韓国における新型コロナ防疫体制の検討(追記)

記事作成者は疫学や感染症の専門家ではないこと
この記事での韓国についての情報は「伝手で話を聞けた韓国の方からの情報」というレベルのエビデンスレベルであること
を念頭に置いて記事を読解、解釈してください。
また韓国に関しての記述は特に言及がない場合は4月中旬頃の内容であることに留意ください。
(韓国のガイドラインを提示していることもありますが、翻訳をかける等しての確認はしていません)

(追記)
2020/5/7 2-2 特異度に関して追記 
     3-4、4 事例定義の調査対象①の検査基準に関して追記

1.背景・目的

現在新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)が世界的に流行しており、感染者の急増から医療崩壊に至っている国・地域がある一方、急増や流行を抑え込んでいる国もある。COVID-19の流行には様々な要因があるが、中でも複数の防疫アプローチの効果を測る上で国毎の体制の違いを比較検討することは重要と考える。

今のところ抑え込みに成功している国として「韓国」が挙げられるが、防疫体制の情報も断片的で、実情も中々窺い知れず、適切な検討ができていないと感じていた。そんな折にSNSでの伝手で 「公衆衛生医師の資格を持ち、軍役で疫学調査班(後述)として活動した韓国の方」と、翻訳してくれる方を仲介してやり取りをすることができた。その方から教えていただいた情報を含めて、韓国の防疫体制について提示、検討していきたいと思う。


2.COVID-19の特徴とPCR法

韓国の防疫体制に入る前に、COVID-19の(主に防疫を考える上で重要な)特徴と、その検査であるPCR法について簡単にまとめておく。

2-1.COVID-19の特徴

・相当な割合(バイアスが比較的少なく、偽陽性が少ないPCR検査での報告で概ね2-3割前後。報告によっては5-7割のものもあり。)の無症候者がいる
https://www.cebm.net/covid-19/covid-19-what-proportion-are-asymptomatic/

発症前にも感染能を持っている可能性が高い(発症前に感染が起きた割合は44%(95%信頼区間25–69%)という報告あり)。
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0869-5

・特異的な症状に乏しく、症状では他の呼吸器感染症等との判別が困難な場合が多い。
➡症状だけでは検査前確率(検査をする際の実際の感染者/被検査人数)を高めにくい。症状持続期間が感冒等と比較して長い傾向があり、症状持続期間から確率を高めることが試みられてきた。

・主に接触・飛沫感染(特殊な条件下でエアロゾル感染)で伝播をしていくが、感染者によって再生産数(一人の感染者から二次的に感染させる人数)に大きなばらつきがあり、環境や行動によって特に再生産数が増える傾向がある。
その環境・行動を中心に予防する方策(クラスター対策、3密の回避)の提案

2-2.PCR法について

PCR法とは、検体中の遺伝子の断片を特殊な手法で選択的に増幅させて検知することで、ウイルスの存在を確認する一つの方法である。コロナウイルスはRNAウイルスであるため、検体中のウイルスRNAを検知するためにReverse Transcription-PCR(RT-PCR)という特殊な方法が必要で、適切に手順が行われれば理論上は検体中にRNAが含まれていれば高感度にそれを検知することができる。
ただし検体採取から考えると、

感染者の体液(現在は鼻咽頭ぬぐい液が主流)にウイルスが存在→適切にその部位の体液を採取し、その中にウイルスが存在→検査までRNAが保存されている→体液を適切に処理してRNAを抽出→RT-PCR法を行い検知

という幾つかのハードルがあり、その結果偽陰性(感染しているのに検査陰性となること)がある程度生じている。
既報告では現在主流である鼻咽頭ぬぐい液での初回の感度(感染していて検査陽性になる度合、1-偽陰性率)は0.5-0.7程度、
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762997
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.11.20021493v2.full.pdf

検体採取部位を限らない場合では0.5-0.8程度と報告されている。
https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200642
https://www.ejradiology.com/article/S0720-048X(20)30150-9/fulltext

