O2DaSev -Bronx Drillのビーフ-

「今NYで一番Hotなクルーは?」もしそう聞かれたら、僕は真っ先に41(フォーワン)を挙げると思います。

リーダー格のKyle Richhを筆頭に、Jenn CarterやTaTa等の超人気ラッパーを抱えるこのクルーは、"41 CYPHER" を皮切りに活動を活発化させ、 "Deuce" で一躍注目を集めました。

その後も続々ヒットを飛ばし続ける41。特に今年リリースした "Bent" は、アップルミュージックのNYCチャートで1位を獲得し、Spotifyでは現在2500万回以上の再生数を記録する大ヒットとなっています。

Jersey ClubやサンプリングDrill等のトレンドを柔軟に取り入れたサウンドだったり、ライバルギャングを徹底的にこき下ろすリリックだったり、KRのがなるようなラップスタイルだったり…彼等が表現するHIP HOPは、正にBronx Drillそのもの。しかし驚くべき事に、41のメンバーは全員Brooklyn出身。しかもKRはバッファロー州立大学に進学(退学したとの噂あり)する程の高学歴の持ち主。にも関わらず41には、「Bronx出身」「ギャング」というイメージが先行しています。何故なのか。それは彼等が明らかにBronx Drillの要素を自身のイメージに取り入れているからに他なりません。

1.Notti Bop

"Deuce" と双璧をなす、41の代表曲となった "Notti Bop"

The Backyardigansと言うアニメの楽曲をサンプリングした陽気なサウンドと、腹部辺りを叩くNotti Bop Danceのキャッチーさも相まって、この曲はTikTok内で大きなバズを生みました。

しかしタイトルにあるNottiとは、2022年7月に地下鉄駅構内で殺されたNotti Osama(OY)の事を指しており、Notti Bop Danceは、Notti死亡の原因となった腹部刺傷を揶揄したダンスでした。

何故ブルックリン出身の41が、Notti Osamaとビーフになったのか。紐解いていくとそこから、Bronx Drillの凄惨なギャング事情が浮かび上がってきました。

2.Bronxのギャング達

2023年現在、Bronxで有名なギャングは主に以下のチーム。

OY (Original Youngins)

ハーレムのシュガーヒルを縄張りとし、DD Osama、故Notti Osama、故Edot Babyy、SugarHill Keem等を抱える新進気鋭のクルー。特にここ一年でのDD Osamaの活躍は目覚ましく、全国的なブレイクまで秒読み段階となっています。ハーレムのギャングではあるものの、OGzと同盟ギャング(=OYOGz)だった為、Bronxのシーンとは密接な関係にあります。

OGz (Original Goons)

コートランドを縄張りとし、Sha EK、Pj Glizzy、 Cj Goon等が所属。OYとは同盟ギャング=OYOGzとして活動していましたが、2023年1月に分裂。

DOA(Dumping On Anything)

Bronx Drillの顔となったKay Flockをリーダー格とした超危険なクルー。Dougie B、Kenzo Balla、Set Da Trend等が所属。OYOGzとはクールな関係=O2DaSevであったが、2021年に仲違い。以後、泥沼のビーフ状態に。Kay Flockは、OYメンバーのOY Wascaを射殺した容疑で、2021年12月に逮捕されています。

YGz(Young Gunnaz)

Dthang、Yus Gz、Sha Gz、Nasty Gz等を輩出しているクルー。元々OGzとは良好な関係を築いていたが、2010年頃から関係が悪化。そして2012年、OGzに所属するNoah Ballaを、複数のYGzメンバーが暴行を加え死亡させた事で本格的なビーフに発展。更にYGzはJacksonAveというギャングとも以前同盟を組んでいましたが(=JacksonAveGunnaz)、JacksonAveのメンバーがYGzのメンバーを銃撃した事で仲違いに。JacksonAveはその後DOAと同盟を組み(=JacksonAveSevs)、結果DOAとYGzの対立構図が出来上がってしまいました。

3.41 vs OYOGz

"Can't Wait" や "Ice Cream Truck" の大ヒットでおなじみSugarhill Keem。

OYに所属するKeemは、同じくOY所属のBlockworkがスニッチ野郎だとしてOYメンバーに吹聴(実際にはスニッチは行われていなかったようです)。

Sha EKとの "D&D" のヒット等で知られるBlockwork。

OYにいずらくなったBlockworkは、41のメンバーと交流を深めていきます。

これを良く思わないOYメンバー。特にNotti Osamaは "41K" と言う曲で、Blockwork並びに41を痛烈に批判しました。

"41K" では他にも色んなラッパーをディスしていて、曲中でディスを向けられた9RAQに所属するKdotは、2022年7月、マンハッタンの地下鉄駅でNottiと鉢合わせになり、口論の末Nottiを刺殺してしまいました。

41はこの一連の流れにいち早く便乗。Nottiの死を嘲笑した "Notti Bop" をリリース。

この曲のPV撮影時にBlockworkも参加すると言う噂があったようで、それに激怒したOYメンバーは正式にBlockworkを除名。ここから、OY vs 41のビーフが過熱しました。

4.Edot Smoking with Opps

再び時は遡り、2020年12月。Bizzy BanksやLeeky G Bando等を輩出しているStructure主催のバースデーパーティーに参加したEdot Babyy(OY)。彼はそこで、敵対しているハズのYGzメンバーLotti47(2020年4月に殺されたWoo Lottiとは別人)とチルしている場面をFBライブに流されてしまいます。

