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【インタビュー】森林原人さん AVがあってよかったー僕たちとアダルトコンテンツのこれまでとこれから

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日本のトップAV男優の一人として長年活躍し、経験人数は一万人を超える。筑波大学附属駒場中学校・高等学校(筑駒)卒業後、一年の浪人を経て専修大学に入学。紆余曲折の末、AV男優を志す。

著書に『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』(講談社文庫)他。
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AVは本当に「悪」かー居場所としての性産業

___AVは、過激な行為をさも「リアル(=偽物ではない)」であるかのように見せながら撮影することで、視聴者の興奮を喚起するという特徴があります。そのため、元々はフィクションでありながら、現実世界に及ぼす悪影響が大きいのではないか、というのがAV規制論の一つの根拠です。
このように「AVが社会に与える悪影響」については議論の蓄積がありますが、逆に AVが社会に与える好影響はいかなるものだとお考えですか?

 個人に対して居場所を作っている点だと思います。というのも、性産業に居場所を感じる人というのが一定数いるんですね。そういう人から性産業を取り上げちゃうと経済的・精神的にキツくなってしまう。もちろん、自分の性を商品化することに慣れてしまうことに弊害がないわけではないですが、商品としての性から出発して技術を身につけ、自信をつけて卒業できれば、それはそれで良いのではないかと思います。

 例えば、僕は大学受験に失敗して、将来に展望を見出せないでいたときに、ヤケクソでAV業界に飛び込んだ。男性の商品価値というのは性産業では低いのですが、僕はラッキーなことに、そこで求められる能力に適性があったんです。もちろんそれだけでは食べていけないから、技術とかコミュニケーション能力、あとはコンテンツとして自分を売っていく見せ方の部分を磨いていって22年、今に至ります。こういう経過を辿ってきたので、自分の人生を磨くよすがとして、僕はAV業界に救われた、と思っています。

 そんなの少数派の意見でしょ、と言われてしまえばそれまでだけど、「個人が1人でも救われているなら社会にとっても意味がある」という見方はできるのではないでしょうか。


AV業界のあり方ー不幸な生産者を生まないために

___AV業界は個人の「居場所」として機能する面もあるのですね。しかし、自分が一人の人間として認められているのか、単に商品として搾取されているのかの判断は、若い人だと特に難しいように感じます。
例えばつい最近、18歳に成人年齢が引き下げられたことで、20歳未満の人も親の同意のない契約を取り消すことができなくなりました。これによりAVの強制出演が増えるのではないかという懸念があるようですが、どのように対処すれば良いとお考えでしょうか?

 まず大前提として、AV業界は世間で思われているよりずっとちゃんとしているということを発信していく必要があります。AV業界には賃金支払いや性感染症検査など、しっかりした体制があると伝えていくということですね。身近な例を出すと、ボクシングがなぜ暴行罪じゃないのかというと、ルールが作られて健全化されているからということになります。AVも同じ方向性を目指しているということですね。

 一方で、同人AVのようにそうした体制が必ずしも確立していないところもあるし、実際そっちに行く人も多い。それは、ちゃんとした情報がないから、そして同人の方が手軽だから。だからこそ、十分な情報から個人が選択していけるように、まずはAVについての情報を発信していくべきだと思うんです。

 成人年齢引き下げについていうと、元々AV業界は18/19歳の人をあまり出演させない傾向があります。もし出演する場合は、親の承諾を取る。だから制度改正による影響はあまり心配せずとも大丈夫だと思います。翻って、正規の規制が及びにくい同人AVに対してアプローチするためには、やはりfc2やpornhubといったプラットフォーム側の協力や規制が必要になりますが、それはなかなか難しいですよね。

 僕自身も自分で作品づくりをすることがあって、完全にAV業界の中だけで仕事をしているわけではないのですが、AVの中に本当に様々な種類があるのだということも、問題を複雑にしています。

___今の日本では、AVが陳列される場所を限定するなどの部分的な規制が行われています。ただ、実際のところ規制の効果があるかは曖昧ですし、そもそも規制自体いらないのでは、と考える人もいます。森林さんは、AVに対する規制があるべきだと思いますか?