つまり現状では1回のPCR検査では少なくとも感染者の2-3割程度が見落されてしまう可能性が報告されている。

(以下【】内を矢印以降に修正)
【PCR法の性質から特異度(非感染者で検査で陰性でなる度合)は高いことが予想されるが、1.0になるとは考えにくいため0.99と仮定した時、検査前確率1%(検査する際に実際に感染している人が1%)の場合陽性的中率(検査陽性となった内の実際に感染している人の確率)は約41%(1万人で考えると70人/70人+99人)であり、検査陽性者の約6割は実際には非感染者となる。陽性的中率は検査前確率が上がるほど高くなっていくが、COVID-19の場合は前述の通り症状だけではそれを高めるのが難しく、特に流行度が低い=感染者が少ない内に絞り込みをせずに検査を行うと(実際の特異度によるが)検査陽性者にかなりの割合の非感染者が混じりうる。】
PCR法の性質から特異度(非感染者で検査で陰性でなる度合)は高いことが予想されるが、検体採取からPCR法までに検体汚染(検査対象の検体に外からウイルスRNAが混入)が起こると偽陽性が生じうる。特異度に関する報告は見つけられていないが、各国の検査数と感染者数の報告(https://www.worldometers.info/coronavirus/#countries)では例えばベトナムでは5月6日時点で検査数261004件に対して感染者数271人であり、同一人物にどの程度複数回の検査が行われているか不明なため厳密ではないが、特異度は0.999(偽陽性0.1%)クラスの高さと見積もれる。ベトナムに近い状況として検査前確率0.1%、感度0.7、特異度0.999と仮定すると、陽性的中率はおよそ41%(検査陽性者の59%は実際には非感染者)、感度0.9とすると47%(同様に53%が非感染者)となる。

また検体採取時、待機時における感染リスクもあり、その配慮も必要となる。


3.韓国における防疫体制について

伝染病に対する防疫アプローチとして、

・水際対策:国内への感染の流入を防ぐ
・予防体制:行動や環境を対応・変更させて、感染の予防をする
・感染経路・行動・接触者追跡、対応:感染の伝播がどのような経路をたどり、また広げうるかに対応する
・検査体制:諸所の検査で感染者を同定する(今回はPCR法に限定)
・入院・治療・隔離体制

といった要素が挙げられ、提供された情報を元に韓国におけるそれぞれの体制について提示していく。(「流行度の判定」という方策もあるが、今回は省略する)

まず韓国の防疫に関する指揮系統として、米国の疾病予防管理センター(CDC)に沿って建てられた機関である韓国疾病管理センター(KCDC)があり、伝染病発生時にはその伝播を遮断するために機能する。伝播時には政府官僚と医療界、社会がどのような取り組みをするかの指針を示す役割を持ち、専門家と官僚が協力して国家指定伝染病対応ができるようにしている。

KCDC内の中央調査班から自治体に「中央疫学調査官」が派遣され、自治体で不十分になる事もある感染症対応体制を政府標準に合うように調整する(医科大学教授レベルの人が派遣されるよう)。その疫学調査官の指示に基づいて、各自治体の保健所には「疫学調査班」(今回話を聞けた方はここに所属していた)が設置され、COVID-19確診者の動線を把握し、確診者が属している社会的なグループ(職場、学校、病院など)の全ての人を確認し、追加発症と発生経路を明らかにし、拡散を防いで地域社会伝播を遮断する業務をする。
自治体毎に対応の差が出ないよう公共保健所には診療ガイドラインを明確に提示し、その他KCDCが積極的に公的キャパシティを使用しCOVID-19の検査を進めている。それによって収益を考慮する必要がある民間の医療機関ではなく、公的負担で積極的にCOVID-19対応ができている。

呼吸器症状やCOVID-19症状の疑いの際には、まず管轄保健所または専用コールセンターなどの相談を受けた後、選別診療所(COVID-19が疑われる患者のみを扱い、他の人との接触を物理的に遮断して検体を採取する診療所)を訪問する。 選別診療所の一部でドライブスルー検査を実施・管理している。

3-1.水際対策

出発先・国家問わずすべての入国者の「2週間自己隔離」義務化がされている。

入国時有症状の場合、全例空港で検査を実施
→陽性:病院や生活治療センター(後述)に移送
→陰性:14日の自己隔離(短期滞在者は施設隔離)

