2023.9.10「映画」

 好きな映画がAmazon Primeで視聴できるようになっていた。昨年の4月、仕事終わりに珍しく映画館に観にいって、感傷に浸りながら徒歩で自宅に帰った記憶がある。

 単調で、特にドラマチックな展開があるわけではないが、好きなシーンが多い作品。好きなシーンだけ観てみようと思い、服の汚れを落とし、洗い物をして、昼ご飯のパスタを茹でながら観ていたら、結局全編を通しで観てしまった。服や食器や自分の心にこびりついていた汚れを落とすには丁度良かったかもしれない。
 映画館で観た後の帰り道、またこの映画を観る機会があれば、そのときは大切な人と一緒に観たい、と思っていたのに結局それは叶わなかった。結局パスタ食べながらスマホの小さな画面で観てしまった。

 劇中で、主人公がひょんなことから共同生活をすることになった甥っ子に、絵本を読み聞かせてあげるシーンがある。そのシーンがとても好きなのだ。YouTubeにある特別予告編がそのシーンを元にしているので、一応貼り付けておく。あらすじも書いてあるからついでに読んでもらうのが良いだろう。

 いつか忘れてしまうかもしれない、ということがこの作品のいくつかの重要なテーマの一つになっていると思う。主人公が甥っ子に対して、共同生活の日々のことを自分はいつまでも覚えているだろうけれど、君は大人になるにつれてきっと忘れていってしまうだろう、と語りかけるシーンがある。上の読み聞かせのシーンの直後がそれなのだが、何とも言えない気持を心に残してくる。他にも、主人公の母親が認知症を患っていたことだったり、主人公が自分の仕事であるインタビュー録音のことを、何でもない平凡なことを永遠に残すことができるクールなものと説明したり。
 自分も幼い頃の出来事を殆ど忘れてしまっている。きっとその瞬間には、こんなに楽しいことは一生忘れないと思っていたはずの出来事もすっかり忘れている。自分は叔父さんのことで覚えている出来事なんて一つもない。
 一方、ある程度大人になった今でも、いつか忘れていったり、思い出せなくなるのだろうか、と思うこともある。実際、些細なことなんてどんどん忘れていく。ただ、あんなに楽しかったり嬉しかったことが、何もなかったように消えてしまうこともあるのだろうか。鍵をかけて開かないように、顔を覗かせないようにしておいたら、いつの間にか鍵も失くして、中身が何か思い出せなくなるようなことが。
 言明は避けなければいけないが、仕事の関係で老人介護施設を訪ねることがあり、重度の認知症の人を何度か見かけた。別に哀れみを持って眺めていた訳でもないが、そのことも相まって、忘れていくことの悲しさを強く感じてしまった。その人たちからすると、なんて勝手な話だと思われるのだろうが。

 ただそうは言っても、どうでもいいことを覚えていたりもする。マッチングアプリをやっていた時期に上述の映画を観たことで思い出したのだが、よくお相手からオススメの映画を教えてもらって、暇なときに観るようにしていた。そこでオススメしてもらった映画にロクなものがなかったな、ということを久々に思い出して、少しだけ陰鬱な気分になっている。
 なんでこんな映画オススメしてくるんだこの人、と思いながらやり取りは続けるが、話を聞いてみると別に嫌がらせでオススメした訳ではないようなのだ。ダークで劇的な展開だったり、大どんでん返しが良くてオススメしてくれたみたいだった。……にしたってさ。あの人、元気にやっているだろうか。今でもそれオススメする?って映画を紹介しているのだろうか。
 そもそもそういう場所で映画の話はしないほうが良いのかもしれない。自意識の押し付け合いみたいになり兼ねないから。これを読んでいる皆様方も今後、マッチングアプリでそういう機会があれば、映画の話は避けた方がいいかもしれない。
 どうしてもそういう話になったら、みんなで一緒に『ショーシャンクの空に』って答えるようにしていこうな。おじさんとの約束だ。

 以上。

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