奥歯をくいしばれ 2023・5・1

ちょうどこめかみの後ろ、耳のある辺りの骨を側頭骨と言います。ここに歯を食いしばるときに緊張する筋肉があります。耳の上あたりを軽く指で触れて「イーッ」としてみてください。下で筋肉が動くのがわかりますね。これを側頭筋と呼びます。次に頬に軽く触れて、同じように「イーッ」としてみてください。やっぱり筋肉が動くのがわかりますね。こちらは咬筋(こうきん)と言います。側頭筋、咬筋は外側翼突筋、内側翼突筋と合わせて咀嚼筋と総称されます。ものを噛むときの筋肉、という意味です。
 
食事などで物を噛むとき、どのくらいの力が加わるのでしょうか。成人男性で約60キログラム、女性で約40キログラムと言われています。ずいぶん大きな力がかかりますね。咀嚼はもちろん食物をすりつぶして飲み込みやすくするための動作ですが、それだけではありません。咀嚼は脳の血流量にも関係があることがわかってきています。
 
ネズミを使った実験では、硬い固形飼料で飼育した群と、噛む必要のない粉末飼料で飼育した群で明らかに学習能力が違ってくることが明らかになりました。筋肉は血流のポンプの役目をします。咀嚼筋が働くことによって脳への血流量が増えて、その結果脳の機能が活性化されたということでしょう。
 
噛み応えのある硬い食品が食卓に上ることが減ったと言われて久しいです。1980年代に出てきた「オカアサンヤスメ」という言葉をご記憶でしょうか。オムレツ、カレーライス、アイスクリーム、サンドイッチ、焼きそば、スパゲティ、目玉焼きの頭文字でオカアサンヤスメ。手抜き料理の代表みたいな言い方をされていたのですが、簡単にできるというだけでなくすべての料理に歯ごたえがありません。
 
今の日本ではあんまり咀嚼する必要のない食事で育った世代が多数派になってしまっています。テレビ番組で食品をほめるときに「食べやすい」と表現するのも咀嚼しなくなった日本を象徴しています。その結果、日本人の下顎骨は小さく退化して永久歯も全部生えないこともあるそうです。
 
「学習能力なんか関係ないわ」「小顔のほうがカワイイ」というご意見もあるかと思います。でもね、咀嚼筋は使わないとだんだん「凝って」きます。柔軟性がなくなった筋肉は重力の働きでだんだん下にずり落ちてきます。そう、頬と顎とがたるむんですよ。
 
よく噛んで食べるだけで頭もよくなるしキレイにもなる、ということは知っておいて損はないですよ。


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