戯言:ポカスタのサ終間際に燃えた嫉妬心

2022年2月28日、ポーカースタジアムはサービス終了を迎えた。

その前日、VIPマッチのレーティングで暫定1位になっていた。が、その日の終了時点で2位に転落していた。1位にはうずまき氏の名前があった。


よくあることだ。

プレイ時間が限られている自分がどんなに頑張ったところで、時間と実力があるプレイヤーには敵わない。VIPマッチでいい順位が狙えそうになる度に、この問題にぶつかってしまう。

別にいいじゃないか、2位でも入賞だし。

そう思って、ランキングページを閉じた。


最後の日、私は普通に自宅で仕事をしていた。在宅勤務の日は家から出るのはお昼休みくらいで、仕事が終わればそのまま自宅で子どもとの格闘が始まる。サービス終了の日だからと言ってそれは変わらなかった。

先にも書いたが、この時点で私は1位を取ることは諦めていた。その時点でのレート差は10もなかったので、1勝でもすれば1位に戻ることはできる。しかし、相手が悪すぎる。最終日にプレイすると宣言していた以上は間違いなく抜き返される。それなら無理して家から出なくてもいいじゃないか。

そう思っていた。少なくとも、仕事が終わるまでは。


仕事が終わって時計は18時前、ランキングを見たが変動はない。だが、そこでふと気づいた。


(諦めているはずなのに、何故自分はランキングを見ているのだろうか)




VIPマッチシーズン3
自分にとって苦い思い出の1つが蘇る。

シーズンの初めからランキングを気にし続け、なるべく上位をキープする。それを考えすぎて本来の自分らしいプレイスタイルさえも投げ捨てていた。そんな中、突然上位のレートが更新され、自分は入賞ラインから蹴飛ばされた。ところが元々いた自分とは関係なく、上位プレイヤー達はTwitter上で交流、もとい煽りあいをしていた。


大したことではないはずだが、悔しかった。当人たちはそんなつもりは毛頭ないだろうが、除け者になってしまった感覚だった。

そこから再び上位を狙うも、短時間で無理に勝ちを狙いにいって結局負けてしまう。


そこで悟る。あぁ、プレイ時間も満足に確保できないやつにはどうにもならないのだと。ゲームで上位に立つためには、十分な資金と時間が必要であるのだと。それを確保できる環境でない時点で、初めから勝負すること自体が無謀なのだと。


結局これを引きずり、次シーズンで1800ラインすら割り込んでしまった。








まだできる事はある。

時間が無いなんて言い訳だ。

最後くらい必死に抗ってやる。


最後の頂は俺が取る。


唐突なモチベーションに、自分自身が一番動揺していた。



言い訳は買い出し、長くても1時間が限界。

コートを羽織り、全力で目的地へと急いだ。


最低でも超えなければならないノルマは1つ。うずまき氏がSランクのサブカードを握っている以上、1度はトップにならなければいけない。メインカードを戦場に引きずり出さなければならない。



