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雑記:エヴリシング・エブリウェア・オールアットワンス

 奇妙な映画を見た、というのが正直な感想になるかもしれない。

 いわゆるマルチバースものってなんというか“重い”よね。それは設定とキャラクターの物量の重さなんだけど。そういうものを改めて認識したというか。以下、ネタバレありで書いていきます。


 例えば『スパイダーバース』なんかは出てくるのスパイダーマンだって我々は了解してみるわけで。あるいはこれは昨日見たんだけど、グリッドマンユニバース(これはストレートに面白かったのでなんか書き残す予定)なんかもキャラのことわかって観るし、マルチバース的な概念はあれど二つ、三つの世界と相互作用にについて分かっていればおおむね問題ないわけ。つまり、既知のキャラクターに、あくまで絞られた世界の重なりを描くことによって本来は重たいマルチバースものに関わる情報を圧縮している。じゃあ“未知のキャラクターで”、“大量の世界の存在を提示する”原液のようなマルチバースを映像でやったらどうなるの?答えがこれだ


公式のサイケデリックなポスターデザイン。マジでかっこいい

 もうめっちゃ重たいのである。もし見に行く人がいるなら体調を整えて、頭がクリアな状態で行くことを勧める。これは大反省ポイントなんだけど、大量に炭水化物を入れて観に行ったことはガチの失敗だった。


 テーマ自体はかなりクリアに示されていて、読後感的なものはめちゃくちゃいいです。宇宙全体の、マルチバースの危機という大風呂敷から収斂する母と娘の親子喧嘩。すべての次元においてジョイはジョブ・トゥパキになるのであれば、まさに全ての次元における同時多発的な親子喧嘩でもある。極大と卑近が等価になったカオスの中で、それでも敢えて選び取るのなら“幾億の世界の中の貴方”、そんなお話だったんだと思ってる。

 エヴリンの序盤の忙しい空気、マジで“忙しいだけの無能”感出ててめちゃくちゃいやな気持になりましたね。身に覚えがありすぎて。一個一個の仕事を完結させないで次に、次にって向かっていく結果完璧に終わってる仕事が全然ないの。“最低の世界の、夢がかなわなかったエヴリン”って説得力が半端ない。

 娘のジョイの演技の、繊細なティーンの心情表現はマジでめちゃくちゃ良くて、これはどこかでもう一度見直したいなと思わされる。眠い頭で観てしまったのはマジでもったいなかったなと思ったポイントの一つ。いやほんと、大酒飲んで『犬王』観に行ったとき以来の大ポカです。

 アカデミー賞受賞スピーチマジで感動したんですが、キーホイクァンの演技、別次元の彼が乗り移るシーンとかも含めてマジでよかったですね。これだけでも観た価値あったかもしれない。



 この映画、何の予備知識もなく消化するの結構ヘヴィだと思うんだけど

 『なめらかな世界と、その敵』の表題作を読んでおけばかなり理解自体は楽になるんじゃないかなって思う。概念とテーマ性に関してかなり似通ったところがあって、かつこっちは文字ベースなのでゆっくり咀嚼する余裕がある。エヴエヴ観たいけどSF的素養が全然、って人には予習用にもおすすめです。普通にめっちゃ面白いしね。

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