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イギリスのBasslineシーンにおいて異質なレーベルOFF ME NUT RECORDSとMutant Bass RecordsについてKanji Kineticと話してみた。

はじめまして、Garage/Basslineという音楽に惚れ込んで都内でDJやRIPというパーティーを主催しているGenickです。一説にはイギリスのジャンキーと日本のオタクしか聞いてないと噂の(半分ジョークです)OFF ME NUT RECORDSやMutant Bass Recordsについて一度文章化しておきたくて書きました。間違ってる情報などありましたらコメントまで。

・そもそもBasslineとはどんな音楽か

1980年代にアメリカ、ニューヨークでは”Paradise Garage”というクラブがあった。このナイトクラブでは伝説的なDJであるラリー・レヴァンが幅広い音楽知識を元に、様々な音楽をかけてフロアを沸かしていた。特にここでかかっていたシャッフルのリズムを効かせたソウルフルなハウス、ディスコは後にGarage(US Garage、NYC Garage)と呼ばる。代表的な曲として、Ultra Nate - FreeやHadrive - Deep Insideなどが挙げられる。90年代US Garageは海を渡り、イギリスではロンドンの大型ナイトクラブ”Ministry Of Sound”を中心に、このサウンドを聞くため多くのクラバーが訪れた。土曜日の深夜から朝まで踊り続けたクラバーたちは朝方、踊る場所を求め、近くにあった”THE ELEPHANT & CASTLE”というパブに集まった。夜通し同じBPM帯で踊り続けたクラバーはより刺激的な音楽を求め、このパブではUS Garageを早回ししたトラックが特に人気だったという。このサウンドは後にUK Garageと呼ばれ、イギリス発のダンスミュージックとして多くの人に認知される。代表的な曲として、Sound of One - As I Am (Todd Edwards Mix)やThe Jam Experience(Matt Jam Lamont) - Feel My Loveなどが挙げられる。このUK GarageからGrime、DubstepそしてDeep Houseなど多くのジャンルを生み出すことになるのだが、その中の一つにBasslineというジャンルがある。Basslineはイギリス北部のシェッフィールドにあるNicheというナイトクラブで生まれ、代表的なDJにJamie Duggan、T2、TS7、DJ Qなどが挙げられる。最も世界的に売れたBasslineの曲はT2 feat. Jodie Aysha - Heartbrokenだろう。しかし、2000年中頃になるとNicheの治安の悪さからクラブは閉店し、イギリスの多くのクラブがBasslineをかけることを禁止し、所謂”Bassline冬の時代”が続く。しかし近年、イギリスではBasslineシーンが再興してきている。それはDJ QやJamie DugganなどBasslineシーンの最前線にいるベテランDJたちが諦めずに若いプロデューサーを巻き込み大規模なフェスティバル(BASSFESTなど)を商業的に成功させたからである。

・日本におけるBassline

日本のベースラインシーンを語る上で重要なイベントはKANJI KENTEIであると言える。これは2010年頃にtomadさんとMusic Forestのmasayukiさん(こちら誤って認識していましたので訂正させていただきます。)によってイギリス出身のBasslineプロデューサーであるkanji Kineticの来日イベントを秋葉原MOGRAで開催したイベント名である。これに合わせて日本最大級のインターネットレーベルMaltine Recordsで氏が楽曲をリリースするなど後のDJたちに大きな影響を与えた。このイベントから分かるように、日本でベースラインをかけるDJはフェスティバル向けのBasslineが世界的に成功する以前から存在するのである。しかし、日本でBasslineをかけるDJたちはNicheでかかっていたような正統派のBasslineではなくKanji Kineticらが2011年に立ち上げたMutant Bass Recordsであったり、同時期にTich(Phatworld)が立ち上げたOFF ME NUT RECORDSからの影響を強く受けていると言える。これらのレーベルがリリースするBasslineはRAVEカルチャーを強く感じ、ゲーム音楽のような詰め込み感も感じる明らかに異質なレーベルである。両レーベルの初期の代表曲を紹介したい。

【Mutant Bass Records】Submerse & Kanji Kinetic - NERV
https://www.youtube.com/watch?v=rkk9Sj5HLP4

【OFF ME NUT RECORDS】Phatworld - Trust Meh! (feat. Moova)
https://www.youtube.com/watch?v=8-HMSLBKKv4

・Kanji Kineticと話したことまとめ

以下は Kanji Kinetic本人に当時についていろいろ話したことをGenickの解説とともにまとめたものである。※雑談などを省いたうえで掲載。

Genick: コロナ以降のブリストル(Kanji Kineticが在住しているイギリスの都市)の状況はどうですか?