無症状の場合、
 韓国在住者では
  欧米(からの入国):14日自己隔離、3日以内に検査
  その他:14日自己隔離、症状発現時に検査
 非在住者では
  長期滞在者は
   欧米:空港からの診断検査、14日自己隔離
   その他:14日自己隔離、症状発現時に診断テスト
  短期滞在者は
   欧州(+アメリカ):入国時空港で検査、14日施設隔離
   その他:14日施設隔離、症状発現時に検査
 隔離例外*:空港での検査、能動監視*

*隔離例外:ビザがA1(外交)、A2(公務)、A3(協定)である場合。入国前に韓国大使館で「自己隔離免除書」を取得する必要あり。
*能動監視:対象者を隔離しない代わりに、管轄の保健所で14日間、1日2回連絡して発熱・呼吸器症状の有無を確認する。
参考:http://www.safetimes.co.kr/news/articleView.html?idxno=80762

3-2.予防対策

追記予定

3-3.感染経路・行動・接触者追跡、対応

PCR検査による「確診者」が症状発現2日前から確診判定を受けた日までの訪問動線と移動手段、診療機関などを追跡・調査・公開する。
COVID-19は発症直前の潜伏期間にも感染力を持っている可能性が高く、発症2日前から行動を追跡するのは、確診者がこの潜伏期間に感染をさせてしまった人を捕捉するためと考えられる。

情報提供者が参加していた3月中旬の疫学調査は二つの追跡法に分かれており、一つは疫学調査班が確診者と非対面調査を行う。韓国はキャッシュレス文化が普及しており、SMSやカカオトークに送信されるカード決済メッセージなどを確認し、その後職場通勤記録などで一次的な動線を確認する。ここまでは確診者の協力で行われ、疫学調査の協力を拒否した場合約24時間の間には動線の確認が困難*だった。
*PCR検査判定が出るまでの約24時間の間、また公文を送って合法的に疫学調査をするのにも一日が掛かり、その前では自発的な協力を得ることしかできない、ということのよう。
(後にこの時間は飛躍的に短縮される。詳細は後述。)

同時に保健機関から複数の機関に協力公文書を送り、例えば「携帯電話の基地局に位置や移動記録を照会」、「カード決済記録照会」等をする。前者は警察庁を通じて書面やFAXなどで公文書の要求をする事で照会し、後者は与信金融協会を通じて公文書要求して照会し、この期間が1日程度かかる。
それらの方法で確認した動線は自治体のインターネットサイトに公開すると共に、緊急災害情報としてその地域の全ての携帯電話(PCS電話、スマートフォンの両方)に送信する。

3月26日からKCDC、国土交通部、科学技術情報通信部(日本でいう省)などの機関が協力して「疫学調査支援システム」の運営を始めた。各機関別公文書要求は全て電子署名に置き換えされ、このシステムは上記のすべての過程(確診者の移動動線、時間帯別滞在地点の把握等)にかかる時間を24時間から10分に短縮した。疫学調査支援システムは利用対象をCOVID-19確診者に制限し、情報取得手順を厳密に運用し、GPSの記録照会のように敏感な個人情報は警察庁の承認手続きが追加で行われる。支援システムの情報閲覧、分析はKCDCと自治体疫学調査官のみ可能で、他の政府機関は一切の活用が不可能になるように設計された。COVID-19の状況が終了すると、直ちに全ての個人情報は破棄される。

この過程で判明した情報を利用してCOVID-19確診者が滞在していた地点などを調査し、濃厚接触者を特定する。そして感染が疑われる濃厚接触者は、検査の後、結果によって入院、生活医療センター入所、2週間自宅での自己隔離などに振り分けられる
この際に重要な点は、最初の検査の結果が陰性でも14日間の自己隔離をさせることである。これによりPCR偽陰性が生じ、誤って陰性と判定された感染者からの感染拡大をも封じ込めることができる。なお陽性者の一部も自己隔離となることがあるが、これについては後述する。
自己隔離を違反した場合、1年以下の懲役又は1千万ウォン(100万円程度)以下の罰金を付与されうる。深刻な違反者は拘束捜査をすることができる。
自己隔離の強制だけではなく高い協調率をもたらすために、自己隔離期間の間に様々な食料品や生活用品を支援すると共に、生活支援費や有給休暇の費用もサポートされる。 2月15日から始まった支援事業によって、COVID-19確診者、または接触などで保健所が隔離あるいは入院治療を通知した人は最低限の生活費支援を受けられる。1か月ベースで1人世帯は45万ウォン(4万5千円程度)、4人世帯は123万ウォン(12万3千円程度)を受け取ることができる。自己隔離を違反した場合、一切の支援金を受けることはできない。

