思い出すことなど(72)
翻訳に関する思い出を「思い出すことなど」と題して、色々と書いていきます。今はだいたい1996年頃の話です...
誰かから思いがけなく良くしてもらうと、自分でも驚くほど嬉しくなったりするものだ。普段から優しい人に優しくされるのももちろん嬉しいが、優しいと思っていなかった人に突然、優しくされると必要以上に喜んだりして。本当は普段から優しい人の方に感謝をすべきなんだけどねえ。気をつけないと。
すでに書いてきたとおり、翻訳会社ではずっと薄給に苦しみ、貯金などほとんどないままに退職することになった。売掛を当てにしてフリーになるという、綱渡りのような生き方。バカだと今は思うが、当時はあんまりなんとも思っていない。まあ、大丈夫だろう、何とかなるだろうと思っている。怖いもの知らず。
退職が決まってからしばらくした頃、総務の人に予想外のことを言われた。
「夏目君、一応、退職金出るよ。そんなに多くないけど」
え、なにそれ。退職金って。定年とかそういう年齢の人がもらうんじゃないんだ。へえ。すぐあとに本当に退職金が振り込まれた。明細を見たら、なんと、給料一ヶ月分くらいあった。
おお、なんと、心強いぜえ。もうこれで大丈夫。鬼に金棒(誰が鬼やねん)。
ただ、人生、プラスがあればマイナスもあることをこの時はわかっていなかった。
―つづく―
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