掲げる者『以外』の者をいいます。(則3の2)
※つまり、以下の者は、雇用保険の適用を受けます。
①卒業を予定している者であって、適用事業に雇用され、卒業した後も引き続き当該事業に雇用されることとなっているもの。
②休学中の者
③定時制の課程に在学する者
④上記①~③に準ずる者として厚生労働省職業安定局長が定めるもの
【適用除外⑥の具体的例】
①国又は行政執行法人の事業に雇用される者(非常勤職員であって、国家公務員退職手当法の規定により職員とみなされない者を除く。)
※国家公務員退職手当法の方が、雇用保険法より有利な内容なので、わざわざこういう規定が存在するわけです。(以下、②③も同じです。)
②都道府県等の事業に雇用される者であって、当該都道府県等の長が雇用保険法を適用しないことについて、厚生労働大臣に申請し、その承認をし受けた者
③市町村等の事業に雇用される者であって、当該市町村等の長が雇用保険法を適用しないことについて、都道府県労働局長に申請し、厚生労働大臣の定める基準によって、その承認を受けたもの
※試験上は、誰が承認するかが大事です。基本は『直上行政機関』です。『直上上司』みたいなイメージです。
ただし、国以上の機関がないので、①のような表現になります。
※都道府県等又は市町村等の事業に雇用される者について、雇用保険の適用除外の承認がなされた場合には、その『承認の申請がなされた日』から当該者には雇用保険法を適用せず、もし承認しない旨の決定があったときは、その『承認の申請がなされた日』にさかのぼって雇用保険法が適用されます。『将来に向かって』ではないことに注意が必要です。『将来に向かって』では、空白の期間が生じるからです。冷静に考えれば当たり前の話なのですが、本試験中にこう判断するのは難しいです。。。

2)被保険者の範囲

この項に登場する者は、『被保険者とならい者』と『(その例外として)被保険者となる者』が併記されていますので、きちんと押さえましょう。

1.役員等

個人事業主、法人の代表者取締役、合名会社や合資会社の代表社員は被保険者とはなりません。『雇用されている者』ではないからです。
しかし、株式会社の取締役、合名会社や合資会社の社員は、同時に会社の部長や支店長等の従業員として身分を有し、報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り、被保険者となります。

2.家事使用人

家事使用人も被保険者とはなりません。
しかし、適用事業に雇用されて主として家事以外の労働に従事することを本務とする者は、(その会社の社長宅等において)家事に使用されることがあっても、被保険者となります。

3.パートタイム労働者等

前項①及び②の規定がそのまま適用されます。
しかし、パートタイム労働者や登録型派遣労働者についても、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、同一の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれる場合は、被保険者となります。
※30日か31日か迷いがちですが、『最初に見込む31日』という語呂合わせがあります。

4.2以上の事業主に雇用される者

同時に2以上の雇用関係にある労働者は、特例高年齢被保険者(注:次項で説明します。)に該当する場合を除き、その者が『生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける1の雇用関係』についてのみ被保険者となります。分かりやすく言えば、『賃金が一番高い事業所』だけで判定されるということです。

5.国外就労者

海外に出張する場合はもちろんのこと、海外に出向する(海外にある他の事業主に雇用されることとなる。)場合であっても、出向元事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者となります。
なお、現地で採用される者は、国籍のいかんにかかわらず(それが日本人であっても)被保険者とはなりません。これは、次の6.の裏返しの規定と考えれば納得がいくでしょう。

6.在日外国人

日本国に在住する外国人は、外国公務員及び外国の失業保険制度の適用を受けていることが立証された者を除き、国籍(無国籍者を含みます。)のいかんを問わず、原則として被保険者となります。

7.長期欠勤者

労働者が長期欠勤している場合であっても、雇用関係が存続する限り、賃金を受けていると否とを問わず被保険者となります。
なお、賃金を受けていなければ、労働保険(労災・雇用)は保険料はその月に支払われた賃金に保険料率を掛けるわけですからゼロですが、社会保険(健康保険・年金)は標準報酬月額(原則、4月~6月に支払われる賃金の平均から算出されます。)に保険料率を掛けるので、たとえその月の賃金の支払がなくても、保険料が発生します。(この論点を直接問う問題は、科目間をまたぐ問題となるので、試験には出ないと思います。)