自己隔離13日目にPCR検査を受けて、その結果から陰性が出る事で自己隔離解除がされる。それ以前までは、単純に自宅で外出禁止をするだけでなく、家庭内でもクリーンゾーン/汚染ゾーンを分離し、コンタミネーションを低減避けるように厳しい規則に従うようにする。
2週間の自己隔離期間には、携帯電話に「自己隔離安全保護アプリ」をインストールする。自己隔離者が隔離場所から離脱すると警報音が鳴り、担当公務員にメッセージが送信される。このインストールを法的に強制させる規定はなく、実際の設置率は60%を少し上回る程度であり、足りない部分は1日2回有線電話モニタリング、不意の現場訪問などで確認する。

市民の動線情報の追跡及び公開を「COVID-19感染確診者」に限定しつつ、確診者が訪問した移動経路、手段、診療医療機関を公開できる根拠として、韓国政府とKCDCは現在のCOVID-19の状況を例外状態(国が法律を超越した力を行使できるようにして、法の外で国民を過度に制御することができるようになる状態)に見ておらず、感染症予防法で定めた範囲内で市民の情報公開と制御を適法に実施している。関連法律の内容としては、

/ *感染症の予防及び管理に関する法律(感染症予防法)
第7章感染伝播の遮断措置
第34条の2(感染症危機時の情報公開)
①保健福祉部長官は、国民の健康に危害がされている感染症の拡散に(中略)危機警報が発令されると、感染症の患者の移動経路、移動手段、診療医療機関や接触者の現状など、国民が感染症予防のために知っておくべき情報を(中略)迅速に公開しなければならない。 * /

3-4.検査体制

中央防疫対策本部が出した「新型コロナウイルス感染症-19対応ガイドライン(7-4版)」における事例定義によると、

【疑似症患者】
確定患者と接触した後、14日以内に発熱や呼吸器症状(咳、呼吸困難など)が表示された者
【調査対象有症状者】
①医師の所見に基づいて原因不明の肺炎などのCOVID-19が疑われる者*
②海外訪問歴があり、帰国後14日以内に発熱(37.5℃以上)、または呼吸器症状(咳、呼吸困難など)が表示された者
③COVID-19国内集団発生と疫学的関連性があり、14日以内に発熱(37.5℃以上)、または呼吸器症状(咳、呼吸困難など)が表示された者

*①の補足として、疫学的関連性が見いだせない症例をすくい上げるための項目。発熱がない軽微な呼吸器症状で感冒等の患者に見える場合にはPCR検査を行われず、帰宅して常に医療用マスクを着用して数日程度の状況を見るようにされている。
(追記)具体的に疫学的関連性が不明な場合にPCR検査を行う基準は明らかでないが、上記ガイドラインの仮訳(https://note.com/yota811/n/n539f84c2f4db)では、ガイドライン中の「予防管理」の項目において「発熱や呼吸器症状があらわれた人は家で3-4日健康状態を観察し、改善がなかったりひどくなった場合に電話相談や選別診療所受診をする」となっている。また定例会見でも「4日の自宅待機で症状が解消しないこと」を受診の目安と伝えているようだ(https://note.com/yota811/n/n4dbd00602ab9)。発熱の具体的な数値は記載はないが、他の場合は37.5度であり、それが想定されているかもしれない。
そこで診療所を受診し、医師がCOVID-19を疑った場合に検査を行っていると思われる。

事例定義に属していなくても、COVID-19への暴露が疑われる状況であれば、疫学調査班の決定によってPCR検査のための検体採取を実施する。
また高齢の家族やがんの治療患者などと同居していて不安な場合、COVID-19確診者の動線が生活や自分の行動に密接に重なる場合等には、治療費(13万ウォンほど)を支払ってPCR検査を受けることが選別診療所を訪問してできる。

