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2019年台風19号による人的被害の特徴

 まもなく紙版が刊行される、日本自然災害学会の学会誌(論文誌)「自然災害科学」、Vol.40、No.1に掲載予定の拙著「2019年台風19号による人的被害の特徴」が同学会Webで先行公開されています。

 上の写真は、同台風の際に車で移動中(かつ避難途中)だった家族が洪水に巻き込まれ、1人が死亡したと推定される現場付近(栃木県足利市寺岡町)です。

 本報告の主な結果は以下の通りです。

・2019年台風19号(令和元年東日本台風)による死者び行方不明者数は91人(うち関連死7人)で,同様な資料が確認できる1999年以降では4番目の規模となった。
・「洪水」「河川」の水関連犠牲者が7割を占め,筆者が解析している1999年以降の風水害中では,群を抜いて高い比率となった。
・「屋外」犠牲者が6割弱で,近年の風水害に比べ若干高い比率である。
・「屋外」犠牲者のうち,自動車などの「車内」での犠牲者が5割以上で,近年の風水害の構成比(3割弱)より明らかに高かった。このほとんどは「洪水」で,車で移動中に洪水で流されて死亡するケースが非常に多かったのが特徴である。
・「土砂」犠牲者は多くなかったが,過半数が土砂災害危険箇所の範囲外で発生し,近年の風水害とは異なる傾向が見られた。発生場所としては,緩斜面・不明瞭な谷の付近で,現在の土砂災害警戒区域等の設定基準では対象外となる場所が多かった。
・「洪水」「河川」犠牲者は7割弱が浸水想定区域付近で発生し,近年の風水害よりかなり比率が高かった。主要河川付近など,浸水想定区域の整備が進んだ地域での発生だった影響が考えられる。
・「洪水」「河川」の9割以上が地形的に洪水の可能性がある「低地」で発生し,これは近年の風水害と同傾向である。地形情報をハザードマップの補助的情報として活用することの重要性があらためて示唆された。

 2019年台風19号(令和元年東日本台風)に関する調査については、ブログで下記のように逐次報告していました。

 ついでですので、筆者によるこれまでの風水害犠牲者に関する一連の研究を挙げておきます。

牛山素行:2004年台風23号による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.24, No.3, pp.257-265,2005.
牛山素行・國分和香那:平成18年7月豪雨による人的被害の分類,水工学論文集,,No.51,pp.565-570,2007.
牛山素行:2006年10月6日から9日に北日本で発生した豪雨災害時に見られた行方不明者覚知の遅れ,自然災害科学,Vol.26,No.3,pp.279-289,2007.
牛山素行:2004~2007年の豪雨災害による人的被害の原因分析,河川技術論文集,Vol.14,,pp.175-180,2008.
牛山素行・片田敏孝:2009年8月佐用豪雨災害の教訓と課題,自然災害科学,Vol.29,No.2,pp.205-218,2010.
牛山素行・高柳夕芳:2004~2009年の豪雨災害による死者・行方不明者の特徴,自然災害科学,Vol.29,No.3,pp.355-364,2010.
牛山素行・高柳夕芳・横幕早季:年齢別にみた近年の豪雨災害による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.30,No.3,pp.349-357,2011.
牛山素行・横幕早季:発生場所別に見た近年の豪雨災害による犠牲者の特徴,災害情報,,No.11, pp.81-89,2013.
牛山素行・横幕早季:2014年8月広島豪雨による犠牲者の特徴,自然災害科学,Vol.34,特別号,pp.47-59,2015.
牛山素行:平成27年9月関東・東北豪雨による犠牲者の特徴,土木学会論文集B1(水工学),Vol.72,No.4,pp.I_1297-I_1302,2016.
牛山素行:発生場所から見た平成27年9月関東・東北豪雨災害による犠牲者の特徴,河川技術論文集,Vol.22,,pp.309-314,2016.
牛山素行:日本の風水害人的被害の経年変化に関する基礎的研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.73,No.4,pp.I_1369-I_1374,2017.
牛山素行・関谷直也:2016年台風10号災害による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.36,No.4,pp.429-446,2018.
牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一:平成30年7月豪雨災害による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.38,No.1,pp.29-54,2019.
牛山素行:豪雨による人的被害発生場所と災害リスク情報の関係について,自然災害科学,Vol.38,No.4,pp.487-502,2020.

 風水害犠牲者の調査についての、noteでの記事は下記マガジンに整理しています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。