不安定な世界に聳える一本の錐と震える少女と揺るがぬ悪魔(Thisコミュニケーション5巻雑感)

最近ジャンプコミックスで一番楽しみにしてるthisコミュニケーションの新刊が出た。あまりに美しいラストだったので雑感だけメモっておく。本文はネタバレします。

今一巻無料なんで気になる人は是非読んでほしい
https://jumpbookstore.com/ext/2112/thiscommunication/index.html


 まるでBUMP OF CHICKENの『ハンマーソングと痛みの塔』そのものだ。確かな実力と未熟な精神、積み重ねたハリボテのプライド。よみは本当は見た目よりもずっと賢いし、思ったよりも仲間たちをずっと仔細に観察している。本当は彼女だって感謝と助け合いの輪の中に居たいし、異質そのものである自分のことを認めてやりたいのにそれが出来ないでいる。今巻のラストでハントレスとして隔絶した力を身に付けたにもかかわらず、その全てを一度手放す選択をしたのはきっとそういうことだ。力だけで自分を肯定するのも、仲間から愛されるのも無理があるって痛いくらいに分かってる。

 わかっているのは本人と、僕ら読者と、悪魔だけだ。


 『毎号最低を更新する主人公』『近年稀に見る外道かと思ったら主役だった』と名高い僕らのデルウハ殿は人情の欠片もないくせに人情を理解し切った悪魔だ。吉永はアホだが気持ちはわからんこともない。ラストの問答のデルウハ殿の答え、その言葉のうちにみなぎる力強い響きが俺にも聞こえる。力強くなくてはダメなのだ。

 「ねえ、デルウハ? どういうことか教えてくれる?」

 もしもデルウハが言葉を尽くして何かを説明したとしても、言い訳を述べたとしても、あるいは同じ言葉を力無く述べたとしてもデルウハは死んだだろう。よみが求めているものは説明なんかじゃなくって“安心”なんだから。

「こんな俺でも、選んでくれるか?」

ちょっと前にTwitterとかで「告白は一発逆転の手段なんかじゃなくて確認作業に過ぎない」ってネタが流れてきた。この漫画を読み終わった後、俺はひどく納得してしまった。ハイコンテクストな告白で、約束なのだ。ただあまりにも多くの感情が入り混じってこの形をとっただけの告白。敢えて色気や夾雑物を取り去ったエッセンシャルな意味を述べると「助けて。なんとかして」「任せろ」そういったやりとりが交わされたに過ぎない。


最後のよみの一言が「そうかもね…」で終わることまで含めて完璧だ。ここで「そうである」と答える独立した人格であればこんな葛藤はなかった。不安定な世界に怯える一人の女の子が、まだ決断のコストすら背負えない弱さ。3人のハントレスを相手取って一方的に勝利するアンバランスな強さ。心の弱さの全てをデルウハに預けるしかない、ロック鳥の雛鳥こそがよみなのだ。


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