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3000マイル・イン・サーチオブAS「教会にて」#2スゴイ・シスター

これまでのアスキュ:扉を壊したりアサシンに間違えられて十字架ライフル向けられたりしたけどげんきだよ。
あとシンブって名前で神父さんなら神父さんでいいと思うのアスキュだけ?


「つまり…そのアスキュ=サンが扉を壊してしまい、シンブ=サンがアサシンと勘違いし発砲。絨毯に穴を空けた、と…」腕を組み、アルカイックな笑顔で微笑む小柄なシスターの前で神妙な顔で正座する大人(アスキュは身長がやや高いので遠目には大人に見える)二人の光景は子供に叱られる無軌道ペアレントめいており奇妙であった。

「わざとじゃないよー!気づかなかっただけで…」「そうだ!俺はちょっと勘違いしただけで…」「わざとじゃないにせよ、勘違いにせよ」静かに、しかしはっきりとした口調でシスター・アルジは続けた。

「やってしまった事は事実。言い訳の前に、先ずやることがあるでしょう?」「「…ゴメンナサイ」」二人は頭を下げた。
アルジはヤクザスラングで恫喝した訳でもなく、武器を以て脅した訳でもない。それでも二人は素直に謝罪した。これは一定レベルの聖職者に備わるある種のソンケイに近いものであり、マッポーの世で失われつつあるものであった。

「まずシンブ=サン。その銃はそもそも何なんですか?私も初めて見るのですが」シンブは「ジーザスがスゴイ」と威圧的ゴシックフォントで書かれた十字架ライフルを持ち上げて見せた。「自分が作りました。この辺まだヨタモノやヤクザや重武装アンタイジーザス・インディーズボンズ軍団のファッキンアホ共がいるんで自衛に…」「確かに自衛は大事でしょうが…十字架の形の銃は如何なものでしょうか…それと教会で汚い言葉は控えて下さい」「アッハイ…」

アスキュも確かに神父が武装はどうかとか、そもそもそのデザインセンスはどうかと思っていたがそれより何か未知の集団の名前が気になった。「重武装アンタイジーザス…何?」「重武装アンタイジーザス・インディーズボンズ軍団です」アルジが説明した。要は「この世の神はブッダのみであり、クリスチャンは邪悪な詐欺集団である」と主張し、クリスチャンを殺戮し、教会を制圧したのちに要塞テンプルにしてしまう恐るべき新興ブディズム集団である…らしい。

「それでそこのジェネラルボンズ(奴らの首領の事だ。馬鹿馬鹿しいだろう?)が最近調子付いてるらしくてな、月1回のヤキウチが今じゃ週1回になってて隣のストリートの教会は全滅したらしいんだ。そうなったら次はここだろ?アサシンを警戒もするし、武装もやむ無しさ。他にもあるんだぜ装備。聖母型迎撃オートマトンとか…」
「とりあえずシンブ=サンはこれ以上何か作るのを止めるべきということがまずわかった」アスキュは立ち上がった。抗議するシンブを横目にアスキュは続けた。

「アルジ=サン…あなたは"23番"の、シグ?」「……」一瞬にして教会の空気が張り詰めた。「アルジ=サン?アイエッ」シンブは一瞬、アルジが冷徹な殺戮マシンに見えて恐怖した。だがもう一度見ると彼女は険しい顔をしたただのシスターであった。「…あなたは何者なのですか?アスキュ=サン」アスキュはアルジが何かの予備動作に入っている事を察知し身構えた。「別にあなたを捕まえたり殺したりしたいわけじゃない。それはわかっ、て…くれる?」「それはわかります。そのつもりなら私に出会った時点で即座に攻撃してくるでしょう。だから、わからないのです。あなたは何故、私に会いに来たのですか?」サツバツとした空気は無くなったが相変わらず空気は張り詰め、シンブも無意識に身構えた。

「…あなたが"アージェント"で、なおかつシスターなら…最近この辺りで出没する無軌道ツジギリのシスターが、アルジ=サン。ってこと…無い?」アスキュは祈るような目で尋ねた。
然り、この近辺で住民が夜中にシスターめいた何者かに斬りつけられ、死傷する事件が相次いでいる。そしてそれと同時期にこの廃教会をヨタモノから奪還したシスターがアルジであり、居座っていたヨタモノの1人が言うには彼女はカタナを振るっていたという事だった。

アルジはアスキュから目を離さない。「もし、それが、私だとしたら?」アスキュは目を細め、顔を下げた。「アスキュは、あなたを捕まえたり殺したりしたくない。でも…もし、あなたがツジギリなら…」アスキュはカタナの柄に手を伸ばし「ま、マッタ!それは違ェ!!」
「えっ!?」「ほぇっ!?」突然声を張り上げたのはシンブであり、二人はびくりとして彼を見た。
「た、確かにその事件が起きてるのは事実だ。だがその事件が起きてる時、アルジ=サンは俺と教会を修理してり、聖書のよくわかんねぇ所を解説してくれたりな…そ、そりゃ全部の事件の時にアルジ=サンと一緒にいた訳じゃねぇよ。でも…あ、アルジ=サンはそういう事をする奴じゃねぇ!俺が保証する!」シンブは必死だった。理由はわからないがこのままではアルジが自分の理解の及ばない、別の何かになってしまいそうな予感がしていたからであった。

「は、はぁー…そうならそうと即座に言ってよー!"もしそれが私だとしたら"なんて言われたらそりゃさー…アスキュ、アルジ=サンをさー…もー!アルジ=サーン!」アスキュは若干涙目になりながら抗議した。アルジは先ほどまでのアスキュとの落差に困惑していたが持ち直した。
「いえ、実際私は"23番"で間違いないですし、カタナも…」「その23番ってのは何なんだよ!アルジ=サンが実験体か何かみたいじゃねえかよ!失礼だよなぁアルジ=サン!」 「え、えっとそれはですね…」「いや、多分実際…」「っつーかなぁ!」アルジとアスキュが何か言いかけたのをシンブが更に遮った。「扉、どうしてくれんだよ!お前が壊したこれ!」アスキュは言葉に詰まった。経緯はともかく実際扉を壊したのはアスキュなのだ。

「えっと…弁償するよ。ゴメンナサイ」「弁償じゃなくてだな、ここ修理してるのは俺なんだよ!こことかまたつけ直さなきゃだし…アーッ!」シンブは頭を掻きむしった。ツジギリ事件が起きているような地域の、しかも廃墟めいた教会を危険を承知で修理してくれる業者は近隣にはおらず、大工の心得があるシンブが空き時間を見つけて修理していたのだ。特に教会の扉は大きなものであり、小柄でDIYの知識に乏しいアルジには修理は不可能であろう。

「俺だって修理以外にもやることがあるんだよ教会学校のセンセイとか!でも扉が壊れてる状態で重武装アンタイジーザス・インディーズボンズ軍団の襲撃なんざ受けたらひとたまりもないぞ!」「うう…じゃあアスキュはどうすれば…」「あ、それならば…」アルジがふと思い立ち、奥に引っ込むと、大きめのシスター服を持って戻ってきた。
「あ、それ俺がサイズ間違えて買ってきたスペアの…」「ええ。つまり、人手が足りないならば、手伝っていただこうかと」「え?あ、アレー……」アスキュはアルジにやや強引に部屋に連れていかれた…

続く