②被保険者とその種類

予備校の講義や外販テキストでは、この項が最初の①となります。
『雇用保険法において被保険者とは、適用事業に雇用される労働者であって、適用除外(つまり、前項)に該当しないものをいう。』
雇用保険の被保険者には、
・65歳未満の一般労働者である『一般労働者』
・65歳以上の一般労働者である『高年齢被保険者』
・季節労働者である『短期雇用特別被保険者』(年齢は問わない)
・日雇労働者である『日雇労働被保険者』(年齢は問わない)
の4種類があります。以下、詳しく解説します。

1)一般被保険者

被保険者であって、高年齢被保険者、短期雇用特別被保険者及び日雇労働被保険者以外のものを一般被保険者といいます。
ほとんどの労働者の方の区分です。文言だけを見ますと『最後の受皿』みたいなイメージですが、実際の最後の受皿は、日雇労働被保険者です。

2)高年齢被保険者

1.高年齢被保険者

65歳以上の被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。 ※つまり、この2つの区分には年齢制限がないということです。)を高年齢被保険者といいます。
一般被保険者は、65歳に達すると高年齢被保険者に切り替わります。『切り替わる』という表現はされていますが、当然、65歳以後に新たに適用事業に雇用された者も高年齢被保険者となります。

2.高年齢被保険者の特例

ダブルワークをしている(『マルチジョブホルダー』と表現されます。)高年齢労働者のために新しくできた制度です。今は、とりあえず実験的にやってみて、評判が良ければ(?)、一般被保険者の区分にも広げていく。。。という話です。
次の①から③のいずれにも該当する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に申し出て、当該申出を行った日から高年齢被保険者となることができます。つまり、任意適用なのですが、任意脱退はできません。脱退するには、①又は③の条件を適用しないようにするしかありません。(①のうち年齢要件を不適用させるというのは不可能ですので、①を不適用させるということは、1社のみで働いている状態にするということです。②を不適用とするということは、普通に、高年齢被保険者になります。)
①2以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること。
②1の事業主の適用事業における1週間の所定労働時間が20時間未満であること。
③2の事業主の適用事業(申出を行う労働者の1の事業主における1週間の所定労働時間が5時間以上であるものに限る。 ※あまりにも臨時アルバイト的なものは除外するということです。)における1週間のの所定労働時間の合計が20時間以上であること
※つまり、それぞれは20時間未満であっても、2つを合計すれば20時間以上になるのであれば適用されるということです。
つまり、前記の通り、同時に2以上の雇用関係にある労働者は、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける1の雇用関係についてのみ雇用保険の被保険者となり、その1の雇用関係について週の所定労働時間が20時間以上であることなどの要件を満たす必要がありますが、65歳以上の者については、特例として、1週間の所定労働時間がそれぞれ5時間以上の2の雇用関係について、その合計が20時間以上である場合等には、その者の申出により、高年齢被保険者となることができるというものです。この規定により高年齢被保険者となる者について、特別に区分する必要がある場合には、この記事中では『特例高年齢被保険者』と表記します。
なお、3以上の事業主の適用事業で働き、かつ、その3以上の適用事業でそれぞれ1週間の所定労働時間が5時間以上となるものであれば、その3以上の適用事業を届出し、その中で、20時間以上になるように任意に選択します。もし、その選択した適用事業のうち1の適用事業を退職した場合でも、届出時に選択しなかった適用事業の所定労働時間を合計したら20時間以上となるのでしたら、自動的に切り替わります。つまり、任意に脱退できないということです。
【申出】
申出を行おうとする者(本人=会社側には届出義務はありません。)が、当該申出に係る適用事業における1週間の所定労働時間などの所定の事項を記載した届書を個人番号登録届と併せて管轄公共職業安定所(その者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所)の長に提出することによって行うものとします。

