Time Travel翻訳日記まとめ
最新訳書『タイムトラベル』の発売を記念して、年末からしばらく書いていた同書の翻訳日記を公開します。ご興味あれば。
2017年12月30日(土曜日)晴れ
柏書房の竹田純氏、来訪。打ち合わせ。竹田氏はいつも最寄りのファミレスまで来てくれる。「そういえば、最近、夏目さん、Webマガジン始められたんですよね・・・」と言われる。申し訳ないが、これは竹田氏にとっては地雷を踏んだようなものだ。何しろ、創刊したばかり。こちらは話したくてしょうがない。喜んであれこれ話す。なぜ始めたのか、どうしていきたいのか、云々。話すうち、竹田氏からこういう発言が出た。
「そうそう、今、お願いしているTime Travelですけど。あの本の翻訳日記とか書いていただいて、まったく構いませんよ。むしろ書いてください。どういうことが書いてあって、翻訳するのに、どういうことを勉強している、とか、そういういことを」
「え、いいんですか。竹田さんの実名とかバンバン出しますけど、それでも大丈夫でしょうか」
「はい、是非、お願いします」
というわけで、この第2号から、James Gleick著”Time Travel”の翻訳日記を連載することになった。柏書房から刊行予定。日々の翻訳作業について(可能な範囲で)リアルタイムで書いていきたい。もちろん、早く連載が終了する方が喜ばれるわけなので、ジレンマであるが・・・。
“Time Travel”、これはタイトルどおり、簡単に言えば、時間についての本である。時間とは何か、タイムトラベルは果たして可能か。もし可能だとすればどういう問題が起きるか、といったことが書かれている。科学、哲学、両方のアプローチがあって大変興味深い。しかし、まあ、予想できると思うが、もちろん、翻訳は簡単ではない(簡単な本はないけど)。
・・・あれは、フリーで翻訳の仕事をするようになって間もない頃だ。まだ本の翻訳はしていない頃。神保町でポール・デイヴィスという人の書いた『時間について(About Time 林一訳、早川書房、1997年)』という本に出会った。
そして、それがきっかけでアウグスティヌスの
時間とは何か、誰にも問われなければ私はそれを知っている。しかし、誰かに時間とは何かと問われたら、それは私にはわからなくなる。
という言葉を知った。以来、時間に強い興味を持つようになり、時間についての本を訳してみたい、という思いをずっと抱えていた。だから、この本の依頼が来た時には、来るべき時がついに来たという気持ちだった。個人的には「来るだろう」という予感が当たった感じ。まあ、他人にとってはどうでもいいことなのだけれども。待っていると来る、ということが私には結構ある。
2018年1月5日(金曜日)曇り
いよいよ第6章。「時間の矢」というタイトルがついている。いきなりアインシュタインとか、ニールス・ボーアとか、リチャード・ファインマンとか、すごい名前が次々に出てくる。こういう名前を見ているだけで、どきどきわくわくするのはなぜだろう。難しいけれど、やはり楽しい。しかし、量子力学というワードが出てくると身構えるな、やっぱり。なになに・・・「ミクロの目で見た時、時間の進む方向は定まっていない。『こちらに進むのが正しい』ということはないのである・・・」一方、「私たちが普段、生活をしているマクロの世界では、時間の進む方向は決まっている・・・」うーん、そうなのか。そうなんだねえ。なんのこっちゃ。
余談:くだらないけれど、どの本でも6章を訳す時には、決まって同じダジャレを言ってしまう癖がある。「ろくしょう(6章)と言っても、銅のサビではない…」ごめんなさい…。
進捗115/313ページ。
2018年1月7日(日曜日)晴れ
ついに来た、エントロピーの話。
そういえば、日々、掃除している時にはいつも、エントロピーという言葉が思い浮かぶ。エントロピーは常に増大し続ける。エントロピーが増大する、とはつまり、乱雑さが増す、ということ。ただ、毎日ほとんど座って過ごしているのに、怪獣が暴れまわったのか、というくらい散らかっていく部屋を見ていると、「うん、確かに増大しているね」と言いたくなる。いや、まあここはそういう話ではないよな。
エントロピーが何で時間に関係あるんだろう。と思っていたら、どうやら、そこには「偶然」、「確率」が関係するらしい。物事の変化に偶然が作用する時、その変化がどう起きるかは正確には予想できなくなる。わかるのは確率だけだ。そして変化は不可逆になる。つまり、元へ戻せない、ということ。これは、時間が一方向にしか進まないことを意味する・・・まあ、わかるような気はするけどねえ。なんか騙されてるみたいな。
そういえば、量子力学の話が出たので、ジャン=フィリップ・トゥーサンの『ムッシュー』という小説を思い出した。主人公のムッシューは、あの有名な「シュレディンガーの猫」の話をして、女の子を口説くのだった。あれで量子力学という言葉を覚えた。しかし、量子力学の話をする男を見て、「ステキ」とか思う女の子がいるのかねえ。まあ、いるかもしれないなあ。
追記:あとで『ムッシュー』を調べてみたら、量子力学のくだりは記憶よりずっとあっさりしていた。シュレディンガーの猫の話をするのは映画の方だったらしい。あらあら。
進捗:118/313ページ
2018年1月8日(月曜日)曇り
「コップの水を海に注いで、再び同じコップで海の水をすくったとする。すくった水と注いだ水がまったく同じである確率はどのくらいか。0ではないだろうが、極めて低いだろう・・・」なるほど。そういうことか。それが不可逆か。コップの水を海にぶちまけるのは簡単でも、水をコップに戻すのは大変。ハンプティダンプティが塀から落っこちたら、王様の馬と家来が皆でがんばっても、もう元へは戻せないってこと。だから、時間の進む向きは一つで、二つではない。わかったような気がする。え、それでわかった、でいいの? たぶん違うな。まだ半分終わってないから。とりあえず、第6章は訳し終わったぞ。14章あるから、次で半分・・・。
進捗:121/313ページ
2018年1月17日(水曜日)雨