地域保健行政がCOVID-19に対応するレベルは、「PCR検査の需要」と「コロナ19確診者数」に応じて変わる。「PCR検査の需要」に影響を与えるのは「地域社会伝播」、「クラスター感染」が挙げられる。
「地域社会伝播」は、韓国では以前は大邱周辺の地域で起こり、最近では海外帰国者が多いソウルで起こっている。確診者が活動した近所や職場、学校、レストラン等で数多くの接触者が生まれ、その結果事例定義外での選別診療所の訪問と検査需要が急増する。この時ドライブスルー、ウォーキングスルー等できるだけ早く検査をすることができる環境が、各自治体の判断の元速やかに設置される。
「クラスター感染」は現在まで韓国では主に病院やコールセンター、教会で起きた。病院はコホート隔離(多床室での集団隔離)を、コールセンター・教会は疫学調査を通じた迅速な検査および自己隔離を実行した。
また両者の状況共に選別診療班(検体採取をする医療従事者グループ)が移動式で様々な場所で多くの検体を採取していく。疫学調査班が確診者の移動動線や滞在場所、所属グループを把握し、その情報から積極的に疑似症患者、あるいは疑似症患者集団を見つけ、選別診療班が検体採取をする流れができており、その費用は政府が負担する。

上記の検査を実施して「COVID-19確診者数」が急増した際、数多くの行政力と予算、人的資源が必要とされ、自治体は地方政府や中央政府に支援を要請することになる。政府は公共医療人材と共に民間の医療スタッフに適切な報酬と危険手当を支払う事で、速やかに人手が必要なところに勤務できるように支援する。近隣自治体同士も政府とKCDCの働きかけに応じて協力的に働き、A市の患者が受け入れ可能な患者数よりも多い場合は、まだ感染者が少ないB市の設備に移住するように助けることは通例となっている。

3-5.入院・治療・隔離体制

「疑似患者」、「調査対象有症状者」および「疫学調査の結果、コロナ19感染が疑われる環境にさらされた対象者」としてPCR検査をした場合、

— 結果が出るまで(約24時間):自宅で自己隔離
— 陰性判定:自己隔離を続け、13日目PCR検査、陰性の場合自己隔離の解除
— 陽性判定:患者管理班で重症度点数と高危険群の有無による重症度分類施行
(重症度点数と高危険群の基準:65歳以上の高齢、COPD、腎臓透析、心臓病、糖尿病、高血圧などの基底疾患、妊産婦、長期療養施設入院等)

➡病院隔離が必要でないと分類した者:自己隔離あるいは生活治療センター*入所
➡病院隔離が必要であると分類した者:患者管理班が病床を割り当てて、保健所で救急車を利用し感染症専門病院(国が運営する公立病院)、国指定の入院治療機関等に移送
内容出典:2020年4月2日「新型コロナウイルス感染症-19対応指針(自治体用)(7–4版)

*生活治療センターは市庁の公務員研修設備等を活用し、適切な自己隔離が困難な場合入所して隔離する施設。この施設では医療スタッフが1日2回以上モニタリングを実施して、症状の悪化時は医療機関に迅速移送し、隔離解除の基準に基づいて退所される。

入院待機中の確診者には電話相談と必要医薬品供給など24時間専門診療制を実施する。入院待機患者は公共機関の資料を活用して、患者の基礎疾患を事前に確認し、迅速に重症度を分類して入院治療を決定される。

感染予防への積極的な協力や生計への支援のために、確診患者の入院及び治療費や、疑い患者などの診断検査費は全額健康保険や国費で支援される。国内居住している者で隔離者や入院対象者には生活支援費や有給休暇の費用を支援し、死亡時には葬祭料を支給する。ただし海外からの入国者には隔離施設利用時の費用を徴収し、生活支援費はサポートしていない。


