思い出すことなど(94)

翻訳に関する思い出を「思い出すことなど」と題して、色々と書いていきます。今はだいたい1997年頃の話です...

「犬も歩けば棒に当たる」

あまり使う人のいないことわざ。いろはかるたの最初に出てくるから有名ではあるけれど、使う人はそんなにいないことわざ。しかし、私はこのことわざが好きだ。良い意味と悪い意味があるのだけれど、どちらにも使う。どちらかというと良い意味に使っている。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」に似ているけれど、それとはちょっと違う。鉄砲の方には自分で狙いに行っている感じがあるけれど、犬の方にはそれがない。特に何もあてにせずにうろうろしていたら、思いがけないことに出会う、という感じ。実際、これまでの何十年には、何度もそういうことがあった。

だからって、ことさらにうろつき回ろうとは思わないし、他人にもそれを勧めようとは思わない。悪い方になることも十分あり得るからだ。「雉も鳴かずば撃たれまい」ということわざもある。自分はたまたま何度か「良い棒」に当たったという事実の報告をしているだけだ。

あれはフリーになって2年目のある日。その日は事情あって、とあるお店の開店パーティーに出ていた。カラオケを歌えるお店。ボックスじゃなくて、知らない人も聴いているところで歌う。それを見たり聴いたりしながら、食べたり飲んだりする。

歌を歌うのは好きなので、張り切って歌う。オリジナル・ラブの「サンシャインロマンス」を熱唱し、席に戻ってきたら、隣にいた I さんが話しかけてきた。

「夏目さんって、翻訳をされているんですよね」

―つづく―

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