第7章、なんだかいきなりボルヘスの言葉の引用から始まっている。「時間は川の流れのようなもの」なのか否か、というのが話のテーマらしい。何となく著者はこの考え方に否定的のようにも見えるが果たして。
ヘラクレイトスの言葉。「人は、同じ川に二度入ることはできない」古代ギリシャの哲学者、紀元前六世紀から五世紀の人だけど、これ、方丈記やん。鴨長明。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」ってやつ。鴨長明は1155年生まれで1216年没か。平安時代に生まれて鎌倉時代まで生きた。ヘラクレイトスとは、1600年くらい開きがある。時代も、場所もまったく違うけど、同じようなことを考えていたんだね。鴨長明、まさかヘラクレイトス知らないよねえ。ギリシャの存在も知っていたかどうか。いや、意外に知っているのか。正倉院には、ギリシャから伝わった宝物もあったはず。どうかな。正倉院は関係ないかな・・・
進捗:128/313
本書を含む総作業量10枚(1枚 = 400字)
2018年1月18日(木)曇時々晴
びっくりした。マルセル・プルーストが出てきた。しばらく進むと、T.S.エリオット。そして、もしや、と嫌な予感がしたのだが、見事、的中! 出たー、ジェイムズ・ジョイスだ。一部とはいえ、ジェイムズ・ジョイスの文章を訳すことになるとは。最初は『若い藝術家の肖像』でほっとしていたら、やっぱり出てきた『ユリシーズ』。逃れられないな。長年、買おうかどうしようか迷っていた『ユリシーズ』の訳書、買いました。集英社文庫四巻セット。丸谷才一訳。しかたない。いやいや、もちろん嫌ではないですよ。
何を勘違いしたのか、よく「理系の方なんですか」と尋ねられるが、私は文学部出身だ。でも、アインシュタインから話がジョイスに移って、「自分の土俵だ」とほっとするかというと、全然、そんなことはない。こっちも難しい。結局、私は文系というよりも、単なる「勉強できない系」なのだと思う。勉強できたら学者になっとるわい、と開き直ってがんばることにする。
おや、ジョイスの話をしているかと思ったら、予知夢だって・・・怪しい話かな。
進捗:131/313
本書を含む総作業量12枚(1枚 = 400字)
2018年1月19日(金)曇
やたらにT.S.エリオットの引用が多い。本名、トマス・スターンズ・エリオット。大学の英文科にいた時に名前を知った。なんとなくかっこいいからすぐに覚えた。結局、かっこいいのは、T.S.という略称だよなあ。J.D.サリンジャーのJ.D.と同じくらいかっこいい。こういうのって、やっぱり本人が、「俺は略した方がかっこいい」と思って決めるのだろうか。そう思うと、決める時、恥ずかしくなかったのかなあ、とも想像したりする。ペンネームとか、うまく考えられる人はすごいと思う。ラジオに投稿する時のペンネームとか、面白いの多いよね。今は、ラジオネームって言うらしいけど。よく考えたら、ペンを使って投稿する人はほとんどいないだろうから、当然か。高校の時、よく聴いていたラジオ番組で、よく覚えているのは「ハイヤー&タクシー」というペンネームの人。毎週のように読まれていた。「では、ハイヤー&タクシー君からのお便り…」という具合に。あ、関係ない話だねえ。この章はどうやら、時間は本当に流れているのか、それとも過去、現在、未来は、はじめから同時に存在しているのか、ということを論じたいみたい…難しい。
進捗:134/313
本書を含む総作業量11枚(1枚 = 400字)
2018年1月22日(月)曇後雨後雪
大雪だ。積もった。引き込もっていたが、朝は起きるのがいつもより遅かったので作業量は少なめ。やはり5時起きでないと勢いが出ないところがある。今日のところの展開は地味。未来がすでにどこかに存在していて、私たちはただそこへ向かって移動していくのだとしたら、未来はあらかじめ決定していることになる。私たちの自由意志は本当にあるのか、未来は変えられるのか、その問題に果たして答えはあるのだろうか。ということを、しばらく例をあげながら書いている感じ。おそらく本書の中で答えは出ないのだろうけど、このあとどうなっていくかは気になる。
次から次へと色々な話が展開される時は、こちらも乗っていきやすくて、ある意味、楽なのだが、そういう時ばかりではない。本は長いので、時には一つのことをじっくり書いていて、停滞しているように見える時もある。そこでだれてしまうと、読者にも伝わるかもしれない。気をつけなくては。
進捗:136/313
本書を含む総作業量8枚(1枚 = 400字)
2018年1月23日(火)晴
打って変わって今日は上天気。積もっていた雪もあっという間に溶けた。ちょっとつまらない気もするが、外に出られたからよしとする。3日間くらいこもることも覚悟していたから。こもっていても、案外、仕事って進まないものだ。昨日の進捗は実際、良くなかった。
色々な人がいる。いつまでも家にいられる人。というか、何か必要がない限りできるだけ家の中にいたい、という人もいるし、いつでもすぐ、外に出たいという人もいる。私はどちらでもない。うちの中にいるのがどちらかと言えば好きだが、ずっとこもっていると息が詰まる。ちょっと外に出て違う空気を吸うだけで良い考えが浮かぶこともある。外で気持ちが明るくなると発想がガラリと変わったりする。今日は少し出歩いたのに、一日中うちの中にいた昨日よりもはるかに仕事が進んだ。
今日訳したところで印象に残ったのは、言語によって、現在、過去、未来の位置関係が異なるということ。英語などヨーロッパ言語は、過去は後方、未来は前方にあると表現される。日本語もそうだろう。これが逆になる言語もあるらしい。また、中国語(マンダリン)では、過去が上、未来が下になるという。時間は上から下に進むということ。面白いねえ。
進捗:139/313
本書を含む総作業量14枚(1枚 = 400字)
2018年1月24日(水)晴時々曇
