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FGOイド雑感:他国の土俵での相撲の取り方、あるいはアベンジャーズエンドゲーム(誤用)への覚書

 Fateというコンテンツが“奈須きのこが創出したプラットフォームを基底においたアンソロコンテンツである”というのは一面として事実で、またそうしたアンソロジーへの取り組み方ってライターによって結構差分があるよね。ライターさんによって得意なこと、苦手なこと、特色……名前が表に出ているもの、出ていないものも込みで色々あるけど、Fate自体は20周年、FGOすらもう九周年を控えるこのコンテンツには膨大な量のテキストが組み込まれているわけで。今回は“奏章Ⅱ・不可逆廃棄孔イド”を契機に、自分の中でそこらへんの、知ってる限りの雑感みたいなものを吐き出してみようかなって思うんですよ。誰が何かいてるかとか名前出てないものもあると思うんで想像も込みで。
 イドのネタバレはまあ、ちょっとあります。

・成田良悟について

まずこの聖域に切り込んでやろうという熱意がすごい

 やっぱすごいよねこの人。何がすごいって“他人の土俵で相撲取る天才”だと思う。現状、奈須きのこその人の筆以外で最も納得するギルガメッシュ像を捉えてるんじゃないかな……。加えてデビュー作からむこう、磨いてきた群像劇の説得力を遺憾なく発揮してて、常に新キャラが乱入してくるのにそれらが置いてきぼりになっていない。このバランス感、物語の体幹の強さ、一体何なんだろうな……??


・鋼屋ジンについて

 “他人の褌で相撲取る天才その2”。換骨奪胎の天才。すげえのは元の味を殺さないまま自分の味付けをする能力の高さ。元の物語の持っていた構造を調理してバタフライエフェクトを生み出す魔術師。

今見ても超絶カッコいいジャケット

 考えてみたらそれもそのはずで、そもそもにおいてデビュー作である『斬魔大聖デモンベイン』からしてクトゥルフの大胆な翻案にメカとロボをぎちぎちにぶち込んだ極上の闇鍋だったわけでむべなるかなというところ。この人、装甲悪鬼村正のアンソロも黄雷のガクトゥーンのアンソロもマジで傑作なんですよね。一体何喰ったらこんなに物語の骨子を解明出来るんだろ。


・東出祐一郎について

竜刻令呪はマジの大発明

 アポクリファっすよね。あとたぶんオリュンポスの前半も。
 このひと好き嫌い別れると思うんだよな~。とにかく筆とキャラクターに熱を乗せるのが圧倒的な強みであって、一方で“沢山のキャラの整合性を取りながら動かし続ける”ってことはあんまり得意じゃないような気がしてる。なのでアポクリファって楽しく読むために“推しのペアを作る”必要があって、それって群像劇的にどうなの?って気はしないでもないです。俺の推しコンビはもちろん獅子GO&モーさんです。当然だよな!?

俺は九鬼先生推しです

 一方で描写される範囲がギュッと締まると途端にソリッドな切れ味が増すライターさんなんじゃないかなってめっちゃ思うんですよね。瞬間最大風速はホンマにすごいと思う。限られた登場人物が次々に目的地を巡っていく、スペクタクル度の高いタイプの冒険譚シナリオについては頭ひとつ抜けてる。


・虚淵玄について

 いや~。色々あると思うんですよ。でも一つ、どうしても言いたいことがあって。
 虚淵大哥、“自分の色を我慢できない人”でしょ?他人の褌で相撲とるの絶対下手だと思うんですよ、書きたいことが先行するタイプだから……。ゴジラ描いてもゴジラじゃなくてハルオじゃない?みたいなのはよく言われてる。なので前日譚を書いても結構本編と不整合が出たりする(内容自体は普通にめっちゃ好きですが……)。昔ね、ダンロンの小高和剛さんがトゥーキョーゲームスを立ち上げた時に関係者からお祝いのメッセージが寄せられていたんですが、そこで奈須&武内コンビはがんばってダンロンV3のネタバレに配慮してるのに虚淵アニキはもう滅茶苦茶色々書いちゃってるんですよね。暴れん坊将軍か???

 そんな我慢できないマンだから、“やりたいこととやるべきこと”が一致したときはマジで凄いよな。シンって
“完璧な機械は恋をし得るのか”
“人間存在とはいったい何か”
といった型月の最初に持ってたテーマ、シンで描かねばならないテーマと虚淵作品自身が持ったテーマの結節点みたいな章だとおもうんですよね。完全無欠の真祖は死んで初めて恋を知るし、精強無比の武将機械は壊れて初めて使命に背く。そして、機械の玉体を喪い人の血潮を取り戻した始皇帝は拳での決着へ臨む……。彼の中に深く根を張った“答え”にバチっとハマった稀有な事例だと俺は思うんすよね。


・桜井光について

これが桜井の筆じゃなければ俺を木の下に埋めろ

 話がようやくここに来た。今回一番書いておきたかったこと。桜井光とアンソロジーについて。

漆黒のシャルノス、傑作です

 なんというか桜井光の強みってアンソロジーでは絶対活きない強さだと思ってたんですよ。それは偽史すら生み出す強固な世界史知識と、隅々まで目の行き届いた世界観の構築に依拠する繊細な物語だから。他所の土俵で全力の出せるひとじゃあないと思ってたし、実際その予想はそんなに外してなかったと思う。セプテムにおけるアルテラの登場とか、ロンドンにおけるアルトリアオルタの登場とかも何故??ってなりません? ここ最近に近いところだとオリュンポスにおけるロムルス・クィリヌスやアレスの登場なんかもそう。深掘りしてみるとなるほど道理の連鎖召喚だったりするんだけど、ライター側と俺というあほの知識ベースの乖離からくるポカン感みたいなのも結構多くあったりするわけですよね。

雷の大鳥はどう考えてもファンサだろ

 そんなわけで、スチームパンクシリーズのにわかオタクの俺としては“のびのび書けてないんじゃないかなぁ”などと要らん心配をしてたんですよ。そしたら今回のシナリオでぶったまげてしまった訳です。今回彼女がやったこと、いわば“アンソロ世界観の中に自分の陣を敷いた”んですよ。監獄島からむこう、営々と積み上げてきた“Fate世界観の中の桜井陣”。これをベースにすれば、自分の相撲が完全に取れるってことに気づいたんじゃあないかって。


M……じゃあない!?

 そうして打ち出されるのは、磨いた短文表現をリフレインさせる正拳突き。黒の王の物語、夢の世界の車掌の旅の物語……桜井光が自作のシリーズでやってきた必殺の取り口ですよ。今回の奏章Ⅱ、ぼくは“見えざる黄金瞳”を主人公の眼に見たような気がします。復讐者達は、そんな彼の輝きに惹かれ、共に戦い、そして眩しそうに目をすがめるわけですよ。ここで初めて気づくわけです。先ほどのシンの話じゃないんですが、“完全に描きたいものを書きながらもFateの復讐者達の終着点としても成立してる”ってことに。

 長い時間をかけて他国の中に自分の領地を築く。こんな自由の作り方があって、それを以て衝撃と感動を与えてくれた桜井先生に感謝を述べて、結びとしたい。これで俺がハズしてたらめちゃくちゃかっこ悪いので、友人知人諸氏は俺を木の下に埋める準備は忘れないでくれ。

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