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「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」による「最終とりまとめ」から

2020年12月24日に、内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」による「最終とりまとめ」(報告書)が公表されました。

http://www.bousai.go.jp/fusuigai/subtyphoonworking/index.html

同WGに委員として関わった立場から、この報告書について、特に筆者が関心のある部分についてかいつまんで読んでみたいと思います。なお、この報告書は上記ワーキンググループによる提言的なものであり、この公表を持って避難情報の変更などが制度化されるものではありません。今後この提言を元に内閣府により、現在の「避難勧告等に関するガイドライン」の改定作業などが行われると考えられ、その後に制度がスタートすると考えられます。


これまでの避難情報改定の経緯がまとめられている

この報告書で一般的にも関心が持たれるのは、避難勧告などの避難情報の改変に関わる部分かと思います。避難情報についてはここ十数年間にたびたび改変が行われており、報告書の2章「災害対策基本法制定以後の制度の変遷及び検討経緯」はこの間の経緯を知る上で、貴重な資料となっていると思います。

なお、この間の過程については、私の視点からも下記にとりまとめを行っています。

牛山素行:特集 災害時の「避難」を考える ―プロローグ 避難勧告等ガイドラインの変遷―,災害情報,No.18,pp.115-130,2020.
http://www.disaster-i.net/notes/2020jdis18.pdf

新たな警戒レベルの一覧表

今回の報告書の最も主要なポイントは、報告書24ページの「図3 新たな警戒レベルの一覧表」に集約されていると思います。

スクリーンショット 2020-12-25 111943

この図、というか表と似たものはこれまでも出されてきました。例えば、

避難勧告等に関するガイドラインの改定(平成31年3月29日)
http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/h30_hinankankoku_guideline/index.html

に「避難情報のポイント」という資料が載っていますが、この資料の右下にある表がこれに当たります。

スクリーンショット 2020-12-25 113040

今回の「新たな警戒レベルの一覧表」とこれまでの表の違いで注目されるのは、「状況」という列が加わったことです。これまでの表では、警戒レベルの数字の後に「住民がとるべき行動」-「避難情報等」と続いていました。つまりこれまでは、それぞれの警戒レベルが発せられるのはどのような状況の時なのかという、背景説明に当たる情報が明瞭ではありませんでした。
「新たな警戒レベルの一覧表」ではこれが「警戒レベルの数字」-「状況」-「住民がとるべき行動」-「避難情報等」と続くようになり、「このような状況になったので、このような行動をとることが望ましく、その際にはこのような情報が発せられる」という構造になりました。「状況」といっても「災害発生のおそれ高い」など、大まかな表現になっていますが、詳細は今後ガイドラインに明記されていくことになると思います。

避難情報関係の主な変化

今回の報告書で挙げられた避難情報関係の主な変化としては以下が挙げられるでしょう。

・警戒レベル5の情報名称が「災害発生情報」から「緊急安全確保」に
・警戒レベル5の状況は、災害発生だけだったものが、「災害が切迫している状況(発生直前又は未確認だが既に発生している蓋然性が高い状況)」も含まれることに
・警戒レベル4に「避難勧告」と「避難指示」が含まれていたが、「避難勧告」はなくなり、「避難指示」に一本化
・警戒レベル3の情報名称が「避難準備・高齢者等避難開始」から「高齢者等避難」に
・ただし警戒レベル3は「高齢者等のためだけの情報ではなく、それ以外の人も必要に応じ、出勤等の外出を控えるなど普段の行動を見合わせ始めたり、危険を感じたら自主的に避難するタイミングであること」も明記される

それぞれについて書いておきたいことはありますが、これらは改めて稿を起こしたいと思います。

避難情報の改定はそろそろ慎重にしては

ここ10年ほどの間、避難情報はたびたび改定が繰り返されてきました。大きな災害が起こる都度、様々な課題が指摘され。それを背景として改定が行われる、といった流れだったと理解していますが、頻繁な改定ということに対してもいろいろなご意見があろうかと思います。この点については今回の報告書の中でも以下の言及があります。

「なお、近年、大規模な水害・土砂災害が発生する度に頻繁に情報名称の見直しを行っているが、本見直し以降は当面の間、情報名称等の定着に向けた取組とその検証に注力し、大規模な災害が発生したとしても情報名称の見直しを目的とした議論をするべきではない」(報告書24ページ)

今後も実際に災害が起こると、「わかりにくかった」「こういう情報があるべきだ」といった議論は出てこようかと思います。このあたりは大変難しいところで、本当に様々に意見が分かれるところです。現在の仕組みを金科玉条とすべきではないとは思いますが、あまりに頻繁な改定にはそろそろ慎重であった方がいいのではないかと私は思います。

記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。