今日は今週はじめて5時に起きて仕事。最近、基本的には5時に起きることにしているのだが、そうなると前の日、10時前に寝ないといけない。無理をして、睡眠時間を削ってまで、ということはしない。睡眠を減らせば、その日一日は確かに仕事が進むかもしれないが長い目で見ていいことはない。何しろゴールの見えないマラソンだから、一時的に速くなっても仕方がない。とにかく一定以上のペースをキープすること。その「一定」が自分の場合、どのくらいなのかようやくわかってきた。20年以上やってわかるとは、遅すぎる。
今日は「シュレディンガーの猫」という言葉がついに本文中に出てきた。量子力学の話だ。「特定のタイミングで生きているとも死んでいるとも言える、あるいはどちらとも言えない猫だ。人によっては、猫は生きていると同時に死んでいる、という言い方を好むかもしれない」とある。観察するまで、状態がどうなっているかは予測できない。わかるのは確率だけ。シュレディンガーの猫の場合は、生きている確率と死んでいる確率がどちらも50%ということになる。アインシュタインは「アホか! 神がサイコロ遊びをするなんて!」と怒ったのだよなあ。
これに対し、「どちらの場合もあり得る」のではなく、「どちらの世界も存在している」という考え方もあるという。つまり、猫が生きている世界と、猫が死んでいる世界が同時に存在している。どちらも現実。並行宇宙というやつだ。パラレルワールド。何しろ、「そうではない」と証明するのはとても難しい。もちろん、日常の感覚では、「あるか、そんなこと!」となるのだけれども。
進捗:143/313
本書を含む総作業量13枚(1枚 = 400字)
2018年1月25日(水)晴
氷点下の朝だったが、午前5時(正確には4時45分)に起床。いったん4時に目が覚めて、「ああ、まだ早い、まだかなり眠れるな・・・」と思ったが、実はあと45分しか眠れないことに気づき、絶望。まだ5時起きをし始めて日が浅いので、午前4時は夜中、という観念が抜けない。違う、4時はもうすぐ朝、なのだ。幸い、うちは暖かいので、歌のように、ふとんの中から出たくないー♪ という事態にはならない。ぱっと起きる(えらい)。
今日は、エヴェレットの「量子力学の多世界解釈」の話。エヴェレットによれば、可能性の数だけ世界は存在することになる。たとえば、目の前にドーナツがあるとする。そのドーナツを食べるか食べないか、二つに一つ。どちらを選ぶかでその後の展開は変わる。食べてしまえば、食べなかった世界にいることはできない。食べなければ、食べた世界にはいられない。つまり、どちらかを選択すると、他の可能性をすべて消すことになる。それが普通の人の考え方だ。私たちの日常的な感覚ではそうだろう。毎日、仕事をするけれども、たとえば、10枚翻訳が進んだとして、進んだことは嬉しいけれど、その時間で20枚進む可能性もあったのに(ほとんど無理だが、可能性はゼロではない)、10枚やったことでその可能性を消してしまった、などと考えて辛くなることもある。ある時間、がんばって何かをすることは、それ以外の可能性を消すこと。無数の可能性を消さない限り、何もできない。私はそういうものだと思っていた。
ところが、エヴェレットの考えでは違う。私が10枚翻訳したとしても、20枚翻訳した世界は同時に存在している。何をしても、可能性は消えない。ただ、世界の数が増えていくだけだ。んなこと言われてもなあ…別の世界に自由に行ければいいけど、行けないからねえ。
第7章は今日で終わり。これでだいたい半分。残り7章、がんばろう。
進捗:144/313
本書を含む総作業量12枚(1枚 = 400字)
注文していたユリシーズ、第3号の発売直前にようやく届いた。外が寒かったので、本がとても冷たかった。クール宅急便やな、と思った。
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2018年1月26日(金曜日)晴
今日も5時起床。また氷点下になったが、新たに導入した湯たんぽも使い、ぬくぬくと仕事。
8章に入った。この本に限らないが、英語の本は、何も言わずに突然、他の本の引用を始めることがある。なんでここについているのかわからない””(クォーテーション)があると、たいてい別の本の引用なのだ。それを時には何パラグラフも続けてやる。その後ようやく、これは〜という本からの引用だと明かす。しかもストレートに明かすことは少ない。必ずひねって書いてある。もうさすがに慣れたので、すぐにピンと来るのだけれど、どの本の引用なのか、明かしている箇所を探すのがとても面倒だ・・・。
先日、亡くなったばかりのアーシュラ・クローバー・ル=グウィンのことが書かれていて、ちょっと驚いた。なんだろう、このタイミング。実はこういうこと、珍しくない。世界が俺を観察しているのか、などと思う瞬間。そんなわけはない。これはプライミング、という現象だろうな。詳しくは『Mind Hacks』を参照して欲しい(宣伝)。
あと、「コンピューター」は、元々「計算をする人」という意味だったという話も出てきて、これもなんだかタイムリー。
進捗:150/313
本書を含む総作業量16枚(1枚 = 400字)
2018年1月28日(日)曇
今朝は8時前くらいまで寝てしまった。昨日は帰宅が遅かったので、寝るのも遅かったのだ。しかし、10時前に寝て、5時前に起きる生活がだんだん普通になってきたのか、昨夜も10時くらいから眠くてしかたなかった。あと、結構、寝つきもよくなったような気がする。
今日訳した箇所はアイザック・アシモフの話。アシモフの小説の引用があり(昨日分に書いたとおり、いきなり何も言わずに引用が始まって、あとから引用だと明かされた)、それに引き続いて、アシモフの人となりの説明。引用されたのは、『永遠の終り』という小説。それから、『宇宙の小石』というデビュー作(?)についての言及も。アシモフって架空の物質についての嘘論文を書いたりしているんだね。SFに詳しい人からすれば、今さら何言うてんねん、やろうけど。
資料としてアシモフの本を何冊も注文。アマゾンのマーケットプレースか、ブックオフオンラインにしかない。全部、絶版やん。
進捗:151/313