4.考察

以上韓国の複数の防疫アプローチについて提示してきたが、総括するとKCDCを中心とする統制の取れた指揮系統の元、COVID-19によく対応された防疫体制が整えられており、現状の流行の抑え込みにつながっていると考える。社会的な面では公的なリソースを活用して各医療施設の負担の軽減を図っており、検査・入院・隔離における支援もされている(それが十分かはまた別途検討されるものだが)。
医療面では無症候者の存在や発症前にも感染能を持つことに対応するために、「発症2日前から」徹底した行動追跡をして「感染可能性のある接触者」を探し出して症状の有無を問わず検査・隔離し、また行動情報を公表してその経路に近接した市民の自発的な申し出にも(有料だが)対応することで、感染した可能性のある接触者を非常に広く抑え込んでいる(章3-3参照)。水際対策でも入国者は症状の有無によらず一律の2週間隔離として流入を厳格に排除しようとしている(章3-2参照)。
またPCR検査の偽陰性への配慮から、PCR検査が陰性であっても2週間隔離としている(章3-3・3-5参照)。
PCR検査環境については検査需要の増加に対応できるように、移動式で検体を採取したり、検査場での感染に配慮し、数をさばける検査体制を整えている(ただ実際に感染を十分に防止できているか、限定的な診療環境で適切な検体採取やCOVID-19以外の疾患の拾い上げができているか、の検討は別途必要)。
COVID-19対応専用の医療機関を設置し、陽性者に対する診療も重症度判定の元、軽症者は自己隔離あるいは生活治療センター入所として通常診療をする医療機関への負担を減らしている。

これらの体制は過去の伝染病の経験(2015年のMERS発生)から入念に整えられてきた部分があると考えるが、人的資源の徴集のしやすさや法体制の違い等国家としての特性も影響していると思われる。また確診者の行動追跡・開示の徹底ぶりや、広い範囲での2週間隔離の強制は、COVID-19への防疫として効果的ではあるが、それらに対する配慮がされていたとしてもどのように適用すべきかどうか議論の余地がある部分ではあるだろう。

今回の検討の限界として、
・疫学的関連性を徹底的に追跡し、関連性がある者を広く検査・隔離していることはわかったが、章3-4で提示したような種々の検査対象者の内訳が不明であり、また事例定義における「疫学的関連性が不明な場合、原因不明の肺炎などとして医師がCOVID-19を疑って検査を行う者」の記載が曖昧であるため、疫学的関連性が不明な場合に実際にどの程度/どのような基準で検査を施行しているかがはっきりしない。
(追記)ガイドラインや定例会見での説明から、「発熱(37.5度?)や呼吸器症状が4日自宅待機して改善しないこと」を受診の目安としており、その後医師がCOVID-19を疑った場合に検査を行っているようだ。また「発熱がない軽微な呼吸器症状で感冒等の患者に見える場合はPCR検査を行われず、帰宅して常に医療用マスクを着用して数日程度の状況を見るようにされている」ようでもあるため、症状の程度でも検査を判断しているものと考える。これらの目安や判断は日本と類似しているが、「同じ状況で結局どの程度検査が行われているか」に差がある可能性があり、その詳細がわからない現状では厳密な比較は困難である。

・章3で挙げたような防疫アプローチ毎の定量的な解析はしていないため、それぞれのアプローチが単独でどの程度効果をもたらしているかの判断が難しい。
以上を追加で調査・解析するような検討が期待される。

最後に情報提供いただいた韓国の方、仲介いただいた方に改めて感謝申し上げると共に、韓国の方からの言葉をそのままお伝えする。

”韓国医療界は、現在国内の地域社会の「静かな広がり」を心配しています。それと一緒に、隣国である日本での拡散ニュースを放送やインターネットで接し、COVID-19の危険にさらされている市民・医療関係者を非常に懸念しています。私も同様に日韓両国の保健状況に近づいた危機的状況に多くの心配をしながら、この世界的な危機を人類みんなで一緒に乗り越える道を望んでいます。どうも、お大事になさってください。良い夜であることを。”


※章3-2、4については加筆・修正を検討中。
※章2のCOVID-19の臨床症状の項目については引用を検索中
※章3-2.韓国での市民の行動や経済的活動における予防方法(イベントの禁止、飲食店の自粛など)については情報求
※章2の特異度に関しても情報あれば求
※章4の限界の前者も同様

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