 僕はゾーニング賛成派で、一概に規制するのではなく、高校生とかが見られない仕組みを作る方が良いという考えです。下手に隠すよりも、むしろ1番最初に見せるアダルトコンテンツを本気で考えた方がいいのではないかと思っています。できれば、それを子供がセックスを覚える前に提示すべきです。これは寝た子を起こすな理論で考えると批判されるだろうけど、寝た子がいつ起きるかはわからないじゃないですか。これもダメ、あれもダメではなく、もう少し柔軟な扱い方に変えた方がいいのではないかと思います。


アダルトコンテンツとの「うまい」付き合い方

___森林さんの発信からは、性は楽しむものだという前向きな元気をもらえます。一方で、アダルトコンテンツとのうまい付き合い方は意外に難しいものです。昨今はインターネットポルノ中毒も注目されていますが、この点についてご意見をお聞かせください。

 ポルノに辿り着くまでのハードルを上げた方がいいですよね。ポルノ中毒の本にも書いてあったけど、簡単にドーパミンが出るものに対して人間は中毒になります。ポルノに関していうと、かつてはレンタルビデオ屋に行って少し恥ずかしい思いをしながらビデオを借りてこなきゃいけなかった。さらにそれより前になると、お父さんの部屋に忍び込んでちょっとエッチな本を見るとか、銭湯を覗きに行くとか、良し悪しは別として、とにかく手間がかかったわけです。それが今や一発で過激なアダルトコンテンツにアクセスできて、しかもそれを取っ替え引っ替えできてしまう。おすすめ機能もあるから、自分の性癖を離れてでも、よりドーパミンが出るものに流れていきますよね。アルコール中毒の人が一杯だけでやめることができないように、アダルトコンテンツも過剰摂取になりやすいんです。そこでその本に書いてあったのは、「ニコチンやアルコールと同じように、ポルノも規制しましょう」ということ。もしかしたら今後アダルトコンテンツの最初に「AVの見過ぎで人生を壊した人」の啓発ビデオみたいなものが流れるようになるかもしれなませんね(笑)。

___あり得そうな話です(笑)。アダルトコンテンツを程よく楽しむには、相応のハードルを設けるべきだということですね。


「ふれあう」セックスとは?

___テクノロジーの発達によって、身体的な接触なしに性愛行動を取ることがどんどん容易になってきています。今後ますますデジタル化が進んでいく中で、人と人との身体的な関係性はどうなっていくと思いますか?つまり、デジタルな性コンテンツが発達していくことで、リアルな性行動はなくなっていく可能性があると思われますか?

 AVで今売れていると言われているジャンルはVRなんですね。それがなんで売れるかというと、一つは海賊版が作りにくいということですが、もう一つには中毒性が高いということがあります。 VRはリアルで、ドーパミンがいっぱいです。僕はこれを突き詰めて行ったら、個人の好みにカスタマイズされたアダルトコンテンツが作れるんじゃないかなと考えています。

 例えば冨永愛さんというスーパーモデルがバーチャルファッションショーを行ったという記事を読んだことがあるのですけれど、冨永愛さんの身体的情報をコンピュータに入れて、バーチャルでファッションショーができるということは、女の子が自分の情報を売って、その人自身がセックスをしなくてもアダルトコンテンツが作れるようになるかもしれない。もしくはバーチャル上にアダルトコンテンツのスーパーアイドルが存在して、そこに自分の好みを付加していくことができるようになる可能性もあります。

 ただ、だからと言ってリアルなセックスが不要になるとは思いません。僕は、実際に体が触れ合っていく過程が大事で、人間のセックスの本質は生殖ではなく触れ合いだと考えています。生殖から快楽を切り離せたのが人間のセックスの特徴で、今は科学が発達したから、セックスしなくても子供を作れるようになっている。じゃあセックスをする意味はなくなってしまうのかというと、そうではないと考えたいんです。物心つく前、親に抱きしめられて心地よく眠るというあの喜びを、大人になっても僕たちは求めているんじゃないでしょうか。

 大事なのは心なんです。心は脳の単なる仕組みに過ぎないという人もいれば、もっとイメージ的に「心は胸にある!だって好きな人がいるとここがドキドキするじゃないか!」みたいな人もいる。好きじゃない人とセックスはできるけどキスはできないという人がいるとしたら、心は性器より口にあるという見方もできるかもしれません。結局、心がどこにあるかはわからないけれど、心があるという点では皆んな意見が共通している。だから、心の結びつき、さらにそれを生み出す肉体の触れ合いは欠かせないのではないかと考えています。

___なるほど、デジタルな性コンテンツだけでは補えない、「心」や「触れ合い」の部分があるということですね。では、VRではなく、物質的にリアルなもの、例えばラブドールがどんどん進化していったとしても、相手の中におおもとの魂がないというところでリアルな人間同士の性関係とは同じにはなり得ないのでしょうか?

