8月9日

俺の産まれた街は、いつでも空が灰色だった。灰色の空が割れて青い空が見える日を、ずっと待っていたが、その日が来ることはなかった。

アスファルトが先へ先へと伸びている。道のほかは下草のまばらな土地が広がるだけだった。
車のタイヤが道を舐める音以外は何もない。

ペダルを押し込み、また押し込む。ぎい、ぎいと自転車のどこかが鳴っている。

母も、父も、家族たちはこの土地にはいない。

自分が進んでいるか、帰っているかは分からないが、ともかくペダルを押し込み、また押し込んでいる。

ペダルを押し込んでいるかぎり、アスファルトの上は世界の外側であり続けているようだった。だから止まることはできなかった。

握りしめているのはハンドルではなく、命そのものなんだと気づいた。持ち手のゴムが手のひらを熱している。

何分か後、何時間か後、はたと止まった俺は世界に戻り、後ろ側へ転回し家に帰るだろう。

今はゴムを握り、ペダルを押し込み、また押し込んでいる。

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