3)短期雇用特例被保険者

『短期で離職することが前提』の労働者なので、要件が厳しくなります。

1.短期雇用特例被保険者

被保険者であって、季節的に雇用されるもののうち次のいずれにも該当しない者(日雇労働被保険者を除く。)を短期特例被保険者といいます。
①4箇月以内の期間を定めて雇用される者
※4箇月以内の期間を定めて季節的に雇用される者であっても、当初の所定期間を超えて引き続き同一の事業主に雇用されるに至った場合は、その所定の期間を超えた日から、短期雇用特例被保険者となります。(ただし、1週間の所定労働時間が30時間未満である場合(②の条件で適用除外)又は所定の期間と延長された期間を通算して4箇月を超えない場合(①の条件で適用除外)を除く。)また、就労開始時までさかのぼっての適用ではないことに注意です。延長された結果、所定の期間が1年以上となった場合は、次項2.となります。
②1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者
※つまり、30時間を超えないと短期雇用特例被保険者とはならないということです。

2.被保険者種類の変更

短期雇用特例被保険者が、同一の事業主に引き続いて1年以上(疾病、負傷等により引き続き30日以上賃金支払を受けることができなかった期間を除きます。※後述の算定基礎期間(被保険者であった期間が要件を満たすかどうかを判断する期間。長いほど有利。)については加算することに注意。)雇用されるに至ったときは、その1年以上に至った日(切替日)以後、次のような扱いになります。
①切替日に65歳未満の者は、一般被保険者となります。
②雇入れ日に65歳未満であったが、切替日に65歳以上である者は、高年齢被保険者となります。
③雇入れ日に65歳以上の者は、切替日に高年齢被保険者となります。

4)日雇労働被保険者

雇用保険において『最後の受皿』となる区分です。

1.日雇労働被保険者

被保険者である日雇労働者(日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用される一定の者)であって、次のいずれかに該当するものを日雇労働被保険者といいます。
①適用区域に居住し、適用事業に雇用される者
※仕事の斡旋は、公共職業安定所で行われますので、そこに通えることが条件です。つまり、公共職業安定所までの交通が便利である区域のことであり、
・東京都の特別区
・公共職業安定所の所在する市町村の区域(厚生労働大臣が指定する区域を除く。日雇労働者に仕事の斡旋が困難な地域のことです。)
・上記に隣接する市町村の全部又は一部の区域(厚生労働大臣が指定する区域に限ります。)
②適用区域外の地域に居住し、適用区域内にある適用事業に雇用される者
※①を原則としたため、最後の受皿として例外を広くとるため、②以下、ややこしい言い回しになります。
③適用区域外の地域に居住し、適用区域外の地域にある適用事業であって、日雇労働の労働市場の状況その他の事情に基づいて厚生労働大臣が指定したものに雇用される者
④上記①~③の者のほか、日雇労働被保険者の任意加入の申請をし、公共職業安定所長の認可を受けた者
※選択式の意地悪問題として出題されるかも知れませんが、元々禁止されていることを特別にOKとすることが『許可』、別に禁止事項ではないが、OKとされることにより初めて効力を発することとなるのが『認可』というイメージです。

2.被保険者資格の継続等

日雇労働被保険者は、支払った保険料に対しての給付金の額の『リターン率』が他の区分よりいいので、以下の規定があるということです。
日雇労働者は、前2月の各月において18日以上同一の事業主の適用事業に雇用された場合又は同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用された場合(言い回しがわかりにくいですが、要は、日雇労働者は日々様々な事業主に雇用されるのが常なはずなのに、1のみの事業主にのみ雇用され、2以上の事業主の事業で雇用されなかったということです。)は、原則として日雇労働者として扱われなくなり、所定の要件を満たしている限り、一般被保険者、短期雇用特例被保険者又は高年齢被保険者となります。
ただし、日雇労働被保険者である日雇労働者が、日雇労働保険資格継続認可申請書に日雇労働被保険者手帳を添えて、当該事業所の事業主を経由して提出し、公共職業安定所長の認可を受けたときは、その者は、引き続き日雇労働被保険者となることができます。つまり、事業主が『たまたま仕事が忙しくて、その月だけ特別に18日以上働いてもらった。。。』と証明した場合ということです。また、雇用された事業主が多いとか雇用されていた事業所が倒産してしまったなどやむを得ない理由のため当該事業主を経由して労働被保険者資格継続認可申請書を提出することが困難であるときは、当該事業主を経由しないで(労働者が直接)提出することができます。