 高度に発達したラブドールが意思を持った存在として認めることができるほどだったら、それは人間と同じだとみなしうるかもしれません。
 
 セックスには1人完結型のものと、他者が介在する触れ合いのセックスと2種類あるってご存知ですか。行為として見かけ上やっていることはどちらも同じです。でもそこでどれだけ他者を、相手を、人として尊重しているのかというところで決定的な差が出てきます。

 これは伊藤亜紗*さんがいっている、「さわる」と「ふれる」の違いというところに関係するのですが、「さわる」というのは物体としての相手の体にタッチしているだけに過ぎない。「ふれる」は相手の内面性を感じながらする行為です。相手の内面性を感じながらセックスをしているのか、自分の中で「すげー気持ちいい!すげー興奮する!」というところで終わってしまうのか。この両者の違いを見極めるのは難しいのですが、その差は決定的です。相手をモノに見立てて性能を使うだけなのか、そこに「あなたが好きだから」といった内面性のやりとりがあるのかによって、「さわり合いっこ」になるのか、「ふれ合いっこ」になるのかの違いが生じます。人間にせよラブドールにせよ、このどちらであるかが重要なのではないでしょうか。本物の人間かそうでないか、ではなく、そこで行われている行為の性質が問題だと思っています。

*伊藤亜紗(いとうあさ)日本の美学者。「さわる/ふれる」については、著書『手の倫理』にて語られている。


「楽しい」という気持ちを糧に

___ずっと第一線で活躍されている森林さんですが、お仕事を始める/続ける上での葛藤などはあったのでしょうか。また、葛藤があったのであれば、どう乗り越えられたのでしょうか。入れ替わりが激しいAV男優という仕事において、何をきっかけにやりがいを感じられるようになったのか、伺いたいです。

 楽しかったっていうのが1番の理由です。それは世の中全般からするとラッキーなことですよね。もちろん葛藤はありました。20歳の時に仕事を始めて、周囲が就職していく中で疎外感を感じることもあったんですけど、セックスの楽しさがまさったんです。

 どんな仕事でも真剣に続けていくと認められるようになっていく。例えば僕の親は最初大反対で、25歳までにやめるということで約束もしていたんです。だれど、25になっても、30になっても辞めないと。そのうち結婚も考えるようになった。そこで結婚相手の親が「男優を辞めないと結婚を認めない」と言ってきたことを相談したら、「お前は自分の仕事にプライドはないのか。自分の親が言っても辞めなかったのに、他人の親に言われたら辞めるのか」と言われ、いつの間にか受け入れられていたという経験があります。

 結局のところ、目の前の仕事を楽しむ、楽しまなくても一生懸命取り組む、ということの連続でしかないし、そこをおろそかにすると後悔すると思うんですよ。あんまり将来を考え過ぎないというのも一つのコツかもしれません。ビジネスというとどうしても長期的な視野というか、将来の計画からの逆算が求められる場面が多いけれど、一旦そこから離れて目の前の仕事が楽しいか、というところに焦点を当てた生き方を僕はしてきて、実際それでよかったと思っています。

___森林さんの他のインタビューで、筑駒という安全圏から、東大という安全圏に行けなかった。それがコンプレックスとなって男優になったというお話を拝見しました。同じように、自分の希望と異なる道へ進むことになった人、あるいはやりたいことが見つからず進路を決めあぐねている人は多いと思います。そういった方に対して、応援のメッセージをいただけないでしょうか。

 僕はAV業界に入って、20歳までの期間に会ったことのなかったタイプの人間に数多く出会ってきました。怖い人、病んでいる人、変態な人など、おそらく、いわゆるエリートコースを進んでいったら一生出会うことがなかったと思います。その中で、いつからでもやり直せるし、どんな道にも進みうるのだということを身に沁みて感じてきました。レールを踏み外したら人生終わっちゃうと思っていたのが、思いがけないところで今花開いているし、想像もつかないような世界で僕より楽しそうにやっている人にもたくさん出会います。だから、悩みの種になっている狭い世界にとどまっている必要はないと思う。

 ただその時に、「自分よりも下がいる」というやり方で世界を広げることは避けて欲しいです。自分より下を探すのではなく、自分の中に必ず魅力が眠っていますから、それを見つけて、自信を持って人生を歩んでいって欲しい。その中で、「性」が助けになる部分があれば、ぜひ僕もお手伝いさせていただきたいなと思います(笑)。

___本日は貴重なお話ありがとうございました!


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