本書を含む総作業量3枚(1枚 = 400字)
2018年1月29日(日)曇
今朝は6時起床。それでも午前中に割に良い調子で作業が進む。昨夜遅い時間にコーヒーを飲んだが、意外に眠れた。早寝早起きは節制が必要なので、それがなかなかつらい。
中古で注文したアシモフの本が続々と届く。中古なので、あちこちから届く。うちの一冊は北海道から来た。横浜でこんなに寒いのだから、北海道はどんなに寒いのだろうと思いを馳せる。それだけでちょっとした気晴らしに。
今日は、というか8章は、「永遠」というのがテーマだ。永遠を意味する英語、Eternityは「神」という意味にもなる。この永遠は、ただ、終わりのない時間という意味ではなくて、なんというか「時間がない」「時間に関係ない」「時間の外にいる」というような意味らしい。ただ、神が時間に関係のない存在だとすると、色々と矛盾が生じる。神が時間の外にいるとすると、人間の営みを歴史の始めから終わりまで一度に見渡せることになる。それは確かにすごいけれど、だとすれば、人間のすることに神は介入できなくなってしまう。もうすべてまとまったものがあるわけだから、それをいじるというのは変だ。何かをいじって変更しようとすれば、そこに時間が発生してしまう。なるほどねえ…考えたこともなかったなあ。
進捗:155/313
本書を含む総作業量12枚(1枚 = 400字)
2018年2月2日(日)雨
4時半起床。なんだか、4時45分でもまだ遅い気がして、さらに早くした。これが限度かな。これより早いと朝じゃないからね。今日の箇所はずっとアシモフの「永遠の終り」の話だった。
選ばれた人たちだけが入れる「永遠」という機関に属するハーランという男が主人公。「永遠」は過去、未来の歴史を自由に改変できる。彼らが目指すのは最大多数の最大幸福。大惨事を防ぐためならば、少しの不幸は受け入れる。彼らがもっとも敵視するのが核兵器だ。そこで核兵器の開発を防ぐべく歴史を書き換える。ただ、その代償として、恒星間宇宙飛行の技術が永久に実現しないという副作用が起きる。リスクを徹底排除していくと、大きな発展もなくなるという話らしい。
「永遠」は、さらに未来のさらに賢い人たちの工作によって消滅させられることになる。「永遠」が歪めた歴史がそれで元に戻される。
最近の日本の状況なども考えると、色々と印象に残る話だった。第8章終了。
進捗:164/313
本書を含む総作業量25枚(1枚 = 400字)
2018年2月6日(火)晴
今日も4時半起床。4時の日もあったが、さすがに4時は早い。このあたりが限度だろう。これより早いとシフト勤務みたいになるからねえ。午前中が長いと得した気になるのは不思議。夜が早いのはなんだか悲しいのだけれど。
第9章に入った。また『ユリシーズ』の引用があって、それから1936年のサイエンティフィック・アメリカンの引用がある。 こんなことを言っては何だが、引用ってやっぱりめんどくさいね。文脈があっての文章だから、一部だけ切り離して提示されても、どうもピンと来ないことが多い。邦訳がある場合は、参考にさせてもらえて助かる反面、該当箇所を探すのに手間がかかる。それに、訳自体は良くても、今、自分が訳している本の文脈に合う訳とは限らない。なので、実は、既訳をそのまま引用したことってほとんどない。結局、ほとんどいつも自力で訳すことになる。
この章はタイムカプセルの話らしい。あの、卒業の時に埋めて、同窓会の時に取り出したりする、あれだ。「タイムカプセル」という名前がついたのは、1939年のニューヨーク万国博覧会の時だったらしい。最初は「タイムボム(時限爆弾)」という名前にしようとしたのだが、そういう名前の兵器が本当にできていて、物騒だというので改名したという。へえ。
進捗:171/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月7日(火)晴
4時半起床。午前中に16枚進行。平均2.2枚/時。残り4枚はだいたい平均2.6枚/時だった。この、1時間2.6枚あたりが自分としては、速度の上限だろうと思う。2.7の壁は越えられない。翻訳をはじめた頃に比べれば格段に速くなっているから、いずれ3枚/時くらいまで向上するのだろうか。どうかな。難しいかもしれない。指が持たないという物理的事情も出てくるだろう。原子の大きさが壁になってコンピュータの性能向上が止まる、みたいな話。タイピングはかなり速い方だ。タッチタイピングを3日でマスターしたのが自慢。タッチタイピングができるとできないでは効率がかなり違うと思う。ただ、今でも考える方が打つよりも速い。打っている間に忘れてしまう。
今日の箇所は、タイムカプセルは、実は「祈り」に近いもので、タイムマシンとはまったく違うものだ、という話。昔の人が天国や来世に思いを馳せたように、現代人は遠い未来に思いを馳せ、そこに思いを届けようとする。それがタイムカプセルなのだと。噴水にコインを投げて願をかけるのとそう変わらないとも書いてあった。そうかもしれない。科学の知識を持っても、普通の人間の発想にそう変化はないということなのだろうか。
進捗:177/313
本書を含む総作業量22枚(1枚 = 400字)
2018年2月8日(火)晴後曇
今日もタイムカプセルの話。そもそも、古代エジプト文字とかの昔の文字を解読するのに大変な苦労をしているのに、なんで、5000年後の未来の人たちが自分たちの言葉をわかってくれると思うのか、というくだりを読んで、確かにそうだな、と思った。きっと言葉なんか通じない。だから、ニューヨーク万国博覧会のタイムカプセルには、英語という言語のマニュアルをつけたらしいが、そのマニュアルもやはり英語で書かれていたりして、意味ないやん、って感じ。あと、言語の発音は人間の口の中の構造に規定されるから、5000年後の人類に今の英語が発音できるかどうかも疑問、というのもはっとした。
宇宙船ボイジャーの異星人へのメッセージも面白かった。今なら、もっと進歩した媒体で送れるのに、アナログレコード、というのがはがゆいね。しかし、再生の方法もレコードに刻んだっていうけど、これも意味ないなあ。プレーヤーは積めないから、プレーヤーの作り方も説明したりしている。そもそも、「音」という概念がない異星人だったらどうしようもないよねえ。
