今だから聴いておきたい９人時代のStray Kidsの曲⑧ 〜Mixtape#2〜
9人時代のStray Kidsの珠玉の名曲「Mixtape#2」。
2枚目のアルバム「I am WHO」の8曲目と、9人のStray Kidsが出した最後のCDアルバム「Clé 2 : Yellow Wood」の5曲目に収録されています。
3RACHAのオリジナル曲「Behind The Light」を９人全員が自分のパートの作詞作曲を行ってリメイクし、デビュー前から現在までの自分たちの想いを歌っています。
Stray Kids "Mixtape#2" Video （歌詞日本語字幕あり）
ギターなどの楽器をやっている方はお気づきのことと思いますが、この曲、ラップとボーカルを取り除くと、一番最初の前奏のギターのコード進行「C→G/B→Am→F」が延々と繰り返されているだけの曲です。
全く同じフレーズが繰り返されているはずなのに、その場で新しい曲が作られているかのように変化するラップとボーカルのリズムとメロディー、「陰と陽」が交互に行き交う奥の深い言葉を綴った歌詞、１編のドラマを見ているような、Stray Kidsの天才的な作詞表現と多彩なアレンジスキルが散りばめられています。
Stray Kidsの「他のKPOPグループにはない音楽性」の象徴とも言える至宝の一曲。
「Mixtape#2」 パート解説
チャンビン
「俺たちが最初に出会った日を覚えてる？
最初の一歩を一緒に踏み出した俺たちは
母親が赤ちゃんの離乳食を作るみたいに
１つ１つのこと全てに気をつかってたよね。」
練習場で初めて練習を始めた自分たちの慎重さを「母親が離乳食を作るみたいに」という表現でラップにしてしまう文才。一つ一つの言葉を丁寧に歌うチャンビン。美しい朗読を聞いているようです。
「人々の反応に対して傷つき時間に追われながら、売れなくなったら終わりという殺虫剤（プレッシャー）を恐れて動けなくなったダニみたい」
と現在の自分たちの姿を暗く描写しつつ、その暗闇の中で自分の情熱が懐中電灯となって前を照らし、９人集まれば（※1）「灯台」となって（暗闇を光に）変えていける、と歌っています。
リノ
「目を閉じないで
後ろから光に照らされている時
前には影（暗闇）ができてしまうから
振り返れば光が待っているんだよ」
伸びが良く、最後にため息が混じるリノの綺麗なソロボーカル。明るい場所に皆を導いていくような雰囲気に曲調が変わっていきます。
スンミン
「ちゃんとできてるのかなってあの頃は色々不安だった。
でも今は９人（※2）を明るく照らしてくれる花たち（STAY？）がいるから
大丈夫ってわかるんだ」
スンミンの包み込むような低音ボイスがサビパートへと引き継ぎます。このように音程が大きく変化するメロディーを力まず自然体で歌うスンミンのボーカルはいつも安心感を与えてくれます。
バンチャン「one for the fame one for the game」
チャンビン「いつでも、彼らみたいに」
バンチャン「one for the way I'm gonna take」
リノ「この歌を口ずさみながら歩いていくよ」
「one for」は長い旅に出発しようとする相手に対して「（成功・無事を祈って）１杯飲もう」といったニュアンスで「one for the road」のように使われます。
自分たちが進む先に待ち受けている「名声（fame）」「勝負（game）」「リスクのある選択肢（way I'm gonna take）」に対し、さあやろうよ、と励まし、飲み交わしているような、バンチャンにしか書けない歌詞。
チャンビンのパート「彼らみたいに」の「彼ら」は、最初のラップパートで歌っていた「最初の一歩を歩み出した頃」の情熱に溢れた自分たち自身のこと。
スンミン「どんなに遠くまで来てしまっても、僕は止まることはできない」
ウジン「暗い影があるのは、そこに光があるからなんだ」
目の前に立ちはだかる影は、過去の彼らが照らす光（栄光）によって作られたもの、つまり、今からそれを乗り越えて光り輝いたとしても、その光がまた未来の自分たちの影となる、ということを暗示しています。
なんて深い歌詞を書くんでしょうか・・・。
２番はヒョンジンのメロディーラップから。
ヒョンジン
「俺たちは同じ光に向かって走り始めた
音楽とダンスだけで結ばれた９人の兄弟みたいな僕ら（※3）
後悔はないよね
疲れてても笑ってチキンを食べたら幸せだった」
「どうしたって世界はCross Walkみたいに白黒分けようとするし、毎日を生きてくしかないよね。気楽に笑って、ただ一生懸命頑張るだけ」
自身は真面目で努力を惜しまない一方で、他の仲間に対しては気楽に行こう、と励ますヒョンジンらしい歌詞です。「Cross Walk」部分のフロウは彼にしか出せない独特なキレの良さ。
ハン
「Hey, we never give up, yeah
we never give up, yeah
we never give up, yeah
絶対に諦めない
Oh, I believe my family
僕たちには光がさしている
全部乗り越えられる
影が僕らを飲み込もうとしても
絶対に諦めない」
暗闇を貫く光のような「Oh, I believe my family」からの力強く頼もしいハンのボーカル。
デビュー前から現在まで、明るい性格と、天才的なラップとボーカルスキルでStray Kidsをずっと支えてきたハン。暗闇にいるメンバーたちを、明るい光が満ち溢れる世界に導くようなボーカルパートは彼の姿そのものです。
フィリックス
「난 （僕は）wake up （起きる）
