見出し画像

今宵全ては君のもの(エッジランナーズちょろっと感想)

 今めちゃくちゃ混乱している。『サイバーパンク エッジランナーズ』を見終わって、まあ俺は最高に楽しめたんだけど、とにかく自分自身の中でどういう立ち位置を占めているのかを説明できなくて、これは書きながら整理していくしかないなと。原作であるサイバーパンク2077についてもあんまり知らないしね。

以下、ガッツリネタバレです。





画像5

 本作は俺の乏しい知識で敢えて類型すると「アメリカンニューシネマ+セカイ系ボーイミーツガール+サイバークライムアクション」みたいなごちゃ混ぜ盛り沢山アニメで、あるいはこういった作品を受け入れられない人もいるかも知れないが……。だって割と嫌がる人多いじゃん、何処にも辿り着けない人が出ちゃうタイプの物語。


 でもね。俺はやっぱりこの物語ってハッピーエンドだと思うんですよ。完全無欠の、とは言わないけどさ。俺にとってのエッジランナーズって文字通り“エッジの先でこの世の全てを手に入れた少年少女の物語”です。


 My moon,My man
 誰だってちょっとした全能感に酔う事はある。目に映る景色の全てが祝福に満ち、広げた手が夜空の端まで届くような心持ち。それが誤解だと気付くまでの数瞬、僕らは世界の支配者になる。だけど時折、それを誤解なく成立させてしまうヒトがいて、それは多くの場合エッジの向こう側に飛び出したヤツなのだ。



 アラサカタワーの頂点から落下するデイビッドとルーシー。ネオンと、夜空と、月と、男と。エッジの向こう側からほんの少しだけ戻ってきてくれた愛が目の前にあって、今全ては彼女のもの。
 男はそんな女を見て、彼の全てが叶っている事を知る。母と、恩人の夢になって生きてきた男が、自分の幸せを手に入れる。

 ただ、女が全てを手に入れた時間はほんの数瞬の事に過ぎない。サイバーパンクとしての荒事屋の日々にも、蜜月の日々にも男はいた。全てが終わった後にも、月は依然としてそこにあった。月と男が重なり合った一瞬は女に何を残したのか。最後の女の表情に、俺は何を見ればいいのか分からなかった。


Like A Boy

 最終話を観た俺は、涙でダルダルになりながら、ありし日の二人を眺めに2話へ戻った。BDのシーンの前の会話をもう一回聴く。

画像1

「それが母さんの望みっていうか、夢ってやつ、だったから」

「それって他人の夢じゃん。親子って別々の人間でしょ?アンタ他人の夢のために生きてるの?」

「それってダメな事なのかな?」

「夢は他人のものじゃないわ」


 ナイトシティは悪徳の街だ。キーウィの言う通り、この街では騙される方が悪いのだ。実際、殆ど全ての登場人物は加害者でもあり被害者でもある。アラサカの重役や、フィクサーですらその理から逃れる事は出来なかった。

 だからこれは、本来あり得ない出会いだったんだろう。突如目の前に現れた、頭のネジの外れた男の子。ナイトシティで生きてるくせに、ごく自然に「誰かのため」をやれる男の子。気だるげで、妖しげに煙を燻らせる仮面の裏で、女の子を襲った衝撃の事を思う。


Lucky You

画像2

「嘘よ、アンタは飛び出すわ。だれにでも、反射的に、考えもなしに。そういうヤツ」
「死んでほしくないの」

 女が暗闇の人生で出会った宝石のような男が、自分の夢を叶えると誓ってくれた時、そこに去来した巨大過ぎる喜びと、その裏で下された密かな決意と、ジレンマを想う。女が愛する男の輝きは、強まれば強まる程に男を死に誘うものである事は明らかで。だからこそ女は自らもエッジの上で生きる事を決めたのだと思う。


私の月、私の恋

画像3

 再びここに戻ってきて、俺はようやくいろいろなことに納得出来た。他人の夢の為に走り続けてきた男が、自分の夢を女に託した。夢は他人のものじゃないと言い募ってきた女が、初めてバトンを託された。要するに、シンプルに、そういう話なのだ。女は今、男の夢になった。


 “どこか遠いところ”の極北で、女は太陽の光を浴びる。複雑な感情に彩られた笑みに、けれども俺は希望を見たい。だって、女の戦いはまだ終わってないんだから、せめて、エッジのその先で。



余計な話:レベッカさんとかいう今世紀最大の負けヒロインについて

画像4

 ルーシーは表面的な妖しさ、クールさの内側に少女を隠したヒロインだけど、レベッカさんはもう全く逆。なんなんだよ、見た目も言動もクソガキの癖に態度と内容は完全に地に足のついた大人そのもの。もう台詞を列挙するだけで好きになる。本当に好きになる

「なぁ、ちっと歩こうぜ?」
「女を見くびんなよ?」「女?」「ぶっ殺すぞ」

「ま、あーしがそんだけアンタを見てるってことなんよ」
「関係ねーことあるかよ、アンタに命預けてんだぜ?」「マジで言ってんだけど」
「兄貴を殺したサイバーサイコ野郎、覚えてる?アンタは、あんな風になっちゃ嫌だよ」

「答えになってねぇ、そんなものインストールするなっつってんだよ!お前そろそろぶん殴んぞ!?」
「無事で良かったよ!デイビッドが喜ぶからな……」


 レベッカさん、本当にずーっとデイビッドの事が好きじゃんか。だけどレベッカさんの行動基準はひたすらに「デイビッドが幸せになること」なんよ。もうデイビッドが助からないのは薄々分かってるから、レベッカさんはデイビッドを幸せにした上で、彼を看取るために戦ってんだよね(別に死兵になろうとしてる訳じゃないのはレベッカさんの性格からは読み取れて、そこが彼女の良いところだと思う)


 ほんと、びっくりするくらい良い女なんすよレベッカさん。だけど、レベッカさんには本当に、本当に申し訳ないんだけど

「デイビッド!デイビッド!!わかる?私よ、ルーシーよ!デイビッド、戻ってきて、戻って……」


この、“戻って……”のところの声の揺らぎに無限に泣きまくって、解らされるんですよ。“ルーシーが正ヒロイン以外有り得ねえ”って事がヨォ……!


余計な話2:“悪女”の薄皮

画像6

 視聴者を2話目にして虜にするルーシーだけど、彼女の凄いところは、デイビッドにとってのファムファタール然とした有様がマジでごく表層的なもので、実際はちょっとないくらい生真面目な部分を持っているところだと思う。

 BDで自分の大事な想いを見せるわ、メイン達を呼んだ後も「部屋が汚れるからやめて」「サンデヴィスタンはちゃんと使えてた」等の平静を装った援護射撃を擦りまくってる。結局のところ無事でいられて、部屋を後にするデイビッドを見送る胸中が穏やかなものではなかったことは4話でついに自白した。危ない女の顔は、ストレッチャーで車道に降りた時に一緒におっこどして、あとはどんどん色んな顔を見せてくれる女の子になる。

こんなん惚れない方がおかしいんだよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?