思い出すことなど(68)

翻訳に関する思い出を「思い出すことなど」と題して、色々と書いていきます。今はだいたい1995年頃の話です...

一大プロジェクトは、人海戦術をもって収束を見た。チェック、修正の明確な基準があったようには見えないから、ただ

大勢の人間が原稿を読んだ

という事実によって完了したとみなされた。先方の担当者には、

「夏目さん一人の責任ではないですね」

と言われた。ことを荒立てる、ということはなかったけれど、結果には大いに不満だったはずだ。その証拠に、次の仕事が出ることはなかった。
私は、申し訳ないと思い、反省すると同時に、それまで漠然と抱えていた思いがはっきりと目に見えるほど大きくなっているのを感じていた。

もうここにはいられない。ここにいても役に立てないし、自分も前に進めない。

色々と不安はあるけれども、動き出さなくてはいけなかった。

―つづく―

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