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2022年9月23~24日の静岡県内での豪雨災害に関する調査報告

 2022年9月23~24日にかけて、台風15号の影響により静岡県内を中心に発生した豪雨災害についての日本自然災害学会誌「自然災害科学」に投稿した調査報告が掲載決定となりました。紙版は5月頃刊行予定ですが、同学会WebでPDF版が先行公開されています。

牛山素行・北村晃寿:2022年9月23日~24日の静岡県における豪雨災害の特徴、自然災害科学、Vol.42、No.1、(掲載決定)、2023

上記報告の「おわりに」の内容を下記に転記しておきます。

 2022年9月23日~24日の静岡県西部・中部を中心とした豪雨は,24時間以上の長時間降水量は特に大きなものではなかったが,短時間の降水量については各地で1976年以降の最大値を更新した。静岡県内の豪雨災害としては1974年7月の「七夕豪雨」がよく知られている。豪雨の規模の比較は単純にはできないが,「七夕豪雨」時の最多雨域である静岡市街地付近の降水量で比較する限りでは,今回の豪雨の方が規模は小さかった可能性もある。

 今回の豪雨では死者3人が生じたが,発生場所はいずれも地形的に洪水・土砂災害が起こりうる箇所だった。遭難形態もこれまでの風水害時に繰り返されているものであり,特異な点は見られない。遭難した時間帯にはいずれも何らかの避難情報が発令されていたとみられ,避難情報が無い中で被災した状況ではなかったものと思われる。

 なお,川根本町で生じた犠牲者は地域の自主防災の活動中に遭難した可能性があることが注目される。筆者の調査結果中では,このような自主防災の取組中に犠牲となったと見られる被災形態としては,2019年台風19号による災害時に,宮城県石巻市で徒歩で各戸に避難の呼びかけを行っていた地域の区長が河川に転落した事例がある。2021年8月の大雨では,長崎県西海市で住民の求めに応じて訪問した民生委員が住民とともに川に転落して死亡した事例も発生した。たとえ「共助」「支援」の目的であっても,まずは各自の安全確保が第一であることを呼びかけていく必要があると思われる。

 家屋被害については公表されている数値にかなりの規模の重複が存在している可能性があり,なんとも言えない面があるが,全壊・半壊・床上浸水の合計値が数千棟規模に上っていることは確実と思われる。全国的に見れば1~2年に1回程度見られる規模と言えるが,静岡県における風水害の被害としては少なくとも40年ぶりの規模となった可能性がある。ただし,「七夕豪雨」の被害規模と比べるとかなり少ない可能性が高いものと思われる。家屋被害の多くは,静岡市の巴川流域を中心とした洪水による被害だったと思われるが,流失・倒壊に至るような被害は確認されておらず,目立った浸水が生じた場所や浸水深も想定されている範囲内だった可能性が高い。山間部などで土砂災害にともなう家屋被害も各地で生じているが,流失・倒壊といった被害は限定的であった可能性が高い。今回の豪雨による災害は、地域に深刻な影響をもたらしておりけっして軽微な災害ではないが,この地域においてこれまで起こったこともないような規模の災害とは言えないだろう。

 家屋被害の規模に対する犠牲者数は,近年の風水害と比べてもかなり少なかった可能性が高い。この背景としては,①一般に都市部での浸水を中心とした災害では家屋被害に対する人的被害の数が少なくなる傾向があること,②人的被害につながるような家屋の激しい損壊を伴う土砂災害がほとんど発生しなかったこと,③深夜に発生した豪雨であり屋外を行動中の人が少なかったこと,などが考えられる。

 防災気象情報の観点からは,結果的にここまで記録的な大雨となることが事前に十分予想されていなかった事が挙げられる。当然こうしたケースもあり得ることであり,防災気象情報に過度に依存することに対しては注意をしていかなければならないだろう。一方,今回の災害においても洪水・土砂災害が発生した場所の多くは,ハザードマップで危険性が示されていたり,地形的に災害が発生しうる場所であった可能性が高い。予想もつかないような場所で洪水・土砂災害が起こっているわけではないことは,改めて注意喚起をしていくことが重要だろう。

牛山素行・北村晃寿:2022年9月23日~24日の静岡県における豪雨災害の特徴、自然災害科学、Vol.42、No.1、(掲載決定)、2023


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。