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土砂キキクル・土砂災害警戒情報の「除外格子」

 8月上旬の東北地方の大雨の際に土砂キキクルをみていると、いささか違和感のある表示が散見されたのですが、これは土砂キキクル(あるいは土砂災害警戒情報と言ってもよい)にある、「除外格子」という概念の影響と考えてよいと思います。
 一例として8月9日14:20の青森県西部の表示を挙げます。この時刻には何の意味もありません。たまたま画面キャプチャしたのがこの時刻だったというだけのことです。まず、解析雨量をもとにした24時間降水量の積算値、気象庁ホームページの言葉で言うと「今後の雨」の実況値です。ところによって350mmの表示があります。西日本あたりの降水量を見慣れているとなんということのない量ですが、この地域としてはかなりの量になりつつある。と言っていいでしょう。

2022年8月9日14:20の解析雨量による24時間降水量。気象庁ホームページ「今後の雨」より

 ところが同じ地域の土砂キキクルをみると黄色(警戒レベル2相当)がかなり広がり、、紫(警戒レベル4相当)の範囲は限定的なようにも見えます。しかしこれは土砂災害の危険性が高まっているところが限定的な状況ということではありません。

2022年8月9日14:20のキキクル(危険度分布・土砂災害)。気象庁ホームページより

 平野部で斜面がまったくなかったり、山間部で通常は人が立ち入らないような場所は、土砂キキクル・土砂災害警戒情報で土砂災害の危険度を判定する対象外とすることがあります。危険度はメッシュ(格子。東西南北それぞれ約1kmなどに区切った範囲)単位で判定するので、こうした場所は「除外格子」と呼ばれています。除外格子の場所が激しい大雨に見舞われても、土砂キキクルは黄色以外になりません。「除外格子」はいわゆる「業界」では日常的に使われている言葉ですが気象庁ホームページには明確に言葉としては挙げられていません。ただし、関連する記述は「気象庁ホームページ > 知識・解説 > 土砂災害警戒情報・土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)」の一番下の方にちょっと書いてあります。

平坦で土砂災害が発生しえない領域や、建物がなく定住者がいないなど定常的に人が活動していないため重大な被害を及ぼす土砂災害の危険性が認められない場所では、大雨警報(土砂災害)、土砂災害警戒情報及び大雨特別警報(土砂災害)の判断基準は設定しておりませんので、これらを意味する「警戒」(赤)、「危険」(紫)、「災害切迫」(黒)の表示となることはありません。このような場所で活動をする場合は、「雨雲の動き」等で最新の状況を確認するとともに、危険な場所から離れることが重要です。

気象庁ホームページ https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/doshakeikai.html

 具体的にどこが土砂キキクルの除外格子なのかは気象庁HPに中の情報では明示的には見えませんが、各県が整備している同様な情報では確認できる場合があります。ここで例示した青森県の場合は、「青森県土砂災害警戒情報システム」の「土砂災害危険度補足情報」を拡大表示していくと、斜線メッシュが除外格子とわかります。背景の地図と合わせて読むと、山間部の黄色はことごとく除外格子で、道路沿いが除外格子になっていないので道路に沿って紫が表示されている事が読み取れます。

2022年8月9日14:20 「青森県土砂災害警戒情報システム」の「土砂災害危険度補足情報」

 除外格子自体は必要な概念だと思います。人が全くいないところで土砂移動現象(崖崩れ、土石流)の危険性が高まったり、実際にこうした現象が生じたとしても、そこに人がいなかったり人の活動が行われていなければ、「被害」が出ないわけですから「土砂災害」にはならないと考えられます。こうした場合にその都度、土砂災害警戒情報を出してしまうと、人のいる場所には何の影響(被害)も及ぼさない現象に対して避難の呼びかけを行うようなことにつながり、情報に対する信頼性を損なう可能性があることなどが懸念されます。ただし、俯瞰的に広い範囲をみようとするときには注意が必要かと思います。

 ところで、除外格子が「無表示」にならず黄色というあまり危険性を感じさせない色で表示されるのがなぜなのか、ということについては、明示的な資料を承知していません。黄色は注意報と同等の情報で、注意報については除外格子という概念がないからかな、とも思うのですが、今度はこの概念が明示された資料が見つかりません。

 このあたり、説明をし出すと話がややこしく、誤解が生まれやすい気がするので、気象庁の土砂キキクルの画面でも除外格子は除外格子であると表示した方がいいのかもしれない、と思いました。

記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。