進捗:183/313
本書を含む総作業量22枚(1枚 = 400字)
2018年2月9日(火)晴
4時半起床。一発でむくっと起きて、ぱっと布団を出て、あっという間に仕事を始めるからえらいと自分でも思う。立派だなあ。誰か褒めて。朝食は6時前なのだが、3枚訳してから食べると、ジャムが猛烈にうまい。やはりブドウ糖が欠乏するのだろうと思う。今日も自分で淹れたコーヒーがうまくて感動。コーヒーが美味しくない日は体調がかなりやばいことになっている。今のところは順調。湯たんぽが手放せなくなったけれど。
スタニスワフ・レムの小説『浴槽で発見された手記』の話が結構、続いた。これも絶版。古本の値段も高騰している。ちょっと困るなあ。この小説は、ある時、世界中の紙が一斉になくなって文明が一度、崩壊して、それからはるか後の未来に紙に書かれた手記が発見される、というお話。紙がなくなったら、恐ろしいことになるね。ほんと、人間は記憶喪失になる。今はまだコンピュータがあるからだいぶましだけど、この小説が書かれた頃は紙がなくなると、建物は作れない、電車にも乗れない。そもそも身分の証明ができない。教育ができなくて、人々は無知になり、迷信がはびこる…怖いことだ。
章の最後の方には、タイムカプセルなんてわざわざ作らなくても、人間は様々な媒体に自分たちの文化の記憶をとどめているから、未来の人たちはそれを受け取れるはず、とが書かれていた。第9章終了。少しだけゴールが見えてきた。次は10章、二桁になると気分が違う。10章で200ページを超えるし。がんばろう。
進捗:188/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月13日(火)晴
朝4時半起床。週末にいったん、疲れのたまったサインが出たが、一日少しスローダウンしたら、復活できた。ともかくまずはこのペースを維持しなくては。20代の後半から翻訳をしてきて、とにかくページを一定に維持することの難しさを思い知った。一時的に極端に速くすることはできるのだけれど、必ず反動が来る。とにかく、ここまでの辛抱だから、などと自分に言い聞かせてがんばったりすると、自分の心と身体が当然のように後から落とし前を求めてくる。「あんたあの時、ここまでの辛抱って言ったよな? そう言われてちゃんとがんばったんだ。あとのことは知らないよ」と言い出すのだ。そうなると、自分の心と身体なのに、なかなか言うことを聞いてくれない。どのくらいまでなら辛抱せずにペースを上げられるのか、どのくらいなら、ずっと続けられるのかを探って四半世紀。最近、ようやく自分の巡航速度がわかってきた。
第10章に突入。この章ではいよいよ「過去へのタイムトラベル」について正面から話をするらしい。これまでも触れてはいたけれど、まだ本格的な話にはなっていなかった。未来へのタイムトラベルの方がまだ簡単なのだと何度か聞いたことがある。過去へ行くとなると、色々と面倒なことがある。
まずこの章で書かれているのは、タイムトラベルのルールである。タイムトラベルの際、何を持って行けて、何を持っていけないのか。それとも何も持って行ってはいけないのか。何も持っていけないとしたら、服も着て行けないのか、うーん、どうなんだろう。
進捗:194/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月14日(水)晴
4時半起床。今日は嘘のように体も頭も軽い。いったん、スローにしたのがやはり良かったらしい。復活というか、さらに良くなった感じ。生身だからね。機会じゃないからどうコンディションの中整えるかが本当に大切。とは言っても、完璧に先が見えるわけじゃないからねえ。
今日訳した箇所は、過去に戻って、有名な人物に会う、有名な事件を目撃するという類の小説やドラマがいつ頃生まれたかという話。意外にこれが最初、というのがはっきりしてるんだな。日本でも最近では、あのタイムボカンの現代版みたいな形でそういうのやってる。
中にはタイムマシンなど使わず、自己暗示だけで、時間をさかのぼる、なんて小説もあるらしい。たとえば、100年前にさかのぼるとしたら、この100年の間起きたことを頭の中で消して、目の前の景色がどうなるかを想像するということみたいだ。これなら誰にでもできそう。
進捗:199/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月15日(木)晴
4時半起床。起きてみたら何だか暖かい。助かる。気分が明るいとそれだけ力が出やすい。
400字刻みで長年、仕事しているのだが、ようやくこの頃、100字がどのくらいか感覚でわかるようになってきた。今さら、なんて言わないでね。100字がわかると、それが4回で400字なので、何となくマイルストーンが近く感じるのだ。重い荷物を持っている時、次の電柱まで、次の電柱まで、と思いながら歩くのに似ているかもしれない。
今日は、過去へのタイムトラベルを題材にした小説や映画の例がいくつもあげられていて、その中に「ミッドナイト・イン・パリ」があったのが何とも嬉しかった。ちょっとガッツポーズが出たほどだ。とにかく、これまでに見た映画の中でもベスト5に入るくらい好きで、ブルーレイもDVDも持っていて何度も繰り返し見ているから、紹介文も全部読まなくても何が書いてあるかわかるくらいだ。いや、もちろん全部見るけどね。こういう時は、張り切って余計なことを書きすぎないように注意。知っているもんだから、つい情報を補いたくなるのだ。気をつけないとね。
進捗:205/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月16日(金)曇り時々晴
4時半起床。さすがに金曜日は少しよれよれしているけれど、昨日よりも少し速いくらいのペースで進む。土曜日は授業なので、ちょっといつもとリズムが変わるのがリフレッシュになるのだろう。それを楽しみにする気持ちがあるとなんとかがんばれる。