③被保険者資格の確認

1)資格の取得及び喪失の確認

厚生労働大臣(公共職業安定長に権限委任)は、日雇労働被保険者の場合を除き、次の事由に基づき、労働者が被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認を行うものとされています。
①事業主からの届出
②被保険者又は被保険者であった者の請求
③職権
また、被保険者又は被保険者であった者は、日雇労働被保険者又は特例高年齢被保険者の場合を除き、いつでも、被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認を請求することができます。
【特例高年齢被保険者の場合】
特例高年齢被保険者となる(又は要件を満たさなくなったことの)申出を行った労働者については、確認が行われたものとみなされます。自分で届出たことについての確認は、わざわざしないということです。
【確認請求手続】
確認の請求は、文章又は口頭で確認請求に係る被保険者資格の取得又は喪失の日においてその者が雇用されていた事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に対して行います。

2)確認の通知

公共職業安定長は、労働者が被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認をしたときは、その旨を当該確認に係る者及びその者を雇用し、又は雇用していた事業主に通知しなければなりません。
なお、この当該確認に係る者に対する通知は、当該事業主を通じて行うことができます。
公共職業安定長は、確認に係る者又は事業主の所在が明らかでないために通知することができない場合はには、公共職業安定所の掲示板に、通知事項を記載した文書を掲示しなければなりません。

④適用事業に関する届出

1)適用事業所設置(廃止)届

事業主は、事業所を設置したとき、又は廃止したときは、適用事業所設置(廃止)届を、その設置又は廃止の日の翌日から起算して10日以内に、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければなりません。
※雇用保険の提出期限は『翌日起算の10日以内』が多いです。10日というのは、金曜日に事案が発生した場合に、土日が休みだと、翌週中に届出書を作って、その翌週月曜日に提出(これで10日間)というイメージです。
【事業所を2つに分割した場合】
分割された2の事業所のうち主たる事業所については分割前の事業所と同一のものとして取扱いので、特段の事務手続は不要です。分割された2の事業所のうち従たる事業所については、適用事業所設置届及び転勤届の提出を要します。
【2つの事業所を統合した場合】
統合前の2の事業所のうち主たる事業所については統合後の事業所と同一のものとして取扱うので、特段の事務手続は不要です。統合された2の事業所のうち従たる事業所については、適用事業所廃止届の提出を要します。ただし、被保険者の事務手続は要しません。(元々、主たる事業所で雇用保険の事務処理をされていたはずです。)
【経由】
適用事業所設置(廃止)届は、年金事務所を経由して提出することができます。なお、設置の届出を健康保険及び厚生年金保険の新規適用届又は労働保険の保険関係成立届(徴収法における有期事業、労働保険事務組合の処理が委託されている事業及び二元適用事業(※)に係るものを除きます。 ※詳しくは、後の記事の徴収法のところで説明します。)と併せて統一様式により行う場合、廃止の届出を健康保険及び厚生年金保険の適用事業所全喪届と併せて統一様式により行う場合には、それぞれの届出の区分に応じ所轄労働基準監督署長又は年金事務所を経由することができます。
事業所の設置又は廃止について、同時に発生する事務手続を統一様式によって一度の手続で済まそうということですね。

2)事業主事務所各種変更届

事業主は、その氏名若しくは住所、又は事業所の名称及び所在地若しくは事業の種類に変更があったときは、事業主事業所各種変更届を、その変更があった日の翌日から起算して10日以内に、所轄公共職業安定所の長に提出しなければなりません。
また、事業主とは、法人の場合はその法人そのものをいうので、代表取締役の異動があっても変更届を提出する必要はありません。
※上記条文では、『又は』の前が個人、後が法人のことをいっています。

