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ここが時代の始まり

DJをアーティストと形容すべきか? いや、音楽を介して自らの意思や趣向を、フロアーに集ってくれる人々に表現し、共感を得る者でなければならないと定義する。26年間、大なり小なり人前に立って、ひたむきに DJをしてきた自分の見解だと、この解釈が1番しっくりくる。そして、根本的に心の奥底で沸き立つ情熱が全てで、その燃え尽きそうな程熱い想いが、どれだけ多くの人に伝えられるかが最も重要だと考える。

人に認めてもらえる DJになりたくて、勢いに任せてターンテーブルと音楽にひたすら向き合った青春時代。音楽との対話に費やす莫大な時間と行動さえ伴えば、前のめりに生きていけると信じて疑わなかった、盲目的かつ無知な熱い日々。DJ駆け出しから4年の時を過ぎた頃、自分が愛する音楽であるドラムンベースを少しでもこの国、日本に浸透させたい。少しでもこの音楽の魅力を知ってもらえるきっかけを作りたい。そんなシンプルで素直な欲求を胸に 06Sと言う1つの集合体を開始させた2001年。

極東の島国であるこの国は、長い歴史によって積み上げられた、心から素晴らしいと思える文化や習慣が存在している。しかしながら90年代の7年間を海外で生活した自分の目から見ると、ダンスミュージックの本場である欧米に比べ、その本質や真理に対しての理解度は、大幅な遅れをとっている後進国である上に、その誤差を危機的に捉えていない、ドメスティックな考え方や傾向が存在しているのが否めなかった。何事も本質を理解してこそ、本来の喜びや意味が理解出来て、そこから新しい形が浸透し、創造されると信じている。理想への改善の検討を重ねながら、そんな現状を打破する為にはどうしたら良いのか? まずは、本場のDJやプロデューサーをダイレクトに体感して、理解してもらうのが最優先事項であると合意し、その意思を 06Sの基本的なコンセプトとして掲げた。

この20年で招聘した海外アーティストは100組を超え、イベント数は225回を数える。1つの音楽に対して真摯に向き合い向上させていく姿勢や、いかにして健全な音楽コミュニティーを構築するのか、長い時間を費やした海外アーティスト達とのコミュニケーションから学んだ多くの要素は、自分の人生にとって掛け替えのない財産だ。お互いの国の音楽や文化を交流させて垣間見た世界観と、06Sから得た経験は、DJと言う枠組みを遥かに超えて、一生死ぬまで自分に身に染み付いて止まない、誇るべき人生観だ。

では、その誇るべき長い歴史を積み上げた 06Sを、何故1年10ヶ月前に ファイナルと銘打って一旦幕を閉じたのか? 疑問に思う人が沢山居るだろう。ダンスミュージックシーン及び音楽シーンは様々な入り組んだ潮流があって、その時代によって象徴的な音楽が存在する。当時は特にアンダーグラウンドに逆行する商業的な音楽が俗に言うメインストリームになって、日本のダンスミュージックシーンもその影響を受け、大きく変化していた。そして、そんなメインストリームを全面に押し出す当時の ウームの方向性と、06Sが掲げ継続していた理想とのギャップが生じてしまった現実が脳裏に鮮明に残っている。そんな現実の中、心底悩み、もがき苦しんだ時間があったが、何よりもみんなが納得できる形で一旦終了させないと次のフェーズを迎えられないと最終的に判断し、ファイナルを敢行した。そして、その直後、時代を飲み込んだコロナと言う疫病が蔓延する信じられない世界が訪れた。

説明は不要だが、コロナは多くの現状を破壊する強烈で壊滅的な打撃を与えた。DJなんてちっぽけな存在は、まず自分が活動する場所を、いとも簡単に失ってしまった。綺麗事を抜きに活動する場所を失えば、路頭に迷う以外無くて、正直自分も DJ稼業を引退止む無しと考えていた。それでも DJとして生きていたいと葛藤する日々において、様々な人々から愛のある支援によって、音楽配信という活路に自分の DJ人生を見いだし賭けてみた。音楽配信が楽しいとか、面白く無いとか、現場での臨場感は配信からは得られないとか、そんなたわ言は許されず、ひたすらに今の時代を生き抜くために、新しい活路を配信に見出す以外の選択肢が無かった。この新たな道を歩み始め、毎週土曜日の配信は休まず現在まで75回。そして、コロナ禍を生き抜いた活動の場から、自分を心から応援してくれる強靭なコミュニティーが構築され、そこに集う人々から、多くを学ばせてもらい、以前の DJ活動によって成り立っていたアイディンティティーでは気づくことが出来なかった側面を痛感して、人間的に強く成長させてもらった。現場で時間や空間を共有しあい DJとして生きてきた活動の場所以外にも、DJが携われる場所がそこには存在していると確信して、絶対的な新しい価値観を熟知する貴重な時間を過ごす結果になった。

幕を閉じた 06Sを何故今再起動させるのか? 理由は明解で、オンラインとオフラインを融合させる、新しい形のイベントである 06Sを作り上げるのが最大の目的だ。これは近い将来コロナが集結するであろうタイミングにおいて、今までの経験や知恵を集結させて試みる、自分にとって大きなチャレンジだ。挑戦すれば、今後の音楽シーンの為の実験になると信じている。そして、何よりも以前の様な本物の音楽にフォーカスするシフトチェンジを試みようとする 新体制のWOMB。また、この困難な時代を様々な角度から愛を持ってサポートしてくれた大切な仲間達。彼らの意思に対して自分は真剣に向き合って、この一歩を踏み出すと決意した証だ。また、20年間継続してきた 06Sの思想を貫き、活動の場を失っていた DJ、音楽プロデューサー、映像作家等、幅広いフィールドで活躍する優秀なクリエイターを、より研ぎ澄まされた形態として 06Sを新たに展開し、サポートしていきたい。

冒頭の様に、DJをアーティストと形容するのは、おこがましいかも知れない。でも、自分の想いを素直に表現する大切さを忘れずに前に進みたい。コロナ禍で壊滅的な打撃を受けた影響で、ジャンルを問わず、そこにはシーンと形容できる物は存在していないと考えている。でも、それは新しいシーンを作って行くためのスタートラインであるのは間違い無い。

歴史と格式のある集合体である 06Sを再起動させ、シーンの再構築を司る使命を体現したい。
何故なら、2001年から20年経った現在。ここが時代の始まりだから。

11月6日(土) 06S RETURNS 20th ANNIVERSARY
ライブ配信 23:00 - 4:30  twitch.tv/djaki_06s

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