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経済と社会の新たな構築:Web3.0やAI社会を迎えるために競争から協力へのシフトが重要 【伊藤穣一】

まず、女性エンジニアについてです。世界中で女性エンジニアの需要が高まっています。特に日本人女性エンジニアは、その需要が顕著です。多くが女性にとって、これは大きなチャンスと言えるでしょう。

また、自然界から学ぶべき点についてです。特に興味深いのは、ミツバチの社会構造です。巣の中で活動する働きバチは全員がメスなのです。これは、効率的な作業分担と協力の素晴らしい例です。人間社会もミツバチから多くを学べると思います。

この後のパートで、石高プロジェクトに関する内容を紹介します。このプロジェクトは、持続可能な農業を目指しており、地域社会との強い結びつきを重視しています。プロジェクトメンバーである長橋幸洋さん、藤井康さん、伊部知信さんが中心となって、地域支援型農業(CSA)をWeb3技術を使ってデジタル化しています。ユーザーは稲作に参加し、収穫前にお米を予約したり、イベントに参加することで農家を支援します。これらの活動には、NFTとしての報酬が与えられ、これを使ってお米と交換したり、売買する仕組みになっています。このような新しい取り組みは、地域農業とテクノロジーの融合の素晴らしい例です。

持続可能な農業については、NTTが整備している二次流通マーケットです。このマーケットでは、得たコインを使って西吾妻町でのお買い物や、他の地域との商品交換が可能です。このシステムは、他の地域にも導入される予定で、幅広い地域連携を促進しています。

農家の経営安定化という点では、自然環境の不安定さからくる稲作経営のリスクを、コミュニティで分担し、農家が未来への投資をしやすくする仕組みを実現しています。具体的には、コメボードの購入を通じて、農家は収穫前に現金収入を得ることが可能となります。さらに、自然災害や他のリスクが発生した際、コミュニティがそのマイナス分を分担し、農家の収益構造を安定化させます。

ではここから、「石高プロジェクト」の魅力と、金融システムについてどのように考えているかについてです。

【石高プロジェクト主催者講演内容】
まず、私は中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関わってきました。特に、カンボジアでのプロジェクトにおいて、金融システムの持続可能性について深く考える機会がありました。現行の金融システムが本当に持続可能かという疑問が、私の中で大きくなっていきました。そして、新しい仕組みの必要性を感じ始めたのです。

この新しい仕組みの一つとして、私は「お米に交換できるお金」というアイデアに出会いました。これは、日本の古いスタイルである「石高」を現代の金融に取り入れる考え方です。このアイデアは、既存の金融システムを否定するものではなく、自然と調和する新しい金融形態を提案するものです。

さらに、ブロックチェーン技術についてです。私はかつてニューヨークの金融機関で働いていた時期があり、何千億ものお金が動く世界を目の当たりにしました。しかし、同時にアフリカなどで見た現実とのギャップに苦悩していました。ブロックチェーンは、このような金融や送金システムの枠組みを変える可能性を持っています。それは、口座の概念を根本から変えるものであり、金融の有用性を新たな次元で提供する技術だと認識しています。

石高プロジェクトの最も注目すべき点は、お金の本質についての問いかけです。お金とは何か?日本とは何か?そして、お米は日本円でしか買えないのでしょうか?これらの問いは、私たちが当たり前と思っている金融システムに疑問を投げかけます。例えば、西会津町では「お金はないが、お米はある」という状況があります。かつてお米が豊かな生活の象徴だったように、私たちはブロックチェーンを使って、新しい形の金融システムを構築しようとしています。

この発想は、アフリカのコーヒー生産者や東南アジアのお茶生産者にも通じるものです。資本主義の中核で働きながら、私は金融の流れを目の当たりにし、新しい形の金融や問いかけをするこのプロジェクトに深い興味を持っています。

金融の流動性についても触れたいと思います。流動性を高めることもできるし、低めることもできます。これまでの金融は、本来ならば世界をより調和しやすく、平和にするはずでした。しかし、金融システムに介入する人間の役割が、しばしばその本質を見失わせてきました。たとえば、ゴールドマンサックスのような金融機関では、このシステムが彼らにとって都合が良いように機能しています。しかし、マーケットが良くなれば、リスクも減り、利便性も上がるはずです。

本日の講演の締めくくりとして、ブロックチェーンの利用による金融システムの変革、プロジェクトの設計思想、および今後の展望についてお話しします。

ブロックチェーン技術の最大の利点は、中間者を必要としない点です。これにより、理想的なリスクの取り扱いが可能になります。特に今回のプロジェクトでは、農家の現場の声を直接聞き、彼らのニーズに基づいて設計しています。そのため、中間者による利益追求が排除され、より公平なシステムが構築されています。

