思い出すことなど(65)

翻訳に関する思い出を「思い出すことなど」と題して、色々と書いていきます。今はだいたい1995年頃の話です...

最後の出撃をした時の真田幸村はこんな気持ちだったのだろうか。いや、もちろん全然違うだろうが、そんなことを思ってしまう心境だった。負けるに決まってるのに退却もできず、ただ戦地に赴くしかない立場。そんなことが我が身に起ころうとは。いまだにどうするべきだったのかはわからない。退却するにしてもいつがよかったのか。はじめからまったく動くべきではなかったのか。きっともっとうまくやれる人はたくさんいるだろう。ただ私がヘボだっただけだ。
その日がいつまでも来なければいい、と思っていたけれど、やっぱりすぐに訳の届く日は来てしまった。
怖い。見たくない。でも見るしかない。そっとファイルを開いてみる...

「ああ...」

ため息が出た。予想通り、あまりに予想通りの出来栄えだった。的確に見抜ける自分の力をこの時は呪った。なんでだよ、予想なんて外れてもいいはずだろ、なんで当たるんだ。などと、どうしようもないことを考えてみる。誰にも相談などできない。これをなんとか修正して先方に喜んでもらえるクオリティにまで持っていかねば。精一杯がんばろう。不可能に近いけど。

―つづく―

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?