避難させればいいというものではない

 自分の調査結果が引用されている場面でちょっとまずいなと思うところをもう一件.あるところで「豪雨災害では,亡くなった方の多くが避難行動をとっていなかった」という記述を読んだ事があり,その出典を訊ねたら「あなたの調査だ」ということでした.多分この下図のことでしょう.なお,この図は最近作ったもので,こうした「誤解」を踏まえてクドクド加筆した版です.

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 この図は「避難行動をとったにもかかわらず犠牲となった人が1割も確認される→避難は難しい」という事を示すものであり,「ほとんどの犠牲者は避難していなかった」事を強調したいものではありません.この図の「行動なし」の内容はかなり多様で,まず少なくともその半数は屋外行動中で,「家から避難しようとしていなかった」人達ではありません.また,避難しようとしていたけど様々な要因でできなかったケースもありますし,そもそも自ら危険に近づいていたという人も少なくありません.「避難行動なし」と聞くと,自宅で漫然と避難せずにいた,みたいなイメージが湧きそうです.そういうケースがごくわずかとは言えないませんが,犠牲者の9割を占めるわけでは決してありません.集計上単純化した分類名が一人歩きする事の恐ろしさを感じ,後悔しました.「避難行動なし」ではなくて,「その他」にしておけばよかったと思いました.

 むしろまずいと思うのは,「避難行動あり」という犠牲者の存在です.この人達を更に分類すると,1999-2018年の106人中では,少なくとも54人は避難元となった自宅に被害がありません.あくまでも結果論ですが,この人達は避難しなければ命を落とさなかった可能性がありそうです.

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 「避難行動あり」犠牲者の7割ほどは,避難のため移動中に遭難しています.避難目的に限った事ではありませんが,に限らないが屋外行動の危険性が改めて示唆されます.また,避難先で遭難した人も2割ほど.各自が避難先を考える事は重要ですが,避難先の災害の危険性も吟味が重要でしょう.ここなら絶対安全,はなかなか難しいとは思うのですが.

20191019災害情報

 そもそも,既に状況が危険である事は十分承知の上で,屋外などで行動して亡くなったと思われるケースも少なくありません.こうしたケースを私は「能動的犠牲者」と分類していますが,全犠牲者の4分の1に上ります.

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 「それ,田んぼの見回りで用水路に転落でしょ」と思いそうですが,そういうケースは比較的少ないでしょう.多いのはむしろ,個人的な防災行動です.こういう結果を見てるから,自宅付近の土のう積みがどうこうとか聞くと,背筋が寒くなります.

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 「多くの人が自宅から避難せず犠牲になっている」,それは否定はしません.だからといって,「自宅から避難所に避難させればみんな助かる」といった単純な問題でもないでしょう.絶対の正解はなく,個々の状況に応じた,「危険から身を逃れる」事が重要と思うのですが.

記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。