3)代理人選任・解任届

事業主は、代理人を選任し、又は解任したときは、代理人選任・解任届を、当該代理人の選任又は解任に係る事業所の所轄公共職業安定所の長に提出するとともに、当該代理人が使用すべき認印の印影を届けでなければなりません。
【経由】
『事業主事業所各種変更届』『代理人選任・解任届』は、それぞれ、年金事務所を経由して提出することができます。

⑤日雇労働被保険者以外の被保険者に関する届出

日雇労働被保険者は『最後の受皿』としての性格から取扱いが異なりますので、次章で説明します。

1)資格取得届

1.資格取得届の提出

事業主は、その雇用する労働者が(雇用又は雇用の後、要件を満たすこととなったときなど)被保険者となったときは、当該事実のあった日の属する月の翌月10日までに、雇用保険被保険者資格取得届を所轄公共職業安定所の長に提出しなければなりません。また、被保険者に関する届出等の雇用保険の事務処理については、たとえ徴収法の規定による継続事業の一括(=後に掲載する徴収法の記事で説明します。)の認可を受けている場合であっても、各事業所単位で行わなければなりません。
※雇用保険は『翌日起算の10日以内』が多いのですが、資格取得届は翌月10日にまとめて提出すればいいことになっています。雇用に関しては、一度に大量に発生することも多く、また、すぐに雇用保険が給付されることもないからです。4月1日に入社式をしてゴールデンウィーク明けの5月10日までに資格取得届を提出するというイメージです。
【経由】
資格取得届は、年金事務所を経由して提出することができます。なお、健康保険及び厚生年金保険の資格取得届との統一様式により提出する場合には、所轄労働基準監督署長又は年金事務所を経由することができます。労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の資格は、雇用発生と同時に一括して発生することが多いので、事務手続を一度に済ませようということです。

2.被保険者証の交付

公共職業安定所長は、被保険者となったことの確認をしたときは、その確認に係る者に、原則として当該被保険者を雇用する事業主を通じて、雇用保険被保険者証を交付します。
【再交付の申請】
被保険者証の交付を受けた者は、被保険者を滅失し、又は損傷した場合は、被保険者証の再交付を受けなければなりませんが、当該再交付の申請は、被保険者の選択する公共職業安定所長に対して行います。つまり、どこの公共職業安定所に申請しても差し支えありません。雇用保険被保険者証だけを使っての給付手続はできませんし、そもそも、雇用保険被保険者証は、横長の小さな紙切れみたいなものに被保険者番号が書いてるだけですので、特段の保護は不要ですので、『自分の都合のいいところで申請してください。』ということができるのです。

2)転勤届

事業主は、その雇用する被保険者の一の事業所から他の事業所に転勤させたとき(同一の公共職業安定所の管内での転勤を含みます。)は、当該事実のあった日の翌日から起算して10日以内に、雇用保険被保険者転勤届を、転勤後の事業所の所轄公共職業安定所の長に提出しなければなりません。

3)個人番号変更届

この個人番号とはマイナンバーのことをいいます。雇用保険被保険者番号ではありません。
事業主は、その雇用する被保険者の個人番号が変更されたときは、速やかに、個人番号変更届を所轄公共職業安定所の長に提出しなければなりません。(ですので、雇用保険被保険者番号のことではないということです。雇用保険被保険者番号は、誰よりも公共職業安定所の長が把握できるはずですから。ま、ここを引っ掛けてはこないと思いますが。。。)

4)資格喪失届

1.資格喪失届の提出

事業主は、その雇用する労働者が被保険者でなくなったときは、当該事実のあった日(資格喪失日)の翌日から起算して10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届を公共職業安定所の長に提出しなければなりません。
※今回は、『資格喪失日の翌日起算で10日目』が『被保険者でなくなる事実のあった日の翌日から11日目』になるケースがありますので次項2.をよく理解してください。事例問題として出題される可能性があります。