내 기쁜 （僕の楽しい夢は）dreams fade away（消えてしまった）
息ができない 頭がいっぱいだ ずっと同じことの繰り返し（韓国語）
내 머릿속에（僕の頭の中から）colorless voices（感情がなくなっていく）
내 마음 속에（僕の心の中には）hopeless choices（絶望的な選択肢ばかり）
このままではいけないことなんてわかってるよ
怖がったり痛みを恐れたりしながら生きていくことなんて（英語）」
韓国語と英語が入り混じる彼の心をダイレクトに表現したような歌詞に載せて、驚くほど暗く不安な気持ちを歌っています。
サバイバル番組中から言葉や文化の壁に１人で立ち向かい、悩み苦しみながら努力し成長してきたフィリックスの心の底から溢れ出したような歌詞が胸に刺さります。
バンチャン「one for the fame one for the game」
ヒョンジン「いつでも、彼らみたいに」
バンチャン「one for the way I'm gonna take」
フィリックス「この歌を口ずさみながら歩いていくよ」
ハン「どんなに遠くまで来てしまっても、僕は止まることはできない」
ウジン「暗い影があるのは、そこに光があるからなんだ」
２番のサビに続いてアイエンの語りかけるようなボーカル。
アイエン「僕にもそういうことあるよ
疲れきっちゃって空を見上げるんだ
ずっと輝いているなんでできないよ
もっと輝くには暗闇も必要なんだ」
声を聴くだけで表情が目に浮かぶようなアイエンの豊かな表現力が、自分の弱さを告白し、どんどん前に進んで行こうとメンバーに「もうちょっとゆっくり歩こうよ」と引き止めるような印象を作り出しています。
ウジン
「だからもう一度思い出して
自分が走ってきた道を振り返ってみて
こんなに遠くまで来たじゃないか
ここで諦めるなんてもったいないよ」
メンバーの入り混じる気持ちを静かに受け止め、大丈夫だよ、と優しく励ますようなウジンのボーカル。
ウジン
「辛い時間はきっと過ぎ去るから
悩みは折って紙飛行機にして
空に向かって飛ばそうよ Fly（飛べ）」
本曲の「クライマックス」とも言えるようなこのパート。雲の隙間から差し込む光のようなウジンの優しく力強いボーカル。そこから大きな青空が広がっていうような爽快感があります（※4）。
デビュー後、Stray Kidsのメインボーカルとして本領発揮する機会が少なかったと言われるウジンが、この曲では自分を開放したような情熱的な歌声を披露しているのが印象的。「Fly」の高音の伸びから、サビのバンチャンとアイエンのボーカルに重ねるコーラスとハモリも美しいです（※5）。
バンチャン
「one for the fame one for the game
いつでも、彼らみたいに
one for the way I'm gonna take
この歌を口ずさみながら歩いていくよ」
アイエン
「どんなに遠くまで来てしまっても、僕は止まることはできない
暗い影があるのは、そこに光があるからなんだ」
全員
「one for the fame one for the game
いつでも、彼らみたいに
one for the way I'm gonna take
この歌を口ずさみながら歩いていくよ
どんなに遠くまで来てしまっても、僕は止まることはできない
暗い影があるのは、そこに光があるからなんだ」
「９人のStray Kidsってどのようなグループだったの？」
という質問への答えが、この「Mixtape#2」に詰まっています。
「Mixtape#2」は、昨年リリースされたアルバム「SKZ2021」で８人バージョン「Behind The Light」として再収録されました（細かい変更点は下の注釈で解説しています）。
「９」という歌詞を「８」にはしなかったStray Kids。
強い結束力と圧倒的なパフォーマンスで世界を魅了する現在の光り輝く８人のStray Kidsを照らしているのは、９人時代のStray Kidsが放った「光」。
その先にできる「暗い影」を、また８人で乗り越えていく彼らにとって、この歌は永遠の応援歌なのです。
【注釈】
※1 チャンビンパート「아홉이 모이면 ９人が集まれば」の歌詞は、８人バージョン「Behind The Light」では「서로를 비추는 お互いを照らし合えば」とアレンジされています。
※2 スンミンパート「９人」の部分は「Behind The Light」では「우리 僕たち」とアレンジされています。
※3 ヒョンジンパート「９人の兄弟みたいな絆 9명의 우애야」の部分は「Behind The Light」では「真の兄弟のような絆 형제들의 우애야」とアレンジされています。
※4 ウジンのパートは、残念ながら８人バージョン「Behind The Light」では、完全にカットされてしまっています。3RACHAが８人の曲に作り直したのであれば、ウジンのパートを不自然に消すのではなく、全体をアレンジしてもっと良い編集ができたのでは、と思うのですが、敢えて「空白を作る」という決断にしたのは、何らかの意図があったのでしょうか（著作権はJYPに帰属しているので関係ないそうです）。私はかえってウジンの存在を思い起こさせるような編集だと思いました。
※5 ８人バージョン「Behind The Light」では、スンミンがサビのボーカルにコーラスを重ねています。ウジンとはまた違った魅力と感動があるので是非お聴き比べください。
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