Kanji: 外で友達と会うことくらいしか出来ない状況です。今年は音楽フェスもできるか分かりません。

Genick: (日本の状況などを話した後)OFF ME NUT RECORDS(以下OMN)やMutant Bass Recordsの歴史について色々聞かせてください。まず両レーベルができる前にあなたはCOIN OPERATED RECORDSからKanji Kinetic - Bring Out The Big Guns EPをリリースしてますが、COIN OPERATED RECORDSについて教えてください。※TichもKanjiもレーベルを立ち上げる前にこのレーベルから曲を出していることを知っていたので興味があった。

Kanji: インターネットでそのレーベルのことは知っていました。その時ちょうどレーベルオーナーであるMustard GunnがMySpaceでメッセージを送ってきたので、何曲かリリース出来ないか尋ねました。

Genick: MySpaceを使っていたのですか?

Kanji: はい。2007~2008年くらいは自分の音楽のプロモーションに最適でした。

Genick: Tich(OMN)を知ったのはいつ頃ですか?

Kanji: 同じく2007年頃MySpaceで知り合いました。最初に彼を知ったのはCyrogenixという名前でDubstepを作っていた頃でした。それはとても素晴らしかったです。その後、彼は私に最初のSquire Of GothosとしてBasslineの曲を聞かせてくれました。これらの曲は私たちのレーベルElectrostimulationからRave Lord EPとしてリリースしました。

Cyrogenix時代の曲は後にOFF ME NUT RECORDSからリリースされている。
https://offmenutrecords.bandcamp.com/album/chain-man

Genick: 2010年頃、OMNやMutant Bassに似たようなレーベルはありましたか?

Kanji: これは難しい質問です。かなり前にラジオをやっていたのでその頃のトラックリストから探してみます。

以下はKanji Kineticが教えてくれた当時好んでかけていた曲である。

L-Vis 1990 - Apple Bass
https://www.youtube.com/watch?v=JMpEtmw1prI&fbclid=IwAR3P6W8AbPECJ4iYY0W9xk3BkQIR3zwz6MFPstqnfVelfycgSiEcrtlJ9G8

Raffertie - Stomping Grounds (Raffertie's VIP Remix)
https://soundcloud.com/eminn3m/raffertie-stomping-grounds?fbclid=IwAR3P6W8AbPECJ4iYY0W9xk3BkQIR3zwz6MFPstqnfVelfycgSiEcrtlJ9G8

・Genickなりに考察した両レーベルの楽曲の特徴

レーベルオーナーが曲を作っているアーティストである以上、サウンド面ではそのアーティストの色がより鮮明に出やすいと言える。

Mutant BassのオーナーであるSam(Kanji Kinetic)のBasslineの音はディストーションがかかったザラザラしたノコギリ的な音が特徴である。後期になるとSkrillex以降のブロステップ的な音使いの曲もリリースされている。また、親日家でもある彼の曲は日本のゲーム音楽的な「詰め込み感」のようなものも感じる。また、エレクトロ文脈で語られるフィジェットハウスからの影響もあると言えるだろう。

さて一方、OFF ME NUT RECORDSのTich(Phatworld)のBasslineはいわゆるオフミナサウンドと呼ばれるあまりにも独特すぎるミョンミョン感が特徴ではあるが、ベースライン発祥の地であるSheffieldのレーベルということもあり、正統派のオールドスクールからの影響を色濃く感じさせる楽曲構成になっている。また、Mutant Bassと違いレーベル立ち上げから休まずコンスタントにリリースを重ねており、今なお本人含め若いアーティストがこのサウンドを更新させ続けている。

参考動画: That UK Sound - UK Garage & Bassline Documentary
https://www.youtube.com/watch?v=QqK2l1lOYL0

ヘッダー提供: toshimura @toshimu_rar


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