このプロジェクトの成功の鍵は、農家との密接なコミュニケーションにあります。実際に農家の方々の現実を理解し、プロジェクトに生命を吹き込むことが重要です。これは、先駆的な農家の存在があったからこそ、実現できたことです。

しかし、課題もあります。特に、次世代の農家へのプロジェクトの伝達や、アナログな開拓の必要性が挙げられます。プロジェクトはスモールスタートですが、理念とビジョンを共有する人々によって支えられています。

一方で、このプロジェクトを拡大していく中で、金融機関との関係や既存の金融システムとの連携も重要になります。私たちは、システムの背後にある技術を担当しており、金融機関に対しても耐えうるシステムを構築する必要があります。

私たちのプロジェクトは、そのコンセプトとビジョンを大切にしながら、広範囲に展開していくことを目指しています。重要なのは、理念を保ちつつ、適切なバランスを見つけることです。そして、大手金融機関も、このような新しい動きに興味を示し始める日が来るでしょう。私は、金融業界が現在の限界を感じ始めていると感じています。

以上が講演内容です。

新しい技術のトレンドとその社会的意義についても話しました。AIやブロックチェーンは、ここ50年の間に長期的なトレンドとして存在してきました。これらの技術は単なる一時的な流行ではなく、実験的な取り組みや新しい参加者によって、絶えず進化しています。

特に注目すべきは、クリエイティブコモンズやシェアリングエコノミーなど、新しい社会的構築が可能になっていることです。これらは、単に最新技術によるものではなく、長期にわたる発展の一環です。

AIによる国家運営やトークンベースの分配システムなど、私たちは社会主義を肯定するわけではありませんが、これらの技術がもたらす新しい可能性については、確かに考えるべきだと思います。

社会主義と現代技術、特にAIの関係性についてお話しします。社会主義は、コンピューターパワーが非常に強力な場合には成り立つ可能性があるという議論があります。現代の最先端技術と、国家やコミュニティといった大きな枠組みを歴史的、哲学的観点から議論することは非常に重要です。

特に、現在のAI開発と資本主義経済との関係について考えると、多くのAIの取り組みは競争と最適化に集中しているように見えます。例えば、マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクのような人物が、競争の最前線にいます。しかし、日本の歴史を見ると、戦国時代の争いの後に、利休のような人物が登場し、茶の湯を通じて文化的な調和と共生を促進しました。お茶の文化は、隣人との礼儀正しい交流や平和的な共存のモデルとなりました。

現代においても、DAO(分散型自律組織)やAIのガバナンスは、この種の文化的な調和の可能性を持っています。しかし、現在の資本主義は短期的な利益最適化に重点を置き、結果として貧富の格差や環境破壊といった問題を引き起こしています。今のAI開発は、この資本主義の枠組みの中で進められており、権力者の利益の最適化に貢献する方向に動いています。

現代のディープラーニングは非常に多くのコンピュータリソースを必要とし、その結果、資金のない人々はAI開発から締め出されています。これは、お金がない人からお金を持つ人への権力の移転を意味しています。現代AIは中央集権的な権力競争型のシステムの中で生きており、これは日本の伝統的な文化とは相容れない部分があります。

しかし、日本の文化には、サステナビリティや平和、協力といった側面があり、これらは実は進化論的に重要な要素です。自然は競争と協力のバランスをとって進化してきました。現代のベンチャーやAI分野では、このような協力の美学がまだ十分には取り入れられていません。

ここで、400年から500年前の利休の茶の湯の精神に注目したいと思います。利休は、当時の権力や富を象徴するお茶会から離れ、原価の低い素朴なものを美とする新しい美学を創造しました。これは、当時の社会における一種のパンクロックでした。

現代のイーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグが競い合うアメリカのビジネス界も、このような新しい美学を必要としています。サステナビリティや平和を、新しい形の「かっこよさ」として再定義することが、今の時代に必要な姿勢です。利休の時代のように、単純で素朴なものを価値あるものと見なし、それを通じて新たな美学を創り出すことが、現代においても重要な意味を持っています。

私たちは、新しい日本の文化を通じて、コミュニティを育成し、共に進化していく必要があります。重要なのは、サステナビリティを苦しみながらではなく、かっこよく、仲良く進めることです。これがなければ、AIは間違った方向に進んでしまうでしょう。

現在、日本の戦国時代におけるお茶の文化のように、オタク文化やガンダムのコミュニティなど、物へのこだわりを通じてコミュニティが形成され、新しい価値観が生まれています。これらのコミュニティは、限られたリソースから新しい価値を生み出しています。金銭的な投資だけでなく、創造的な参加によって、Web3の文化も前進するでしょう。