この頃DOAとOYOGzは、O2DaSevと言う同盟を組んでいました。その為、Edotの一連の行為を知ったKay Flock(DOA)は激怒。しかしSha EK(OGz)はEdotの肩を持つ発言をした為、両者は対立。O2DaSevは解体され、DOA vs OYOGzのビーフが始まってしまいました。

2021年9月。Kay Flock(DOA)の代表曲のひとつである "Is Ya Ready" がリリースされ、曲中でEdot Babyyをディス。

更に同年12月、マンハッタンにてOY Wasca(OY)を射殺。Kay Flockは殺人容疑で逮捕されました。

2022年後半、EdotのいとこであるJay Benjiが150Lzzのメンバーによって射殺。Jay BenjiはOYともOGzとも揉め事を起こしていましたが、Sha EK(OGz)はJay BenjiをディスしつつもEdotの事は依然として肩を持つ発言を繰り返していました。

しかしその年の11月、Edot Babyyが自身のアパートで遺体となって発見。死因は自殺でした。

自殺の理由は未だ明らかになっていませんが、Lottiとのスモーク場面が流出した事でO2DaSevが解体となり、OYとOGzの仲に亀裂が入ってしまった事への自責の念があったのでしょうか…真相は闇の中です。

5.End of OYOGz

2023年1月10日、インスタライブでSha EK(OGz)が、Edot Babyy(OY)のいとこであるJay Benjiを殺したと主張(OYへの単なる煽り?)。更に、OYと敵対しているハズの150L'zzz'と同盟を組んだとも主張。その後DD Osama(OY)とSugarhill Ddot(OY)がインスタライブに参戦。インスタライブ上でOGzを直接ディス。結果、OYOGzは解散。150L'zzzはOGz側につき、OYとOGzの泥沼ビーフがスタート。お互いに数えきれない程のディスソングを出し合っています。

6. 41 is Fake Gang

話を冒頭に戻しましょう。41は発言こそ過激であるものの、高学歴だったりブルックリン出身だったりと、決してBronxのギャングでは無く、飽くまでBronxのギャングのイメージを利用しているに過ぎません(実際自分も、ちゃんと調べるまでは41はBronxのギャングだと思い込んでいました)。

彼等の上手いところは、Bronxのギャングと錯覚させるような動きを見せる事で、大衆の目を自分達に向けさせた事。 "Notti Bop" であたかもNottiを殺害したのは自分達であると思わせ、Youtubeで何度もバンされてもファン達が次々に再アップロードを繰り返し、TikTokで「Notti Bop Dance」をバズらせ、曲の内容を何も知らない人達にも浸透させる等、その戦略の練り方は見事と言う他ありません。

その話題作りの上手さは、今年9月にリリースした "Jenn Jenn Jenn" でも顕著に表れています。

2023年7月、Bloodie (OY)とRoscoe (OY)がマイアミ空港でKyle Richh (41) とJenn Carter(41)と喧嘩に発展。その後インスタライブでKRは、「喧嘩に勝ったのは自分達だ」と主張していましたが真相は逆で、BloodieがKRを踏みつけ、RoscoeはJennを膝で蹴り飛ばしたと言うのが事実。喧嘩の内容は、Bloodie とRoscoeによる "41 Stomp" で細かく説明されています。

"41 Stomp" の中で「Jenn Jenn Jenn」と繰り返す部分があり、Dee Play4keeps(OY)がインスタライブでJenn Carterとコラボした際、そのフレーズを真似しながらJenn Carterを嘲笑しました。普通ならギャングのイメージを覆される屈辱的な出来事だとマイナスに捉えるところを、あろう事かJenn Carterは、Dee Play4keepsがシャウトした「Jenn Jenn Jenn」の部分をサンプリングし、 曲中で頻繁にリフレインしています。

この思い切りの良さ、Dee Play4keepsによる「Jenn Jenn Jenn」のシャウトのキャッチーさも相まって一気に話題をかっさらいました。またJenn CarterのOYに対するアンサーも秀逸で、

・Dee Play4keepsは41の曲(Deuce)で踊っていた→ウチ等のファンなんだろ?と煽る
・学歴の無いOYの連中とは争う価値が無い
・41をディスしてくるのは、自分達が人気があってそれにあやかりたいから
・Notti Osamaの写真が入ったアクセを付けているOYメンバーに対して、Nottiの死を利用して目立とうとしていると揶揄

とにかく痛快。地頭が良いんだと思います。そんな41の近々リリース予定の楽曲は、

・Soulja Boyを客演に呼び、"Crank That" をサンプリング
・OYの宿敵YGzメンバーのSha GzをFeat

となっており、話題作りに余念がありません。特にCrank Thatサンプリングでは、PV ShootでSoulja Boyに当時の格好をさせ、ダンスも披露しています。

ギャングのイメージで話題を作った後は、早々にダンスの要素を強めてキャッチーさを全面に押し出す…この戦略の立て方は見事と言う他ありません。やはり音楽業界で上り詰めていくには、全てをエンタメ要素として利用する位の気概が必要なんだなと思います。41の快進撃は、しばらく続きそうです。

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