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能登半島地震 空中写真から判読した倒壊建物の建築時期(輪島市鳳至町)

※写真は国土地理院公開の輪島市街地付近(2024年1月5日撮影)の空中写真


地震による建物倒壊と建築時期

 今回の能登半島地震では、地震の揺れによりかなり多くの建物倒壊が生じているようです。報道などの映像で見る範囲では、倒壊している建物は比較的古い建物が多いように思われました。阪神・淡路大震災では、建築基準法が大きく改定された1981年より前の建物で被害が多かったことはよく知られています。

 2016年熊本地震の際も、1981年より前の木造建物では「倒壊」(単なる「全壊」ではなく外観上明らかにつぶれてしまった程度の被害)が28.2%、1981~2000年の建物では同8.7%,2000年より後の建物では2.2%だったことが知られています。https://www.mlit.go.jp/common/001155087.pdf

 2016年熊本地震の際の当方の調査では、倒壊した建物の屋内で遭難したとみられる犠牲者37人のうち、33人が1981年の建築基準法改正前に建築(完成時期ではなく建築開始と見られるケースも若干ある)された建物内での遭難でした。

牛山素行・横幕早季・杉村晃一:平成28年熊本地震による人的被害の特徴,自然災害科学,Vol.35,No.3,pp.203-215,2016

 犠牲者の発生に至るケースでは、「倒壊」に当たる被害形態が大きく関係してくるのではないかと思います。

倒壊家屋の判読手法

 上記のようなことから今回の能登地震における状況が気になっていましたので、断片的ではありますが、国土地理院公開の空中写真などを用い、輪島市街地の一部について倒壊家屋の築年時期を推定してみました。
 ここで「倒壊家屋」とは、建物の形状がほぼ確認できない、元の高さより明らかに低くなっている、形状が明らかに変形しているのいずれかに該当する建物です。住家や事務所など、人が所在していると考えられる建物が対象で、倉庫など日常的に人が所在しない非住家と思われる建物は判読対象外としました。判読は同一の世帯,会社等の敷地の範囲を単位として行い、これらの範囲内に複数の建物が存在してその一部が倒壊家屋に該当する場合に「1箇所」としました。したがって「倒壊家屋が存在した箇所数」であり、「倒壊した建物数」ではありません。
 被災状況は、発災後に国土地理院が公開した空中写真を用いて立体視し(2次元の写真だけでなく立体視して建物の形状を見ています)、上記で定義した倒壊建物に該当すると思われる箇所を判読しました。被災前の状況は、倒壊家屋の直近の形状と1970年代の形状を、過去に国土地理院が撮影した空中写真を用いて立体視して判読し、同一の形状であると判読された場合は「1970年代以前築の建物」と分類しました。直近の建物形状についてはストリートビューも参照しています。

輪島市鳳至町付近の倒壊家屋発生箇所

 判読したのは、輪島市鳳至町(ふげしまち)周辺です。この判読範囲は、今回の被災地域のうち新旧の建物が混在・密集し、倒壊家屋の被害が目立っていると思われる箇所から便宜的に決めたもので、特に深い意味はありません。この付近で撮影された1970年代の空中写真としては、1975年撮影のものがありましたので、これを主に用い、一部の箇所については他の時期の写真も利用しています。判読結果を下記に示します。

空中写真から判読した輪島市鳳至町の倒壊家屋発生箇所

 判読範囲は約360m四方(作業の都合上便宜的に決めた範囲が結果的にこうなったものでこの数字に特に意味はありません)くらいの範囲です。この範囲内の建物全体を一通り判読したところ(見落としが無いとは言えません)、うち13箇所14箇所の倒壊家屋発生箇所が判読されました。この範囲では津波による流失・倒壊や、火災による焼失とみられる建物は判読できず、いずれも揺れにより倒壊した建物と推定されます。
 過去の空中写真などと合わせて判読したところ、これら13箇所14箇所のうち12箇所13箇所は1975年以前、1箇所は1981年以前に建てられた可能性がある建物と推定されました。すなわち、この範囲においては、すべての倒壊家屋が、建築基準法が大きく改定された1981年以前に建てられた建物の可能性があると言えそうです。
[※1/7 23:30追記]記事および図中の倒壊家屋発生箇所数に誤りがありました。13箇所ではなく14箇所でしたので、訂正します。箇所数のみの訂正で分布図自体に訂正はありません。

 あくまでも空中写真から判読・推定した結果であり、実際の建築年とは相違がある可能性があります。建物の形状が1981年以前と近年で同一だったとしても何らかの耐震化がなされている可能性もありますが、それは読み取ることができません。被害程度も現地で見ればもっと激しいことも考えられます。短時間で急遽判読したものであり、厳格に正確なものではありません。限定的な範囲の読取り結果であり、全被災地域を代表するものではありません。

倒壊すれば「全壊」だが、「全壊」は必ずしも倒壊していない

 現在の家屋被害の認定基準では、外観上明らかな倒壊に至らなくても、継続的に居住することが困難となるような被害程度の場合、罹災証明で「全壊」と判定され得ます。「倒壊」すればほぼ確実に「全壊」となりますが、一方で「全壊」家屋は必ずしも「倒壊」しているわけではないことは注意が必要です。倒壊しなければ被害は軽微などということはありません。ただ、倒壊するような被害状況は人的被害をもたらす可能性があり、「倒壊ではない全壊」より深刻な被害程度と言えるでしょう。「倒壊」という統計値があれば区別がつくのですが、そういう統計値は(熊本地震のように特別に調査でもしない限り)ありません。
 話はややそれますが、現在の罹災証明の被害認定の基準では洪水災害の場合、外観上特に大きな損壊がない建物でも床上1.8m以上浸水すれば「全壊」、床上に浸水すれば「半壊」となり得ます。近年の洪水災害では全壊・半壊多数で床上浸水がゼロという統計値も珍しくありません。洪水で家屋が完全に流される・倒壊するようなケースは近年では極めて稀なのですが、イメージされやすい「全壊」と実際の「全壊」の姿がずれてきている可能性があることは注意が必要です。「全壊」を積極的に認定することで支援を手厚くする、という方向性自体は何ら異論は無いのですが。

 珠洲市正院町での現地調査では、100棟中40棟ほどが「全壊」に当たる被害程度で、その半数が1981年以降に建築・改築されたとみられると報じられています。「全壊」のうちなのか「全壊で1981年以降築」のうちなのか記事ではよくわかりませんが、「倒壊」したケースも10棟ほどあると報じられています。

 今回の当方の読取りはあくまでも限定的な範囲・限定的な資料によるものであり、被災地域全体の実態を代表するものではありません。今後出てくるであろう様々な情報を注視したいと考えています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。