競争と協力、これらは経済価値創造において重要な要素です。私たちは、現在の資本主義が基本的には奪い合いのゲームであることを理解しながらも、新しい形の価値創造を模索しています。ビットコインやNFTのように、原価が低いながらも人々に価値あると感じられるものを生み出し、それによってコミュニティ内の通貨の価値を高めていくことが、新しい経済の形として重要です。これは、ナポレオンが勲章を使って兵士を戦いに駆り立てたような、価値創造の一形態です。そして、この新しい価値創造は、ブロックチェーンを介して市場とつながり、実際の価値として反映されていきます。

私たちは、資本主義の奪い合いの代わりに、競争と協力が共存する社会を目指しています。特に、トークンエコノミーの枠組みの中で、日本のエンターテイメントカルチャーは大きな可能性を秘めています。日本の文化は、人々の力を活用し、創造的な拡張を行うことに長けています。例えば、コスプレ、同人誌、カラオケなどがその良い例です。これらは、二次創作や拡張を通じて新しい価値を生み出す日本の得意分野です。

この創造的なプロセスは、大乗仏教や密教のように、文化の拡張と深化を図るものです。日本のエンターテイメントカルチャーは、トークンエコノミーによってさらに発展する可能性があります。ガンプラのような趣味の領域も、トークンエコノミーとの相性が良いと思います。

競争と協力は、価値創造の過程において不可欠な要素です。私たちは、ただ奪い合うのではなく、共に価値を創造することが重要だと考えています。例えば、1万円札の価値は、私たちの共有された信念に基づいています。それは、ある種の共同幻想であり、それを信じることで、紙片はお金になるのです。

また、コミュニティ内で存在する特有の価値も重要です。これは、コミュニティメンバー間の信頼とトラストに基づいています。たとえばバンドのファンは、そのバンドが特定の美学やスタイルを続けると信じています。これは、ブランドや人間の行動パターンに対する信頼にも似ています。

したがって、現代のトークンエコノミーや価値創造の文脈においては、競争と協力、信頼とトラストが重要な役割を果たします。私たちは共に価値を創造し、それを持続させるために、相互の信頼と理解が必要なのです。

私たちは信頼とトラストの重要性について多くを学びました。日本の文化と経済における強みは、職人精神と持続的な努力にあります。日本のブランドは、最後まで頑張るという姿勢が強みとなっています。

しかし、ベンチャー精神や素早いピボットが日本には欠けているため、新しい経済システム、特にトークンエコノミーへの適応は挑戦となるでしょう。それでも、日本のエンターテイメントカルチャーは、その拡張性と創造性において、トークンエコノミーに非常に適しています。

競争と協力のバランスは、経済の新しい形を模索する上で非常に重要です。私たちは、単に既存の価値を奪い合うのではなく、共に新しい価値を創造することを目指しています。これは、1万円札の価値が私たちの共有された信念に基づいているように、共同の幻想を共有することで成立します。

ブロックチェーンとAIは、これまで価値がないとされていたものに価値を与える可能性を持っています。これにより、細分化された価値を可視化し、経済に組み込むことが可能になります。例えば、異なる信頼レベルに基づいたパーソナルプライシングは、AIとブロックチェーンを使って容易に計算できます。

私たちは法定通貨やビットコインの信頼性についても考えました。法定通貨、例えば円やドルは、私たちがその価値を信じるから使えるものです。これは、トラストの本質に関する議論に直結しています。

ビットコインは特に興味深い現象です。価値が形成され、今や1ビットコインが数百万円にもなっていますが、これは誰かが保証しているわけではありません。ビットコインの価値は、純粋にトラストに基づいて成り立っているのです。

ビットコインの価値がどのようにして信じられるようになってきたのか、これは非常に重要な問いです。現在、ビットコインは競争的な要素を持ちつつも、従来の金融システムの領域に入り込み、ネットワーク化することで価値が形成されています。

この現象は、従来の金融システムのパラダイムシフトを示しています。ビットコインのようなデジタル通貨は、従来の価値の概念を根底から覆す、非常に特殊なテクノロジーです。

金融システムの変化という大きな流れの中にいることを改めて実感しました。

【伊藤穰一】
現在は、千葉工業大学の変革センターの所長を務めている。 2011年から2019年までは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長に奉職。 非営利団体クリエイティブコモンズの最高経営責任者のほか、ニューヨーク・タイムズ、ソニー、ナイト財団、マッカーサー財団、ICANN、Mozilla財団の取締役を歴任した。


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