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ヒトの童貞で遊ぶな
はじまりはひと月ほど前、突如母からもたらされた不気味な決定事項だった。“あんた、今度女の子と飯を食ってきなさい”。いやどういうことだと問い詰めても口を濁すばかり。散々問いただした結果、母の友人の娘の友達が今彼氏と別れてしまったので日にちを決めて食事に行ってこい、女の子に慣れろとの事だった。おれはこの謎の条件と歯切れの悪さに一抹の不安を覚えつつ、しばらくご無沙汰していた素敵なレストランを予約した。
果たして待ち合わせに現れたのは母の友人その人であった。おれはこの人に大変に恩があり、またとても好きなので普通に一緒に食事をした。
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食事もそこそこ進んだところで本題に入る。コレは結局どういうことなのか。母の友人曰く“しばらく前の飲み会でエイプリルフールネタをやりたいなって思って、だけど4/1は平日だったのでこの日に仕掛けた”とのことだった。なんのことはない、おれと食事に来てくれるかもしれない女の子などこの世に存在しなかったのだ。めでたしめでたし。
そんなわけあるか。
俺は母の友人に大変に恩があり、よってその人の紹介してくれた人に粗相のないように、おれの知る限りで、おれが会計を払える範囲内で、かつ予約が取れる範囲内でもっとも素敵なお店を選んだつもりだった。おれという詰まらない人間との会話に付き合わせてしまう迷惑という意味も込めて、おみやげにちょっと有名なエッグタルトのお店に一時間くらい並んでブツを用意した。
母の態度の歯切れの悪さに何かの陰謀のにおいを感じ取れないことも無かった。極端な話、そこに来てくれる人は仕掛け人か商売女であることも予測したし、そういう嘘がなかったとしても食事中にもスマホから目を離さない失礼な子が来てしまうような、残酷な想像も済ませていた(俺がアトラクティブな人間じゃないことにも原因の一端はあろうという考えから)
だがまさか、それらが完全に嘘であり、意思主体が母と母の友人しか存在しないとは思わなかった。おれは今日の為に大好きな映画「リベリオン」の復刻公演をあきらめて、九州から用事で来てくれた友人の参加する飲み会も断ったんだぞ。
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解散後、保っていた虚勢もだんだんと剝げ落ちて、おれは秋葉原の友人たちの飲み会会場に向かった。二次会のHUBで散々笑いのめしてもらって、母親の為に買ったエッグタルトもメンバーに食べてもらって、サッカー見たりアジカンの話したり、浅野いにおのファンの女は絶対に性病って話をして解散した。
友人たちにもらったエネルギーは帰りの電車で一人になってから徐々に目減りして、帰宅したときにはすっかりなくなってしまった。母親に「もう二度としないで」と言ったとき、口から出た言葉の温度のなさにおれ自身が驚いた。
ヒトの童貞で遊ぶな。もう二度と。
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