『LOVE』から『ONE』へ 〜「つんく♂の音楽言語」論に向けて〜

アラザル編集部の皆様

 少しずつ秋の気配が感じられる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

 2015年1月31日に日本で公開になった『さらば、愛の言葉よ Adieu au langage』ってよく考えたらつんく♂の歌詞&楽曲に当てはまるじゃんという天啓により『LOVEマシーン論(仮)』を書かねばならなくなった山下です。
 何しろ劇場で入手した公式パンフレットに掲載のJLGインタビューでも言っているように、邦題では「さらば」と訳されている「Adieu!」はスイス〜南仏地方の方言では「Hello!(こんにちは)」の意味なのである。

--スイスではAdieuは「こんにちは」でもありますね。
そう、ヴォー州ではね。二つの意味があるんだ、どうしても。
(ジャン=リュック・ゴダールインタビュー「シネマ、それは現実を忘れること」より)

 というのも実際、既にハロー!プロジェクトの作詞・作曲以外の総合プロデュースから退陣していたのが判明した最近のつんく♂の曲からは「LOVE」の4文字が消えている。
 しかしハロプロ研修生の「恋したい新党」や°C-uteの「女性中間管理職」などに顕著なように、「LOVE以後」じゃなくて「LOVE以前」の内省・内向的な世界観の「青春小僧」に逆戻りしているのがポイントだというのを指摘したいのですが、元々「ファンク・サウンドに乗せた説教臭くて理屈っぽい恋愛ソング」で国民的ヒットを飛ばす作風だったのが、恋愛の要素が薄れてどこか寄る辺ない寂寥感が漂う説教&苦悩&自己啓発の歌みたいになっている。
 そして今週、タイトルだけ発表されたモーニング娘。'15の新曲がまさしく、「ONE」が付く曲は2012年の『One・Two・Three』以来の『ONE AND ONLY』だったので、そしてこの新曲はNHKの音楽番組「J-Mero」でテーマソングとして使われるタイアップでもあり、これ以前に同番組でモーニング娘が担当したテーマ曲は2014年の『What is Love?』だった。つまり「LOVE=2」から「ONE=1」へ……。

 図らずも、先日の2015年9月15日の安保法制で揉める混乱の最中の参議院公聴会でのSEALDs奥田氏のスピーチ『政治家である前に、派閥に属する前に、グループに属する前に、1人の個人として思考し、判断し、行動してください。』とも呼応する。

私の悩みごときじゃ世は動かん
「恋したい新党」なんてどうかしら
なんだかむなしくなる議論はやめて
今夜は早く寝ましょう
(ハロプロ研修生「恋したい新党」より)

 もちろんその以前/以後の変化には「咽頭癌による声帯摘出」(近畿大学のOBとして呼ばれた入学式での「私も今年から一回生です」というつんく♂自身の発言)という深刻な事情が横たわっているわけだが、それで作者と作品の因果関係が説明し尽くされてしまうわけではない。
 なぜなら創作活動に変化が見られた時期の作品の外のつんく♂氏は「孤独」どころか妻や娘、息子達と闘病生活を支え合う「家庭を愛する父」の姿を強調して発信し続けているからだ。家庭の人格と仕事=(十代のアイドルの世界観を鋭く切り立たせる歌詞のディテールに定評がある)音楽家の人格はそれぞれ別のものだろうというのはそうなのだが、つんく♂氏が今まで歌ってきた「地球大」のでっかい愛と平和はどこへ行ってしまったのか、この奇妙な食い違い。
 しかしこれに関しては、つんく♂氏の実人生に何が起きたのかよりも、一時期の狂ったように量産されていたリリースがようやく落ち着いてきた膨大なディスコグラフィーに即して、作品上の創造行為のプロセスの紆余曲折について具体的に考える方が適切であろう。
 さらに付け加えると、近年つんく♂がプロデュースする楽曲群の目立った変化としては、2014年12月末に発表された解散間際のBerryz工房の『Love together!』を最後にタイトルに「Love」が付く曲は作られていないという事実と並行しているのだが、つんくの内面=「私」性の刻印とカリスマ的・カルト的な人気を誇った道重さゆみの引退(2014年11月)とBerryz工房の活動停止(2015年3月)の後で方向性の模索段階にあるハロプロメンバーそれぞれが直面する「成長過程」がオーバーラップする、日々変化していく彼女らの境遇を想定して「当て書き」したような多義的な歌詞を複数人のフォーメーションで歌う、というのが最近の特徴である。
 というわけで『ズルい女』をクライマックスにしたつんく♂曲メドレーを捧げます。