目下の懸念事項は、野球が開幕してからどうするかということ。ナイトゲームだと9時半とか10時とかまで試合があるので、それを見てから寝ていたのでは、4時半には起きられない。がんばっても6時が限度だろう。せっかく日の出が早くなるというのに、もったいない。録画でいい場面だけを見るという手もあるが、リアルタイムで見るのがやっぱり一番だし。どうしようかな。その時に考えよう。今はまず目の前のことをしなくては。
今日の箇所では、誰が見ても「良くない」と思える歴史なら、改変してもいいか、という話。たとえば、ヒトラーという人物を時代をさかのぼって暗殺してしまう。なんらかの操作をしてそもそも生まれないようにしてしまう、というのはありなのか。また、実際にそれで歴史は変わるのか。これは小説や映画の人気テーマで、これまでにもうたくさん書かれ、作られているようだ。作品ごとに見解はばらばらで面白い。単に歴史は変えられない、といっても、その理由は作家によって様々だ。面白かったのは、時間は個人的なもので、私の時間とあなたの時間は違っている、という見解だった。たとえ私がタイムマシンで過去に行って、ヒトラーを暗殺しても、私の歴史はそれで変わるかもしれないが、世界の歴史はまったく変わらない。宇宙には人の数だけ時間がある。時間は、同じ鍋の中のスパゲティのようなものだという。わかったようなわからないような。
進捗:209/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月19日(金)曇時々晴
4時半起床。9時半頃床に入るもなかなか眠れず、午前1時頃までは起きていたような記憶がある。しかし、午前1時に床に入ったのとはまるで違う。あまり睡眠不足という感じはしない。夜早く寝るようにしたら、あまり昼間眠くないことがわかった。前は何度も仮眠をする毎日だったのに、この頃はほとんどしない。何か食べる度に15分寝る、みたいな感じだったのに。おかげで時間が有効に使える。
10章の最後は、キングズリー・エイミスの小説『去勢』の話だった。宗教改革が起きず、ローマ・カトリック教会が全世界を支配する独裁体制を築くという小説だ。20世紀になってもそれが続いている。教会は科学を抑圧するので、自動車も電灯もなく、馬車やランプがまだ使われている。
その世界にも、カトリック教会の支配が崩れていたら、というような小説は書かれていることになっていて、それが実在するSF小説と同じ著者、同じタイトルだったりする。内容は違う。そして、そこに書かれていることも、現代の現実社会とは違う。
あとはル=グウィンの『天のろくろ』が引用されていた。夢を見ると、現実がそのとおりになってしまう男の話。予知夢とは違う。たとえば、おばさんが交通事故で亡くなる夢を見て、目が覚めると、そのおばさんが何ヶ月も前に交通事故で亡くなったことになっている。予知夢の逆で、過去にさかのぼって現実を変えてしまう夢だ。夢を見る度に、別のパラレルワールドに行ってしまうと言ってもいい。歴史は本当に一つなのか、実はたくさんの歴史が同時に存在しているのではないか、といった問いかけがなされる。
10章終了。残り4章。もう少し。
進捗:221/313
本書を含む総作業量25枚(1枚 = 400字)
2018年2月20日(火)曇
この日は書き忘れたので、進捗だけ。
進捗:225/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年2月21日(水)曇時々晴
6時起床。昨夜は外に出る用事があったので、早寝ができず、仕方なく起きる時間もずらした。起きる時間が遅いとやっぱりちょっと調子が狂うなあ。野球が始まってから大丈夫かとまた心配になる。
11章に入った。この章はどうやら論理と数学の話らしい。数学が苦手なので身構える。ついに恐れていたゲーデルの名前が。不完全性定理だ。『シェーキーの子どもたち』を訳した時に勉強はしたけど、やっぱり難しい。あれは確かクレタ島の住人の話とかなんだよなあ、まだそのことは書いていないけど。クレタ島の住人が自分のことを嘘つきだと言ったら…云々。
ゲーデルはループ状になった時間というものを想定したらしい。ループ状ということは、時間がいつか元に戻るから、原因が結果のあとになることもあるということ。また、ループ状ならば時間をさかのぼること、つまり過去へのタイムトラベルも可能だということになる。ほんとかな。
ハインラインの小説『輪廻の蛇』のことも取りあげられている。「小説の主人公は、彼(彼女)自身の母親であり、父親であり、息子であり、同時に娘でもある」って何? 過去へのタイムトラベルが可能になり、別の時代の自分に遭遇できれば、そういうこともあり得るって話らしい。何人もの「自分」が同じ時代にいて、他人のように関わり合う…あかん混乱してきた。
進捗:230/313
本書を含む総作業量12枚(1枚 = 400字)
2018年2月22日(木)雨
4時半起床。肩や背中がバリバリでやばいなあと思ったけど、腕をぐるぐる回してみたらだいぶましになった。これでしばらく大丈夫かな。
仕事を終らせることを至上の目的にすると、目的達成までにすることは少ないほど良い、と感じてしまう。つまり、がんばっていることがすべて無駄、悪、と感じてしまうのだ。それはあまりにつらすぎる。やっぱり少しずつでも積み重ねることを目的にしないと。一文字一文字楽しまないと。
今日の箇所で印象的だったのは、キップ・ソーンとスティーヴン・ホーキングの対立だった。ソーンは、ワームホールを利用すれば過去へのタイムトラベルは理論上、可能だと言ったのだけれど、ホーキングはそれに反対する。ホーキングは「時間順序保護仮説」を唱える。これはつまり、時間の順序に逆らうことをしようとすると、それを妨げる力がはたらくので絶対に過去へのタイムトラベルなどは無理、という説だ。だから、タイムパラドックスも起きないことになる。バック・トゥ・ザ・フューチャーなんかだと、同時代に存在する自分は2人とか3人だけど、SF小説の中には、もっとたくさん共存するのがあるんだなあ。それに、自分が自分の親になってしまう、とかもうわけのわからないのまで。でも、ホーキングができないというんだから、やっぱり過去へのタイムトラベルはできないんじゃないかと思う。
