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何歳になっても

拠点校指導員
それは新任がいる学校に配属される人
要するに新任先生の先生

授業の仕方、子どもとの関わり方、保護者対応など
いろいろなことを教えてくれる

私が勤めている地域の場合
現職を退職された先生方が再雇用される場合が多い
だから中には元校長って人もいる。

今日はその拠点校指導員のお話。

ここではその方をごんちゃんと紹介しよう。
現職の時は校長を経験、
道徳の授業を研究していて、
教員の自主勉強会まで開催しちゃってた方。
要するに
教育に対して熱ーい想いを持っている人である。

退職して2年目には、
拠点校指導員の仕事だけでなく、
教職を目指す大学生のために
大学で授業をしている。

初任者には厳しくも
「こんなふうにやりゃええんだ」
と愛情深く丁寧に指導をしている。
(ただ、顔と語気が強いため、
 新人ちゃんは泣いているw)

コロナ騒ぎで大学に通えない生徒のためにと、
スカイプやらズームやらを一生懸命使って
ちょっとでも講義が分かりやすく
面白くなるようにと教材研究も欠かさない。

小学校では授業中、
学校中を回って子どもや先生の様子をみて
関わるべき人に声をかけている。

要するにいつもちゃかちゃか動いている。

ある日の職員会議。
小学校もコロナのせいで
悉く集団でやるような活動はなくなっている。
そんなかでもやらなきゃいけないことを
精選してやっていくことになる。

例えば児童会役員選挙。
いつもだと
体育館に集まって、
1時間近く立候補者の演話を聞いて投票する。
ですが今年は、コロちゃんのせいで
密を避けなければならない。

ビデオに録画して、
それぞれ教室で放送にしましょう
と児童会担当から提案が出た。

インフルエンザが流行ると
よくビデオ放送になるので
要領はみんなわかっている。

本当は、リアルタイム放送ができるといいが、
テレビが壊れるたび少しずつ交換する
その場その場対応で機材を揃えるため
機種も機能もバラバラのテレビが各教室にある。
そしてメインの放送設備も古いため、
10年前にはできていたであろう
アナログ回線を利用したリアルタイム放送は、
デジタル放送のテレビとは繋がらず、
いろいろと不具合が出てしまい、
できない状態なのだ。

リアルタイム放送は頻繁に使うわけではないので、
教育委員会も学校も金もかかるし、
いろいろ面倒だしということで、
まあいいか〜で済ませてきたのだろう。

現場はそれじゃ困るからと、
リアルタイムじゃ無いけど、
ビデオにとって、編集して、
流すという方法を生み出した。

ご意見・質問ありませんか?

みんな下を向いている。
このまま案が通るんだな。
と思っていると、

「おいみほちゃん、手をあげい!
 zoomやスカイプ使えばできますって言え!」

ととなりでごんちゃんがつぶやく。
つぶやきなのにあまりの語気の勢いで
思わず手をあげる私。

「はい、みほ先生」
「あのー、これを機会にスカイプとかzoomのオンライン会議アプリを使って
 リアルタイム放送をしてみませんか。
 来年から一人一台タブレットも入るって言ってますし、
 ちょっとずつこういうことに慣れておいた方が…」

ざわつく職員室
みなさんの顔色を見ていると
「おお、チャレンジしてみよう!」という人はおらず、
「はあ、面倒くさいこと言っちゃって」
「え?何?どういうこと?わかんなーい」
という様子だった。

教務主任が私の方を見る。
私の横にごんちゃんがいることから
私の意見でなく、ごんちゃんの意見と察したのだろう。

「意見ありがとうございます。ここでは決めかねますね。
 今の学校のインターネット環境でうまくいくかや
 トラブルがあった時の対応など考えなくては。
 一度4役(校長教頭教務校務)と情報担当で
 話し合わせてください。次の議題に移りましょう。」

