令和2年7月豪雨による人的被害の特徴についての断片的速報

 当方では,最近約20年間ほどの日本の風水害による死者・行方不明者の発生状況についての調査研究を続けています.その結果のあらましについては,先日下記の記事で紹介しました.

 今回の,令和2(2020)年7月豪雨に関しても,同様な調査に着手しているところです.まだあまりにも断片的な整理ですので,noteにての公開とします.

 7月9日現在の消防庁資料によれば,死者59人,「心肺停止」4人,行方不明17人,計80人の被害が生じています.当方のこれまでの調査手法にもとづき,これらのうち,報道内容や住宅地図などの情報を総合して,その発生位置を概ね番地程度まで(範囲の狭い町丁目程度まで推定のケースも数人含む)推定できた人が47人となりました.ただしうち14人は熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」1箇所での犠牲者です.発生推定位置の分布図を下図に示します.福岡県などでも死者が発生していますが,現時点で番地程度まで推定できたのはこの球磨川周辺のみです.

作図_202007豪雨

 発生場所は大きく分けると,①人吉盆地,②球磨川の狭窄部沿い,③芦北町・津奈木町の山間部付近,の3箇所に大別しても良さそうです.①と②は居間の推定できる範囲ではいずれも洪水による犠牲者で,③は土砂災害の犠牲者が主と推定されます.まだなんとも言えない部分が多いですが,全体で見ても洪水による犠牲者の比率が8割程度になりそうです.これは,水関連の犠牲者の比率が高かった,2019年台風19号(令和元年東日本台風)の時を上回る比率となるかもしれません. 

2019年台風19号等による人的被害についての調査(速報 2019年12月30日版)

 ただ,台風19号の時とは異なり,車などでの移動中の遭難は少なく,自宅での遭難が中心となりそうです.未明から朝にかけての大雨であったことを考えるとうなずける結果です.また,それぞれの災害ごとに様相は異なる事にも注意が必要です.直近の特定災害事例「だけ」をみて「近年の傾向」といった読み取り方をすることは適当でないでしょう.よく誤解がありますが,平成30年7月豪雨の犠牲者も,数としては水関連犠牲者は多いですが,比率で言うと土砂の犠牲者が54%,水関連は43%と土砂の方が多くなっています.

牛山素行・本間基寛・横幕早季・杉村晃一平成30年7月豪雨災害による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.38,No.1,pp.29-54,2019

 上記の図は,本当に緊急にとりまとめたもので,誤りが含まれている可能性があることをご了解下さい.今後,更に調査を続ける所存ですが,現在絶望的に時間がなく,本件災害についての調査は無論のこと,報道等の情報を見ることすら難しいかもしれません.また,コロナ禍であることを考慮し,現地調査は当面予定しておりません.

 展望がないですが,とりあえず以上です.


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。