しかし、現実は厳しかった。配られるカードは紛うことなき下ブレ状態、テーブルにはタフコーラー、ブラフも通せず、気づけばチップは8000から5000を切っていた。

100円でチップを追加購入。12000近辺まで戻したが、それでもプラマイゼロでしかない。


そんな時、たまたま、左隣にうずまき氏が着席した。当然、サブカードだった。

自分の状況がバレた。しかもポジションで優位を取られた。しかもサブカードだからリスクを取れる。考えられる限りもっとも致命的な状況だった。


配られるハンドは相変わらずだった。

ただ、何故かは分からないのだが、



ザガンで配られた3と6のスペードスーテッド、これが輝いて見えた。




自分のポーカーとは何か。

強いハンドの機械的な動き、学びをめちゃくちゃにしてしまいたい。

それが昔、自分のポーカーを否定された時に生まれた、マジョリティに対するささやかな抵抗であり、ポーカーをする理由の1つだった。

その気持ちを忘れ、機械的なプレイでレートを維持しようとする自分は、この場に必要なかった。



弱小ハンドで3betをコールした。結果ボードは黒く鋭く染まった。フロップフラッシュである。

一切の躊躇いもなく、ドンクオールイン。

もう上のフラッシュなら仕方ない。

ドローが出てくるなら引かれなければいい。


3betレイズしたプレイヤーからコールが入る。開いたのはスペードではないAKだった。

ターンが開かれるがこれもスペード、もしかしたらボードによって引き分けになってしまうかもしれない。



最後、リバーに落ちたのはスペードの4だった。


ギリギリで逃げ切った。ノルマの1勝を手にし、ここで時間切れとなった。

結果的にはラッキーというだけなのだが、自分が本来追い求めていたポーカーのあり方が、このタイミングで開花したのだ。

後は抜かれないことをただ祈るのみ。




今までだったらそうしていたかもしれない。しかし、今回は最後だ。やれることは全てやらなければと思った。例えそれが外道だと言われようとも、自らの名をゲームの頂点に刻むために、時間が無い自分ができる最大限の悪あがきを2つ用意した。


1つ目は、先程の勝利時の画面写真。これを使って今自分が1位であることをアピールする。

ただ、これについては本人が目の前で見ていたのだから実質不要ではあった。一方で、たまたまサブカードでのプレイを目撃したため、それを文面に落とし込んだ。


これにより、主役は自分ではなくなった。


2つ目の策は「まだ自分がプレイするつもりであるという<ブラフ>」である。仮にレートで抜かれた場合、もう自分はプレイできない以上、相手がプレイを辞めてしまえばそこで終わりである。レートを注視し、相手のレートが自分より上になった時点で抜かそうとしていることをアピールする。それもラスト30分、相手の最終レートが見えないタイミングで動こうとしているように見せた。

ただ、抜かれるまでは動かない可能性もある。その場合に備えて、22:30頃にTwitterに貼るためにホーム画面の写真も用意していた。1位になってすぐ撮影したため、しっかりとランキングは2位になっている。

この2つ目の策に関しては、たまたま相手がTwitterをやっていたから成立する可能性がある不安定なものである。ましてや、自分が普段長時間のプレイができない事を知られていては、通常なら100%成立しない。

それでもこの策を用意したのは、「最終日」だからこそである。最終日だからこそ相手は長い時間のプレイをするであろうし、逆に自分が最終日だからこそ普段ならありえない長時間のプレイをしようとしているかもしれない。まさしく1度きりしか使えない究極のブラフである。

仮にこの嘘がまかり通っても、相手がさらにレーティングを伸ばす可能性もある。そもそもレーティング上位で争っている時点でその確率の方が高いのだ。ここまでやっても結果的には悪あがきでしかなく、勝算はほぼない。


結果的に、ブラフは通った。
そして、うずまき氏がレートを下げたことで、再び自分がトップとなった。



ただ、どこか納得がいかなかった。相手にだけ見えないゴールに向かって走らせるこのやり方は、どう考えても正攻法ではないのは明らかだった。

そんな自分への言い訳として、22時の時点でブラフを解いた。実際その直後にギリギリのところまで迫られたが、これで抜かれたなら相手が上手かったのだから、称えて終わりで満足できる気がした。

たぶん、そんなことなく悔しがるだろうに。




結果、抜かれなかった。

偶然がいくつも重なり、最後まで2044のレートは1位を示していた。

自宅のリビングで、妻にバレないようにこっそりと泣いた。




何も見返りなんてないのだから、ここまでする必要なんてなかった。

それでも1位を取ろうと思ってしまったのは、ただ、他のプレイヤー達が、羨ましかっただけなのだ。

ある人は常時ゲームの前に立ち続け、ある人は各地の設置店を巡り交流し、ある人はライブポーカーの大会権利を得て新たなフィールドで戦っていた。

私にはそれをできるだけの時間も資金もコミュ力もなかった。ただの有象無象のプレイヤーでしかなかった。

これは結局、自由に遊んでいるプレイヤーたち全員に対する、嫉妬でしかなかったのだろう。たまたま1位を争っていたのがうずまき氏であっただけで、別に特定のプレイヤーだったから意地でも勝ちたかったとかではない。

ただ、自分がこのゲームが好きだったということを、ランキングのトップという見える形で残したかっただけなのだ。

なんてしょうもない見栄であろうか。

そもそもこの記事を書いていることそのものも、見栄でしかないのだ。



自分がテキサスホールデムを知ったのは、17歳の頃である。

もっと前にこのゲームが始まっていたら、見栄を張ることもなかったかもしれない。


これで、私のポーカースタジアムは、本当に終わり。

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