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これも一つのワールドエンドーAC版ボーダーブレイク終了アナウンスに寄せて

 さる6月6日。アーケードゲーマー界隈に一つのニュースが流れた。ボーダーブレイクサービス終了のお知らせである。

 世の中のほぼ全ての人間に関係ない、取るに足らないニュースだ。そして様々な要因から予測されていた、順当なサービス終了でもあった。何も劇的な突然死を迎えた訳じゃあない。しかし、少なくとも俺のような半引退勢の木っ端プレイヤーにとってさえ、そして観測する限りでは多くのプレイヤーにとって、この知らせは衝撃を与えているように思える。

 俺は忘れっぽい男だ。本当は一人思い出を噛み締めるのが格好いいのだろうけど、輪郭が薄れ、ただ暖かい感触だけが手のひらに残るかのような忘却に寂しさを感じるのを止められない。ほんの少しだけ昔の話をしたい。


 俺にとっての始まりはPC巣鴨(現namco巣鴨)の地下一階だった。当時、ガンダムVSシリーズにお熱だった俺が地下二階のコーナーに足を運ぶ途中、見慣れない筐体があった。TPSのロボットゲーム。カタパルトに乗った機体が空を飛び回るその様子に俺は圧倒された。まぁ、空を飛ぶのは当時のバグだったのだけれど、とにかくその軽快な挙動と、多人数で戦うという俺にとっては初めてだったその仕様にいたく心を打たれたのを覚えている。

 早速wikiの情報を読み漁った。大学生は貧乏だからだ。wikiはタダだからだ。パーツのデータを愛する頭でっかちベガ立ち勢になるのに時間はかからなかった。この手のゲームの初心者にありがちな事だが、スナイパーをやりたくて仕方なかった。多分殺されずに殺したかったんだと思う。モハメドアライJr.かよ。


 大学の近くにはラッキーフェリシダという店があって、そこはかなり早い時期から朝クレジットサービスなるものをやっていた。その日最初の客は3だか4だかクレジットを入れてもらえるのだ。これはメチャクチャ大きい。ボーダーブレイクはとても高いゲームだったから。俺は出席単位と引き換えに、無料クレジットでガトリングガンを買って喜んでいた。紛う事なきクズ学生だ。

 こうして書くとまるでボダで人生を捻じ曲げた男のように見えてしまうが、それは違う。逆である。包み隠さず言ってしまえば、俺はこのゲームに命を救われているように思う。感謝こそすれ、恨むなどあり得ない。

 大学で浮遊し、身の置き場が無かった俺を包摂するコミュニティはアルバイト先か、高校仲間のSkypeか、ボーダーブレイクしか無かったという訳だ。したらば掲示板からスタートし、当時隆盛を誇っていた本家ボーダーブレイクSNSへ。幾人か仲間が出来て、リアルに会う機会が増えた。俺は根暗で口下手なので、その界隈で物凄い友人が多い、とかではないのだけれど。その交流は確実に俺を救ってくれていたと思う。


はじめてのオフ会で「こんにちは。くろね子です」と名乗る。恥ずかしい。なんだよくろね子って。俺はロリ巨乳僕っ娘とかではない。元ネタを俺妹の方だと勘違いされるのは様式美になり過ぎて、後の方では話の種にすらなった。本名よりもハンネの方が呼ばれる事が多い日が続いた。

 バージョンアップの朝、津田沼のゲーセンで待ち合わせたわけでもない顔ぶれと挨拶を交わす。ひとしきり遊び、近くのミスドで変更点や新武器について話す。「あの武器は形式はメチャクチャ強いから三段階目来たら化けるぜ」とかさ。当たった時、顔を見合わせてニヤリとする。

 名古屋の仲間に会いに遠征する。学生だった頃に知り合った社会人の仲間には、当時も今も色々奢ってもらったりして頭が上がらない。俺が何かを返せる人間になるのはまだ先だけれど、友達が来た時に酒と料理を出せる程度にはなれたのは少し嬉しい。

 フィリピンに半年、日本を離れねばならなかった時はとても寂しかった。新マップの実装を聞き、いてもたってもいられずTwitterで「リスポン位置どこ??」と聞いたときのことを今もバカにされる。お前実は巣鴨に潜伏していただろう、と。

 仲良かったのに険悪になって離れた相手も、最悪の出会いをしたのにいつのまにか腐れ縁になった仲間も居た。俺のそれは控えめなものだけれど、沢山の出会いと別れがあった。


 実は、ネットワークゲームのサ終に本格的に立ち会うのはこれが初めてだ。今、ボーダーブレイクにはPS4版だってある。やろうと思えばゲームはやれる。にも関わらず俺がこんなにも心を掻き乱されているのは、きっと俺にとってゲームセンターに存在した、あれらそのものがボーダーブレイクであったからだ。“青春ごっこ”をさせてくれたのだ、こんな俺に。


 沢山の世界が生まれ、重なり、消えていく。俺たちに何かを与えたり、時に奪ったりしながら。初めて世界の消失に立ち会う時が迫り、俺は不安になる。だけど日々は続く。その跡地に沢山の贈り物を遺して。

 ありがとうはまだ取っておく。夜勤の月間が終わったら、久々にゲームセンターに喜怒哀楽を表現しに行こう。

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