ギギ=アンダルシア、俺の情緒を引き裂くな

　女が苦手だ。中高男子校&浪人の呪いで喋るのが怖かった。大学以降は専ら非モテ街道を爆進し、自己嫌悪と、処理能力を超えた感情を持て余し、常にうっすらと女嫌いだった気もする。とかく、俺という人間にとって女性性というヤツは崇拝と怒りの間を常に行ったり来たりする、謎そのものだったわけ。

　で、冒頭の話。今日は『閃光のハサウェイ』を観てきた。とても面白かったが、俺はガンダムについては全くの門外漢なので作品自体については喋らない。万が一にも怖いおじさん達が来てしまったら泣いてしまうから。だからあくまでキャラクターの、ギギ=アンダルシアの話だけをする。女である。女であるとしか言いようがない。女の子エアプ勢の童貞野郎にこう感じさせるのだから幻だったとしても結構凄いんじゃないか。俺が女の子に感じる恐怖の一端というか、貧弱な思考野に混乱をもたらす存在だったなというか。錯綜する思考を整理して、ちょっと落ち着いていきたい。

ギギ=アンダルシアの嫌いなところ

①自分の美貌と若さの価値を正確に把握して、それを換金する術を心得てるところ。

　いや本当に嫌いとしか言いようがない。これは僻みだ。美しさをカネに出来る者への。劇中で彼女のパトロンである“伯爵”とやらは恐らく桁違いの資産家だ。桁違いの人間に最初から取り入る事って普通は出来ないので、段階を踏んでエコノミー男からビジネス男へ、そしてファースト男という順序で乗り換えをしてきたんちゃうか？(妄想　男はドンキーコングのロープギミックちゃうんやぞ？？

②〇〇用の男、みたいなパッケージわけがめちゃくちゃ明確なところ

　中々思う通りに靡かないハサウェイへの当て付けにケネスと仲良くしてる所を見せつけたと思えば、“安全確保用の男”として最も間違いのないケネスに対してテロ後に抱きついてみたりと、人間を“用途”で明確に分けているきらいがある。おれはそういう人間が本当に嫌いだよ………！

③上記の立ち居振る舞いを隠す気が殆どなく、美貌と立ち回りで許容され得るラインを正確に把握しているところ

説明不要。許せねぇよ俺……！

　これだけだったら僻み100%の怒りで済む話なのだが、困ったことに俺はこのギギという女が作中で好きになっちまったんだよ。本当に愚かなのは俺だよ。何なんだよ……おれというやつは

ギギ=アンダルシアの好きなところ

①嫌いなところ、で挙げたムーブが本質的に人格に対する軽蔑と詐術であることを正確に把握しており、それを称して“汚い”と考えているところ

　おれはマスターキートンで育った人間なので、内省を持った存在こそが人間であると強く考えてるんですよ。その意味でギギは間違いなく人間そのもの。前半で見目麗しいメスブタがよぉ！とか思っちゃって本当にごめんな………

②クロック数の高すぎる世界と人間への解像度を必死で人類基準に合わせようとしてるところ

　彼女はニュータイプって認識で良いんだよね？高い感受性、観察眼と思考能力。持って生まれたセンサーの鋭さが他者と自分を常に傷つけてきたことと、それが今を持ってトラウマとなっていることがわかる。ハサウェイに世界の速度について語られた時の取り乱し方、あの部分に彼女の人格の急所と歴史を見た気がする。俺は何かを良くしようと必死な人間が好きだ。

③相手が嘘をついた時、本当につまんなそうにするところ

　会話の中で詐術や駆け引きを相手が用いた時、ギギは本当につまらなそうにする。もちろんそれは彼女のセンサーの鋭さに担保されたものではあるかもしれないが、世界が嘘まみれであることを前提とするとちょっと見方が変わってくる。彼女の中の、本音を話し合えている瞬間の価値ってのは多分、俺のようなオールドタイプには分からないくらい高いのだと、可視化された“分かり合えなさ”の中にいるのは酷く息苦しいだろうと思ってしまった。

④ありえんエロい

説明要るか？結局これなんで始末が悪い。男、愚か（クソデカ主語

　本能と理性の狭間で、愚かな男の感性を真っ二つに引き裂くファムファタール。関わってはいけない。冗談めかして未練を語ったハサウェイはその実、慧眼だ。俺も本当はケネスのように「ティーンエイジャーのようにドキドキはしない」と余裕たっぷりでありたい。なんか猛烈に不安になってきた。このアニメにおいてギギに対して抱くスキ/キライは案外おれは現実の女にも抱いてしまう感情かもしれないからだ。

　東京カレンダーの表紙に出てくるような、手前の財布で鮨を食ったことが一回とてありません、みたいな顔した女が俺は大嫌いなのだけど、そういう子の持つ弱さだとか、確固たる人格の中にあるプライドなんかを知ってしまったが最後、多分俺はメロメロになってしまう気がする。怖い。俺は間違いなく“＃頂き女子”メソッドに死ぬほど弱いことが今日、よく分かった。

　ありがとうギギ=アンダルシア、俺の心を引き裂いてくれて。ぽっかりと空いた俺の心のセキュリティホールが、今自覚できたように思う。守護れるかは分からないが……