会議後、ゴンちゃんは
実際自分が大学生に向けてやっている事例を元に
こうすればうまくいくはずだと
せっせと4役に説明していた。

4役の先生たちも、
「おお、なるほど。そうですか。」
と納得した顔をしながら話を聞いていた。
 
おお、これは新しい動きが生まれるかな
ってちょっとワクワクした。

「ちょっとみほちゃん、Skypeで繋いでみるぞ。
 ほれ、あんたのPC立ち上げてみて!」

私は新しいチャレンジが好きだ。
それに話聞いててワクワクしたから、
ごんちゃんに付き合ってあげることにした。

「ほれ、こうやって繋げばいいだろ〜。
 Webカメラもあるし、できんことはないんだわ。
 やってみて課題が見つかったら直せばいいだけだで。」

勤務終了時間になったので、
ごんちゃんは帰っていった。



すると
「はあ、そんなこと急に言われてもねえ。」
「誰が準備するって俺たちっすよね。」
「LANも微妙だからうまくいくとは思えんな。」
いう声が聞こえてきた。

ごんちゃんは
強面なのと語気がものすごく強いのと
おしがだいぶ強いため
恐れられ、ちょっと煙たがられている。
でも元校長先生だから、偉い人だったからか、
みんな直接文句は言わない。


後日
児童会役員選挙はビデオ録画して放送になった。
ライブ放送のお試しも行われることなく、
ビデオ録画になった。
特に理由もあんまり説明されず、
会議に出された通りでとなった。


そっか、なんだ。変わんなかったのか。
ちょっぴりガックリしていると、

ゴンちゃんが、
「俺はもう役に立たんから帰るわ。」
と私たちに話しかけてきた。

私のデスクがあるところは、
印刷室やパソコン収納庫の入り口にある。
そのため帰る時は必ずパソコンをしまうため
ここを通らないと帰れない。

私の隣にはごんちゃんと同い年で
講師をしているおばちゃん先生がいる。
(このおばちゃん先生がなかなか面白いのはまたおいおい)

ごんちゃんはよくおばちゃん先生に話しかけて、
ひとしきり話してから帰っていく。

今日は声が暗い。
それを察したおばちゃん先生が軽快に笑い飛ばす。
「どうしたの?元気ないじゃん?」
「もうね、おれはここじゃ必要とされとらんの。
 だからね、もうはよ帰る。」
「何言っとるの?そんなこと誰が言ったの?」
「いや、みんなは俺がなんかいうと鬱陶しがっとる。」
「ふーん、そんなことはどうでもいいんだけど、
 この図はどうやったら挿入できるの?」
「ああ?なんだ?それはこうして。ここを押すんだが。」
「ああ!そうだったわ。ありがとう!」
「はあ、一生懸命アイディア出してもやろうともせん。
 おれの立場でできることは協力するけど、
 やろうともせんかったらどうしようもない。
 煙たがられとるならもうええわ。
 おれ若い頃は…」
と、話が始まった。

ごんちゃんは若い時から
子どものためになること、
自分の授業力向上になることには
惜しみなく努力してきたそうだ。
福祉施設立ち上げに携わって、
理事長に気に入られて引き抜かれそうになったこと、
知人が私立学校を設立するときに、
一緒にいい学校を作ろうと引き抜かれそうになったこと、
それでも公立の学校で自分のできることをやりたいから
続けてきたことを話していた。

その間おもろいおばちゃん先生は
この手の話にあまり興味がないようで
終始パソコンと睨めっこ。適当に相槌を打っていた。

私は自問自答し始めた。
ごんちゃんみたいに学校に対して子どもの成長に対して情熱あるかな。
教員という仕事に対して熱はあるのかな。
ごんちゃんは、熱だけじゃなくて行動も伴っている。
私は今想いがふつふつとしているだけ。
行動は伴っていない。
おれは老いぼれだからとごんちゃんは言うけど、
年齢なんか関係ないんだよな。
こうしたいんだ!という情熱と行動力がある人は本当かっこいいな。
私は一体どこに向かいたいんだったけ。
ぶつぶつぶつ

考えていると、
「何だみほちゃん、俺よりも暗い顔しやがって。」

ああ、すみません。
先生の話聞いててすごいなって思って。
私も子どものためにやりたいことできるようにがんばります。

「はあ?よくわからんけど、まあいいわ。
 老いぼれはもうがんばらんから。若者ががんばれ。
 俺は帰る。」

ごんちゃんは老いぼれじゃないです。
どんどん意見すればいいです。聞いていても聞いていなくても。
言えば、やれば、変わっていくから。

ごんちゃんに言いつつ、
これは自分に言っているんだなと
胸に思いながらごんちゃんを見送る。

何だかちょっと胸のつっかえが取れた、
お話でした。

よろしければサポートよろしくお願いします。授業準備に使用し子どもへ還元します♫