小話:確率と割合は人を惑わす

突然ですが、問題です。

あなたを含めた100人が、1人に1万円が当たる無料の抽選会に参加しています。抽選方法はクジ箱を使用し、自分の名前が書かれたクジが引かれたら当たりです。本来、箱中のクジはひとり1枚ですが、あなたは特別な権利として、一定の金額を払えば当選確率を99倍にすることができます。この時、以下の問いに答えなさい。


Q1:一定の金額が9000円である場合、この権利を使った場合における、あなたの所持金の増加期待値はいくらか。(使った9000円も期待値に考慮すること)


この後もう1問ありますが、まずは上の問題を解いてからスクロールしてください。
















確率や割合というものは、日常生活において数学の中で最も実用的な分野になります。つまりこの分野に強い人ほど、より利益的な判断ができることになります。逆を返せば、この分野は生活に直結しているために悪用されやすいのです。数字を使い言葉巧みに相手を惑わし、自分に有利な話を進める人も多く存在します。


さて、先程のQ1の答えですが、そもそもQ2をまだ見せていませんが、そのうえで発表します。


Answer:「900円」

9000円払ったにしては小さい利益ですね。そもそもが10000円なので所詮そんなものなのです。とはいえほぼ当たりなので、余程運が悪くない限りマイナスにはならないでしょう。









というのは今回の問題では不正解です。

もともとの当選確率は1/100だから、その99倍は99/100であり、当たりの場合に当選金が10000円であることから、当選金の期待値は
10000×(99/100)=9900
ここから権利で使った9000円を引いて、増加期待値は900円

という考え方自体は間違いではありません。
しかし、この問題の解答としては不正解として扱われるのです。


それでは正解を発表する前に、あらかじめ伝えてあったもう1問があるので、こちらを解いてください。

Q2:同じ権利を使える人がもう1人いたとします。もう1人が権利を行使するか分からない状態であり、一定の金額が4500円である場合、あなたは権利を使用するべきか。(2人同時に使用することも可能とする)









もし、このQ2から解いたとすれば、何かが変であると気づくと思います。

当選確率が99倍になる権利を2人が使用できる
⇒99/100の確率で当選できる人が最大で2人になる
⇒合計すると1を超えてしまう!

だとしたら、そもそもの条件はどこが間違っているのでしょうか。


この問題の前提文は、書いてあること自体に間違いはないのですが、1点だけぼやかされている部分があります。

あなたを含めた100人が、1万円が当たる無料の抽選会に参加しています。抽選方法は、自分の名前が書かれたクジが、クジ箱の中から引かれたら当たりです。本来クジはひとり1枚ですが、あなたは特別な権利として、一定の金額を払えば当選確率を99倍にすることができます。


問題文では、「当選確率を99倍にする」とは書いてありますが、「何を基準に99倍する」かは明記されていないのです。自身の元々の当選確率1%を基準としているわけではなく、「<権利を使用していない他の人の当選確率>を基準として99倍にする」というのがこの問題における実態なのです。この条件下では、1対1での確率は確かに99倍になっていますが参加者の数は一切考慮してませんから、参加者が増えればその分だけ当選確率99%からは離れてしまうのです。

これを考慮すると、Q1でのクジ箱の中身は自分のクジが99枚、他の人のクジが合計で99枚になるので、自分のクジが引かれる確率は99/198=1/2になります。そうなると期待値は10000×(1/2)=5000円となり、権利のための9000円をマイナスすると

「-4000円」

が増加期待値になります。つまりは「増加期待値」と言っていますが、実態はマイナスなのです。

この条件であればQ2も成立します。解説は省略しますが、Q2の条件では当選確率は約5/12であり、期待値はマイナスになりますので、権利を使用しない方がいいことになります。


確率そのものも条件自体も嘘は言ってませんが、誤認させる要素は他にもあります。前提文には「特別」な権利、Q1には「増加」期待値のように「あたかもプラスに傾きそうなワード」が散りばめられています。一方で私はQ2が存在していることのみ伝え、その内容を隠していました。「相手にあたかも有利な情報を見せ、相手に不利な「本質」を見せない」というのは、詐欺などでも使われる手法の1つです。


さて、ポーカーにおける確率といえば、アウツが何枚の時はリバーでの勝率がその枚数の2倍であるとか、上位ポケット対下位ポケットの勝率は約8:2であるとか、勝率とオッズが釣り合っているからコールだとか、様々なものがあるかと思います。その中でも「プリフロップ時点の勝率」というのは、これまでの確率の誤認に近いものがあると思います。

例えば、AA対56オフスートの場合を考えてみます。プリフロップ時点では56側に20%ぐらいの勝率があります。ですが、プリフロップ勝率はあくまでリバーまで開いた場合の話ですから、その状態になるまでの過程を考慮できていません。簡単に言えば、フロップでベットされた場合に56がコールできる状況というのは限りなく少ないのです。にも関わらず「56はAA相手でも勝率20%はあるし、AKとかなら3割くらい見込めるだろうからポット2000で上に700ならとりあえずプリフロはオッズコール!」なんてケースは確率の優良誤認としか考えられないのです。実際66とかが相手ならもっと酷いですし。

後はポカスタだと特に顕著なやつですが、「プリフロオールインからリバーでアウツ2枚の4%引かれて捲られるとかついてないわー」というのも、(本人の意思はともかく)自分が不幸に見えるよう誤認させる言動になります。確かにフロップ、ターン、リバーと状況は変わりますが、結局のところ確率に影響しているのは「オールインした時点の状況」と「最終的なハンドの強弱」であって、そのプロセスに干渉する余地がないならば、途中の確率なんてものは演出でしかないのです。


とりあえずこんなところで、ではでは。





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