思い出すことなど(97)

翻訳に関する思い出を「思い出すことなど」と題して、色々と書いていきます。今はだいたい1997年頃の話です...

いよいよ、出版社に挨拶に行く日。その会社は、ゆりかもめのテレコムセンター駅のそばにあった。ゆりかもめって乗ったことないな...新橋から乗り換えるのか。ゆりかもめは新交通システムだ。鉄道ではなく、タイヤで走る。経路の決まったバスみたいなもの。そして、もう一つ大きな特徴は、自動運転ということだ。うわ、すごいな。自動かあ。でも、何かの理由で止まってしまったらどうするんだろう。ここ空中だぜ(実際、のちに停止する事故があった)。小さい車両。結構、窮屈だが、日当たりはやたらにいい。海の上を走るから、何も遮るものがないのだ。途中、結構な数の駅がある。なかなか着かない。

ふう、ようやくテレコムセンターの駅。同じようなビルがいくつも。少し迷って、何とか約束の時間までには到着。

「こんにちは。あの、夏目と申します。編集長にお会いする約束になっているんですが...」

緊張する。出版社に来たなんて生まれてはじめてだ。でも、営業をやっていたおかげで知らない会社への訪問は結構、慣れている。大丈夫だ。

「ああ、こんにちは。はじめまして。編集長の I です」

「こんにちは」

編集長は関西弁だった。それで少し緊張が解ける。少し話すと、出身大学が同じだとわかる。そのせいか雰囲気が和やかに。ついているのかもしれない。

そのあとは、会話の端々に覚えてきたばかりのJava関連の用語をさりげなく(わざとらしく)挟み込んでいった。「知識はあるぞ」というアピールである。そのかいがあったのか、編集長はこう言ってくれた。

「いやー、ちゃんと知識のある人が見つかってよかった。よろしくお願いしますよ」

内心、ほっとしていた。バレなかったらしい(ほんとはどうだかわからないけど)。あとは、これからがんばって本当に知識を身に着けないと。

終始、会話はなめらかに進み、正式に仕事が発注されることになった。編集を担当するNさんも紹介された。

「この本、原書が手に入るまで少しかかるので、しばらく待っていてください。楽しみにしています」

Nさんはそう言った。

いよいよだ...

―つづく―


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