・えり~な(キャナァーリ倶楽部) 「ドキッ!こういうのが恋なの?」
・Juice=Juice「MAGIC OF LOVE」
・スマイレージ「有頂天LOVE」
・松浦亜弥「LOVE 涙色」
・浜崎あゆみ&つんく「LOVE 〜since1999〜」
・鞘師里保・小田さくら(モーニング娘。)「大好きだから絶対に許さない」
・Berryz工房「あなたなしでは生きていけない」
・スマイレージ「あすはデートなのに、今すぐ声が聞きたい」
・シャ乱Q「ズルい女」
・松浦亜弥「私のすごい方法」
・モーニング娘。「本気で熱いテーマソング」
・モーニング娘。'14「TIKI BUN」
・°C-ute「女性中間管理職」
・モーニング娘。'15「青春小僧が泣いている」
・ハロプロ研修生「恋したい新党」

 ちなみに読む方も半年以上かかっている佐々木敦の新連載『ジャン=リュック・ゴダール、3、2、1、』ですが、自分が最初に『さらば、愛の言葉よ』を観た時の感想と合わせて別の所にまとめます。

“ペアの2は、もちろんまず第一に男女=恋人=夫婦=カップルという設定が挙げられる。ゴダール映画の多くは、ある一組の男女の物語、あるいはある男女にもうひとりの男が加わった三角関係の物語、あるいは幾組かの男女ペアの物語群の組み合わせで構成されている。もっとも、これはヌーヴェルヴァーグの範例というべきかもしれないが。だが、ゴダール自身が、アンナ・カリーナ、アンヌ・ヴィアゼムスキー、アンヌ=マリー・ミエヴィルと、各時代ごとに、ひとりの女性との公私にわたるペアで活動してきたことを忘れてはならない。ヴィアゼムスキーとミエヴィルの間には、ジガ・ヴェルトフ集団として共に闘ったジャン=ピエール・ゴランも居た。2人というのは、友愛の最小の単位であり、友敵の最小の単位でもある。つまり、2対とは「物語」の最小の単位である。
 そんなことはない。1だけでも物語は可能だ、という反論がありえるだろうが、それは違う。1の語り、1としての語り、モノローグは、実は1ではない。独白、あるいは独白でさえない孤絶した沈黙であっても、こちら側に、つまり読者であるとか観客であるとかの側に、常に少なくとももうひとりが存在しているのであって、たとえ本当は実在していなかったのだとしても、その「2人目」は、常に想定され、期待されているのだ。つまり、2から1が引かれた場合は、私たち自身が、もうひとりの「1」になるのである。2−1+1=2。ゴダールの映画は、そのストーリーは、一見どれだけ複雑に思えようとも、ごくシンプルな2に、もしくは2の倍数に還元することが出来る(もちろん例外はあるが)。そういえば『ゴダール・ソシアリスム』(2010年)には、「国家は自分だけを夢見る。個人は二人でいることを夢みる」という台詞があった。また、2重の2については、第一に『愛の世紀』(2001年)と『ゴダール・ソシアリズム』で語られる「2重スパイ」という設定を挙げておくべきだろう。
 ところで、2=1+1である。とすれば、ここで『ワン・プラス・ワン』(1968年)に触れておかないわけにはいくまい。…(以下略)”
(佐々木敦『ゴダール原論 映画・世界・ソニマージュ』より)

 ここで突然話題にしなければならないのが、つんく氏と同じく多くのアイドルのプロデュースを手掛けている(そして松浦亜弥の作曲と編曲という分担で共同作業をしていたこともある)小西康陽がソロ・プロジェクトと銘打って発表したPIZZICATO ONEのアルバム『わたくしの20世紀』である。

※メールの文面はここで中断しているが、最後にその約6年後に10期メンバーの佐藤優樹が卒業するタイミングでリリースされたモーニング娘'21のトリプルシングルのうち、作詞・作曲したつんく♂自らがセルフライナーノーツで「そして、もう一つの根源(テーマ)として「自分と他者」ってのがあります。/学生時代や売れないバンドマンの時期、気がついたら朝ってことがしょっちゅうでした。全然眠れない、ああ、孤独だ。/なんで寝れないんだよ〜。昨日あんな話ししたからかなぁ・・・/とかなんとか、悩みが頭をぐるぐるして眠れない。。。/俺だけ孤独だ。世界で俺だけがこんなに辛い・・・みたいなループに入る。/今日は脱線ばかりですが、コロナで緊急事態宣言の中で、家にこもってると、そんな青春時期を少し思い出して、モーニング娘。のメンバーの心の中をチラっと覗くと、僕に出来ることはやっぱ彼女たちの頑張りを評価してあげることじゃん!みたいに思った結果、生まれてきたのがこの曲というわけです。」と解説している『よしよししてほしいの』の歌詞を参照して答え合わせをしておこう。

“Tonight
一人でいるのは 嫌じゃないけど
一人でいるのが 楽なんだけど
一人でいた方が 他の誰かを
一人でいた方が 傷つけたりしないし

本音を話すと みんな眉をひそめて
問題児扱い するじゃん
Oh No センチメンタル少女

今夜の終わりが来たなら眠る
今夜の終わりがいつだかわからない

Tonight
よしよししてよしよししてほしい”


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