進捗:240/313
本書を含む総作業量25枚(1枚 = 400字)
2018年2月23日(金)曇
今日の箇所は、映画「ラ・ジュテ」の話が中心だった。映画の話を訳すのは特に難しいかもしれない。「ミッドナイト・イン・パリ」のように何度も見た映画ならいいのだけれど、見たことのない映画だと大変だ。視覚的な情報を文字の情報にするわけなので。見たものをどう文字にするのか、やはり文化によって癖が違う。英語話者は、私たちとは違うところに注目して要約していたりする。あと、どうもここだけ意味がつながらないな、他から浮いているな、と思ったら、ナレーションをそのまま書いているだけだったりする。””も何もなしに、地の文みたいに、自分が考えたみたいに、ナレーションをそのまま書くのだ。今回もそれがあった。映像が見られたから大丈夫だったけど。ナレーションにしろ、台詞にしろ、映像があってはじめて成り立つものも多いので、補足情報なしに引用してあるとまったく意味がわからないことがある。訳す時も補足情報を入れざるを得ない。英語ネイティブはどう感じるのか疑問だけど、英語の映画だから、そういう要約の仕方でも何となくわかるということはあるのだろうな、と推測する。
11章まで終わった。残り3章。ラストスパート。
進捗:244/313
本書を含む総作業量13枚(1枚 = 400字)
2018年2月26日(月)曇
4時半起床。外気温は前より上がっているのだが、室温がかえって下がっている。どうやら、外からの影響が遅れて出ているらしい。だから、氷点下だった時期より今の方がよほど寒い。身体がもう、寒さに耐える限界に近づいているのかもしれない。
12章に入った。ついに「時間」とは何か、という本格的な内容に。難しいことに真正面から挑む。重要なのは、時間そのものについて考えることと、「時間」という言葉について考えることを混同してはいけない、ということ。確かにそうだな、と思った。OEDで”Time”という言葉をどう定義しているか、ということが延々書いてあったのも面白かった。本来、何かの言葉の意味について定義する際に、その言葉自身を使うというのは反則である。時間という言葉の意味を定義するのに、時間という言葉を使ったら、単なるトートロジーでわけがわからない。蛇が自分の尻尾を食べているみたいになる。だけど、”Time”に関しては、さすがのOEDも匙を投げ、”Time”を使って”Time”を定義するという挙に出たようだ。たとえば、「時間(Time)」という言葉には、「時間におけるある時点(a point in time)」、「時間の長さ(an extent of time)」、「時間における一定の期間(a specific period of time)」といった意味があるという。確かに、本当にそのとおり。
進捗:253/313
本書を含む総作業量25枚(1枚 = 400字)
2月27日(火)晴時々曇
4時半起床。今日は最高気温10℃を超えたというのに、寒さとの闘いが続く。もう寒さに疲れてしまったのだろうか。対処がまったくできない。厚着をして、ひざ掛けとか色々使っていると、ちょっと動くのも一苦労である。めんどくさいなあ。夏が待ち遠しい。夏は楽だよ。
今日、印象に残ったのは、物理学者の中には「時間など実在しない」と考える人が多い、という話だった。
• 物理学の方程式には、時間の流れが実在する証拠は一切含まれていない。
• 科学の法則は過去と未来を区別しない。
だから、時間など実在しないと類推される、ということらしい。そもそも時間が流れるとはどういうことか。時間は物質じゃないんだから、流れるわけないじゃん、とか。人間は時間を知覚できない、とか。時間を測るのには、時計を使うが、これは結局、ものの動きを時間の流れだと思っているだけだ。「時間とは、時計によって測られるものである」だが、「時計とは、時間を測るための道具である」測るものが測られるものを基準にしている。循環して終わりがない。互いが互いを頼りにしていて、実際にはどちらも頼りない。なるほどねえ。
進捗:260/313
本書を含む総作業量25枚(1枚 = 400字)
2月28日(水)晴時々曇
4時半起床。少しだけ暖かくなった気がする。調べると、もう今日あたりは5時45分くらいから少し明るいらしい。3月になるのだものなあ。暖かくなるのは嬉しいが、早く時が経ってしまうのは悲しい。とはいえ、無為に過ごしているわけではなく、できることはやっているのだから仕方ない。
今日の箇所では、「時間は幻想ではない」という話が展開されていた。物理学では、時間など実在しないと言う人も少なくないが、そんなことはないぞという話だ。物理で時間が存在しないと言われがちなのは、物理が宇宙の法則を解き明かす学問だからだ。すべての法則が明らかになり、現在の状態を完全に把握する方法がわかったとしたら、その時点で未来はすべて見通せることになる。だから、理論上、時間は存在しないと同じになるということだ。同じようなことを思うことはある。会社に勤めている頃は特によく思った。先が予測できる気がしたからだ。先がすべて予測できるとしたら、もはやその時間に意味はないのではと思えて仕方がなかった。今も、綿密なスケジュールのもとに日々を過ごしているとそんな錯覚に陥ることがある。ちゃんと進んでいるのは嬉しいのだけれど、ふと虚しくなるというか。
ともあれ、12章完了。あと2章。
進捗:270/313
本書を含む総作業量25枚(1枚 = 400字)
3月3日(水)晴時々曇
4時20分起床。一日25枚ペースを続けていたら、さすがにそろそろ足に来ている。同じように作業しているつもりで、取り立てて遅いようには感じないのに、何時間が経つと、明らかに昨日までよりペースが遅いのがわかる。一つひとつの動作がほーんの少しだけのろいのだろう。それが積もり積もって大きな差に。こわいなあ。