2.資格喪失日

被保険者は、次の日に被保険者資格を喪失します。(この喪失の日の翌日起算で10日以内に資格喪失届を提出。)
①死亡したとき…その翌日
※午前0時1分に亡くなった方と23時59分に亡くなった方との差を付けないため
②離職したとき…その翌日
※離職した日はまだその会社に籍があるからですが、離職した日に新たに(転職先の会社で)被保険者資格を取得すべき場合は、被保険者であった期間の重複を避けるため、離職した日に、従前の雇用関係に基づく被保険者資格を喪失します。
③雇用される適用事業の雇用保険に係る保険関係が消滅したとき…その日
※『保険関係が消滅した』瞬間に被保険者ではなくなるので、当日喪失です。ただし、事業を廃止したときは、事業を廃止した日の翌日に保険関係が消滅するので、その場合は、『廃止の日の翌日』に被保険者資格を喪失します。『原因(事業の廃止)』を基準にしているのか『結果(保険関係の消滅)』を基準にしているか、表現に注意が必要です。ほとんどが、原因の翌日に結果(喪失)が発生して、さらにその翌日から10日以内に資格喪失届を提出という流れになります。つまり、原因の翌日から数えると11日となります。
④被保険者としての適用要件に該当しなくなったとき…その日
※被保険者として取り扱われない取締役や1週間の所定労働時間が20時間未満となった場合など。『該当しなくなった』瞬間に被保険者でなくなったものを翌日喪失とはできないので、当日喪失にするということです。
【特例高年齢被保険者の場合】
高年齢被保険者の特例により被保険者としてなった者は、(片方の就業先を離職する、あるいは2つの就業先の1週間の労働時間の合計が20時間未満となって)特例高年齢被保険者の要件を満たさなくなったときは、当該事実のあった日の翌日から起算して10日以内に、所定の事項を記載した届書を管轄公共職業安定所の長に提出することによって、厚生労働大臣に申し出なければなりません。一度特例高年齢被保険者となった後に任意脱退はできないので、死亡を除けば、このパターンしか脱退できません。

5)離職証明書の添付等

1.原則

被保険者が離職した後、基本手当(俗にいう『失業手当』のことです。)を受けるためには、公共職業安定所に出頭し、雇用保険被保険者離職票を提出しなければなりません。そして、この離職票は、事業主が作成する雇用保険被保険者離職証明書を基づき、公共職業安定所長が作成し、当該離職者に交付します。このため、事業主は、被保険者が離職により被保険者の資格を喪失したときは、原則として、資格喪失届に離職証明書を添えなければなりません。
なお、死亡、在職出向、出向元への復職など、被保険者でなくなったことの原因が離職でない場合には、資格喪失届に離職証明書を添付する必用はありません。(このパターンで基本手当が給付されることもありません。)
また、用語としてイメージが似ているので間違いやすいのですが(試験委員の先生もそう思っています(笑)。)、まず事業主が『離職証明書』を離職する労働者に渡して、その労働者がこの離職証明書を公共職業安定所長に提出したら『離職票』(就職活動をした日などが書きこめるようになっているちょっと厚手の紙の票です。)をくれるので、それを指定日に公共職業安定所に出頭して担当者に手渡すと、基本手当が給付されるという流れです。試験としては『指定された出頭日(決められた曜日固定で28日ごとになります。)に公共職業安定所に出頭して、離職証明書を提出する。』…で✕、という出され方になります。
【離職証明書の記載事項】
離職証明書には、事業主が、被保険者に関する離職の日以前の賃金支払状況等を記載する欄のほか、当該被保険者の離職理由を記入する欄が設けられており、離職者は事業主が記入したり離職理由について、異義あり又は異義なしのいずれかを選択して氏名を記入することになっています。たとえ異義ありであっても、公共職業安定所は受け付けてくれます。(どちらの意見が正しいかを調査することになります。)
ここで、自己都合退職の場合、一定期間基本手当がもらえません(待機期間といいます。)ので、事業主が親切心で事業主都合退職として処理をすることもあるようですが、その場合、その事業主は、一定期間(概ね1年間)、一定の補助金や助成金の給付が停止されてしまう場合がありますので、注意が必要です。

