09_天繭崩落

「ねえ」ざあざあ。打ち付ける黒い雨の中、私達の視線の先から滝として流れ落ち、ある軍団は我々に突撃を試み、ある群れは悪意の音波を浴びせながら、その実生命の危機に怯えて僕の横を通り過ぎ、あるグループは失意に満ちて墜落してゆき、また、その中に留まることを決めた者たちも...少なからず。「こんなことして、良かったのかしら」「...」

ばり、ばり、高度数千を滞空している僕ら、その頭上にまだ伸びる、三里ほど離れ、なお僕らの視界8割を縦長の菱形で占拠する、彼らの、巣、コロニー、から発せられる...決して快適とは言えない物音、先の全滅した滝たちによって、何百代にもわたり、作られてきた、営まれてきた、生活、輪廻、動員、出産、戴冠、譲位、分蜂、

吊るされている繭、天が蓋をして地上との境を定めたような、なにもそこにはない、しかし、その巣は蓋の裏側に命綱を用意し、天にぶら下がり、地上を見下ろしていた、その活動は不死のはずだった、同胞が戯れに試みる巣の襲撃、破壊は彼ら兵隊の見事な働きぶり、そして、地上の物質では考えられないほどの、居住区、本丸の強固さ、破壊不能、プロテクションオール、特にその、一見して弱点と分かる命綱、先に述べた、天に碇を下ろした、そこを攻めて、地上へ撃墜してやろう、自然浮上してくる、真っ当な理論、

しかし通用しなかった、むしろ希望がある、のは本体部分で、ここの制圧には過去最大で三割方程度成功している、浮かれた同胞が武勇を語る、あそこの蜜はおいしいぜ、いやいやもっといいのがある、女王になるためのエキスだ、脅しに掛ければ養育係が差しだしてくれる、さらなるとびきりがあるぜ、あいつらの、こどもだ、なにそれさいてい~、さすがにひくわあ、口から出るのは都合のいい話ばかり、その後彼らがきちんと追い出され、巣は奪還され、半数ほどが無残な最期を遂げて、残り半分は闇の中、逃げおおせた者も、未だあの中に囚われている者も、そして生きるにせよ死ぬにせよ、また我々の仲間として戻って来、こうして馬鹿話に花を咲かせてくれるわけだが、

「あのボトルネックが国王と繋がっている、だなんて。どうやって情報を?」空中で高度を維持したまま、そして近づいてくる集団を、その最低限の戦闘能力で振り払いながら、僕にじわじわと接近し、隙あらば抱擁をし掛けようとする、紺色。艦隊そのものの終焉、特攻隊の季節、カタパルトからスクランブルされる親衛隊、虎の子、練度は高いはず、彼女は科学的知見に富んでおり、非力ながらその知恵を防禦戦に用いて善戦していた。虹の泡を放って翅を使い物とならないよう、水膜形成、セキュリティ・エリアを張り、近接戦闘・騙し討ちにもケアをしつつ。「...ええと」

対照に。弱者をとことん虐めるのが大好きな僕は、考えうる限りのあらゆる手段を以て彼らを惨殺する、脚部に火を放ち煙で体内を燻し、雷雲を呼び寄せ、光、そして嗜虐性は紺色にも及び、自分で後で振り返ってみても、ああ、悪いことをしてしまったなあ、と認めざるを得ない蛮行を以て、迎撃のやんだ小休止期間を狙い同士討ちを開始する...まじめにやってるときに求愛されるの物凄い嫌いなんですよね。

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