13章は物語世界における時間、みたいな話らしい。いきなり村上春樹の『1Q84』が引用されていてびっくりした。長いこと翻訳の仕事をしているけど、日本語の本の引用ってはじめてかも。これは英語を訳しても意味ないので、即、発注。全六巻って…何行か引用するだけなのに大出費。いいか。読めば。楽しめるから。プルーストも長々引用されていた。光文社のKindle版を買って、検索かけたけど、見つからない。原語が載っていたのでそれでGoogle検索したら、なんと最後の最後の部分だった。ちくま版を参照して事なきを得た。
あと少しで終わると思うと気が急くけど、まだあっという間に終わる量でもないから歯がゆいねえ。アキレスと亀、の話をまた思い出す。
進捗:277/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年3月4日(日)晴
今日はプルーストの引用がたくさん。原文はパブリックドメインになっているから、ネット上で簡単に見つかるのだけれど、いかんせん、フランス語だ。目の前にしているのは、英訳。英訳も一応、見つかることは見つかるけれど、全部見られるかわからないし、訳にも何種類かあるかもしれない。こんな大長編のごく一部を、どこから持ってきたかも書かずに、当たり前のように引用されてもねえ。該当する和訳を見つけるのは一苦労だ。文書の流れなどもあるので、訳文をそのまま借りることはあまりない。あくまで参考にして、自力で訳す。まさか自分がマルセル・プルーストを訳すことになろうとは。人間の未来はわからないものです。
しかし、プルーストはやはり訳しにくい。こりゃ大変だ。挿入がすごく多いし、一文が長くて係り受けも複雑。試されているような気分だねえ。
進捗:285/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年3月5日(月)雨(嵐)
プルーストが済んだら、今度はフォースターの短編小説『機械は止まる』の話。これは今、邦訳版は絶版でなかなか手に入らないけれど、原書を20年以上前に読んだことがあったのでよくわかった。セーフ。フォースターには珍しいSF小説。未来、人類は地上を離れ、地下で暮らしている。しかも一人ひとりが狭い部屋の閉じこもって。必要なことは全部、「機械(ザ・マシン)」がしてくれるので、人間は外に出る必要がないのだ。他人のとのコミュニケーションもその機械が仲介してくれる。ただ、ある時、その機械に狂いが生じて…というお話。この「マシン」、何かに似ていませんか? という問いかけがなされる。確かに今は、ある意味でこれに近い時代になっているなあ。
4時起床。13章が終了し、最終章である14章に突入。本当にあと少し。このあたりが胸突き八丁だが、がんばろう。
進捗:296/313
本書を含む総作業量18枚(1枚 = 400字)
2018年3月6日(月)晴
4時起床。4時起きだと、当たり前だが、午前中にたくさん進んで気分がいいので、つい4時に起きてしまう。昨晩は9時に床に入った。だいぶ慣れてきたのか、結構、早くからぐっすり眠ってしまう。はっと気づくともう起きる時間。つらい。ただ、夜7時くらいから眠くなり始めるので、早く床に入るのは辛くなくなってきた。節制している感覚がないというか。やっぱりねえ、がんばってるって感じになると長続きしないから、何気なく、やって当たり前って思えるようにしないと。
最終章、イギリスのテレビドラマ、「ドクターフー」の話。過去に行ったはいいけど、帰れなくなった時、現在の誰かにメッセージを伝えるにはどうしたらいいか。手紙を書いて 、信頼できる若い人に託して、その日が来たら指定の場所まで届けてもらう、というのも方法の一つ。バックトゥーザ・フューチャーにもあったなあ。あれは、郵便局の人が届けるからちょっと違うかもしれない。郵便局も半信半疑で届けるんだよな。嘘かもしれないって。
あとはインターネット時代には、未来も過去も現在に吸収されてしまうという話。時間がぐちゃぐちゃになるというのは分かる気がする。
明日には訳了できるかな。ちょっと緊張。
進捗:303/313
本書を含む総作業量20枚(1枚 = 400字)
2018年3月7日(月)晴後曇
やりました。なんとか訳了。いつものとおり、本当に終わらないかと思った。アキレスと亀の話を思い出した。アキレスがどれだけ速く走っても、亀には永久に追いつけません、という話。そんなはずはないんだけれど。残り2ページくらいは一番つらい。2ページなんて一瞬じゃん、と思ってしまうけど、実際には一瞬では絶対に終わらないから、そのギャップに耐えられず。ついには「もう9割9分終わったんだから、終わったでいいじゃんー!」などと叫び出す。リアルに叫んでる。心の中で、ではない。
最後まで来ると、これまでに書いたことをまとめだす人が多いのは当然なんだけど、あれが嫌だよねえ。随分前のページのことなんて忘れているでしょう。なのに、覚えているよね、って感じで書くから言葉がまったく足りない。該当の箇所を読み直すとかしないとどう訳していいのやら、って感じでいらいらする。あー、あともう少しなのに。もう少しってところで、引用をはさむのもやめてほしい。今回はなかったけれど、聖書とかシェイクスピアとか最後の方ではさまれると本当、ええーって思う。
やれやれ、できたと思ったらまだ謝辞があったよ。今回は短かったけど、この人、なに人だろうという名前が多いのは相変わらず。読み方の確認に手間取ってまたいらいら。感謝します、っていう文ばかりだから単調にならないようにしないとね…ふう、終わった…おつかれさまでした自分。いやはや、まあなんだかんだ今回も大変楽しいお仕事でした。
それでは皆さん、お付き合いありがとうございました。これでTime Travel翻訳日記、終了でございます。
進捗:313/313
本書を含む総作業量28枚(1枚 = 400字)
―完―
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