2.例外

次の就職先が決まっている場合などのように、資格喪失届を提出する際に、被保険者が、離職票の交付を希望しない(必要としない)場合もあります。この場合は、その被保険者が離職の日において59歳以上である場合を除き、資格喪失届に離職証明書を添えないことができます。ただし、その後、事情が変わって、当該離職者が離職票の交付を請求するため離職証明書の交付を求めたときは、事業主は離職証明書をその者に交付しなければなりません。
また、被保険者期間が短いなどで基本手当の受給資格がない場合であっても、また、懲戒解雇による離職の場合であっても、離職証明書を添付(交付)しなければなりません。
【離職の日に59歳以上の場合は離職証明書が必要な理由】
離職証明書には、離職日以前の賃金支払状況が記されていますので、60歳以上で賃金が一定額以下になった場合にもらえる高年齢雇用継続給付金の金額算定の基礎となる60歳到達時賃金を算定・申請に必要だからです。

6)離職票の交付

1.原則

公共職業安定所長は、資格喪失届により被保険者でなくなったことの確認をした場合であって、事業主が当該資格喪失届に離職証明書を添えたときは、離職票を、原則として事業主を通じて、離職したことにより被保険者でなくなった者に交付します。

2.例外

公共職業安定所長は、次の場合には、離職票を、離職したことにより被保険者でなくなった者に、直接交付しなければなりません。(事業主を通じて交付することはできません。)
①資格喪失届により被保険者でなくなったことの確認をした場合であって、当該離職者であった者から離職証明書を添えて請求があったとき
②確認の請求により、又は離職で被保険者でなくなったことの確認をした場合であって、当該被保険者であった者から離職証明書を添えて請求があったとき
※要するに、離職者が離職証明書を持参した場合は、公共職業安定所長は、離職票を離職者に直接交付しなければなりません。離職者が目の前にいるのに、わざわざ辞めた会社経由でなければいけないというのはおかしいですし、そもそも、円満退社でないケースだと、辞めた会社経由というのは、心情的にもよろしくないと思います。(試験では理由は問われません。)

⑥日雇労働被保険者に関する届出

1)資格取得届

日雇労働者は、日雇労働被保険者となる要件を満たしたときは、その要件を満たすに至った日から起算して5日以内に、日雇労働被保険者資格取得届を管轄公共職業安定所(その者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所 ※日々雇用先が変わるので、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所ではないことに注意。)の長に提出しなければなりません。
また、管轄公共職業安定所の長は、日雇労働被保険者資格取得届の提出を受けたとき(当該日雇労働被保険者資格取得届を提出した者が日雇労働者及び日雇労働被保険者に該当すると認められる場合に限る。)又は2)の任意加入の認可をしたときは、当該日雇労働被保険者資格取得届を提出した者又は当該認可に係る者に、日雇労働被保険者手帳を交付しなければなりません。

2)任意加入申請書

日雇労働者は、任意加入の認可を受けようとするときは、管轄公共職業安定所に出頭し、日雇労働被保険者任意加入申請書を管轄公共職業安定所の長に提出しなければなりません。

⑦電子申請の義務

事務経費の削減のため、一定規模以上の事業主に対して電子申請を義務化したものです。
次の届出書の提出や支給申請(④及び⑤については、事業主を経由して提出する場合に限ります。)は、特定法人にあっては、原則として電子情報処理組織(政府の使用に係る電子計算機(入出力装置を含みます。)と特定法人の使用する電子計算機とを電気通信回路(インターネット等)で接続した電子情報処理組織をいい、以下、この一連の記事内において同じとします。)を使用して行うものとされています。
(以下の届の詳細は、後の記事で説明します。)
①雇用保険被保険者資格取得届
②雇用保険被保険者転勤届
③雇用保険被保険者資格喪失届
④高年齢雇用継続基本給付金の支給申請
⑤育児休業給付の支給申請
※発生頻度の多い申請や毎月継続的に申請するものというイメージです。
【特定法人】
以下の法人をいいます。
①事業年度開始の時における資本金の額、出資金の額又は銀行等保有株式取得機構がその会員から銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律の規定により納付された当初の拠出金の額及び売却時拠出金の額の合計額が1億円を超える法人
②保険業法に規定する相互会社
③投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資法人
④資産の流動化に関する法律に規定する特定目的会社

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