ロード・トゥ・『たいない』Vol.3 “アオリ烏賊”役・小松弘季
こんにちは。じおらま制作の本多です。
じおらまは旗揚げ公演『たいない』にむけ、本日劇場入りしました。さっそく舞台が組まれ、上演準備が着々と進行中です。早く皆様にお見せできるのが楽しみです!
出演者・スタッフの言葉を通じてこれまでの道のりを振り返る「ロード・トゥ・『たいない』」。第3回は、元冷凍運搬船乗組員のコンビニ店員で、家族にまつわる重い過去を抱える男“アオリ烏賊”を演じる小松弘季さんにお話を聞きました。
神保作品はいつも「ポップを目指したい」と言いながら、異形ができあがる
――小松さんはじおらまの最初の劇団員ですが、神保さんとじおらまをスタートさせるまでの流れを簡単に教えてください。
僕は大学の演劇学科を卒業して、海上自衛隊に4年間勤務した後、今はフリーの俳優として演劇をやっています。現在の自衛隊という組織は、直接的な暴力による教育指導が一切禁止されています。
環境に耐えきれないことが原因で退職を選ぶ人や、職場ではなく、この世を離れることを選択してしまう人も存在していた。その事実から、ハラスメントという問題と向き合い改善する動きになりました。ただ、特に船は、物理的に逃げ場のない共同空間で、仕事と生活の境界がほぼ無いに等しいんですよね。なので、実際はハラスメントを防ぎきれていない様々な実情がありました。
正直に言って、僕は学生時代は相手を思いやって言葉を選ぶことに真摯に向き合っていなかったと思います。誰かに精神的ダメージを与えていないとは自信を持って言えない。でも自衛隊を退職後、演劇の現場についたときには意志を持ってハラスメントの問題と向き合いました。
主宰の神保とは大学の同期で、自衛隊を辞めた後も何公演か関わっていました。その稽古の中で、ハラスメントのない創作環境を作りたいということ、同時に、演劇は先に台本があって人が集まる流れが多いけど、台本のないところからもっと実験しながら作品作りができたらいいねという話になり、じおらまを立ち上げました。
――神保さんとは大学の同期ということですが、神保さんの作風についてはどのように感じていますか?
学生時代には劇場を借りた公演はやっていませんが、教室で公演をしましたね。実習の卒業公演も一緒でした。神保の作品は毎回全然手法が違うけど、やっていることの根本は同じなのかも。いつも「ポップなものを目指したい」と言いながら、異形のものができあがっている(笑)。俳優の身体が日常的な動作とはかけ離れた動きをすることから、いろいろなマッチやミスマッチが生まれていく。
――小松さんとしては、神保さんの演出のどんなところがおもしろいと感じていますか?
セッション的なところですかね。神保の中に演出の理想はあるんでしょうけど、モチーフとか特に重要な情景以外は決め打ちしないから、俳優としていろいろなアプローチを試せる。
長い稽古期間で育まれた、メンバーの共通言語
――じおらまは稽古の中で様々な活動をしてきましたが、特に印象深かったことはありますか?
いろいろな資料館を見に行った社会科見学ですね(地下鉄博物館、東京都水道歴史館、昭和館を見学)。皆で稽古場以外に赴くということはなかなかないので、印象深かった。特に地下鉄博物館は、今でも稽古の中で地下鉄のモチーフが出てくると、そこで見た昭和の地下鉄建設の経緯なんかがよぎる。普段から地下鉄を使ってるけど、それを作るところに人間がいたんだと思うと、言葉を超えた魂のようなものを感じます。
あと、自分たちで作った「質問カードゲーム」(ルールを決め、カードを使って互いに質問していくゲーム。相手の話にどれだけ「へえ~」と感じたかがポイントになる。相手のことを知るための方法として座組内で考案)もおもしろかったです。ゲームの形式にすることで、人との境界をいい意味で壊しやすい。元々知り合いの相手でも聞いたことがないような質問もあって、発見がありました。
――こういった取り組みが、台本が完成してからの稽古につながっていると感じますか?
セオリーだとまず台本があり、台本の言葉から、俳優たちが物語や役、その先の世界を読み解くことになると思うのですが、今回は台本ができる前の経験を共有しているので、よりディテールや背景を理解できる。神保も以前「メンバーの共通言語をどう作っていくか」という話をしていて、それは実現できているのかなと思います。あと、一緒に見たり体験したものがなかったら、この台本は作られていないだろうなというのも感じますね。
『たいない』は「音楽的な作品」
――完成した『たいない』の脚本を読んでの感想を教えてください。
初めて読んだときは理解しきれない部分もありましたが、何度か通して読んでいくとセリフにリズムがあることに気づいて、文字というよりもそのグルーヴから登場人物について連想していきました。神保も「音楽的な作品だ」と言ってましたが、本当にそうだと思います。
――演じる役・アオリ烏賊は、船に乗っていた過去があったり、小松さん自身のエピソードも断片的に取り入れられている役ですが、演じる上でどのようにとらえていますか?
船のシーンなんかは、確かに自分の経験から引き出している部分はあるんですけど、自分と近い/遠いという感覚では見ていなくて。アオリ烏賊は、SNS上での彼、仕事をしているとき、家庭で妻と話すとき、独白…これがSNS上と同じかは見ている方のとらえ方によって変わると思うんですが、人間が接する相手によっていろいろな居方や言葉を選択していくということがすごく出ている。だから「アオリ烏賊はこういうキャラクター」というイメージはあまり持っていないです。
――ちなみに、実験的な上演を目指してじおらまを立ち上げたということですが、今回は最終的に台本を前提とした上演になりました。この点についてはどう感じていますか?
実験的な上演のひとつの案として、セリフやタイミング、決め事を減らして、セッション的に俳優が舞台上でパフォーマンスするというのが出ていて、それも実現したら楽しそうだなあと感じたんですが、結果としてはセリフも筋もある台本を活用して稽古をしてきました。台本が出来上がるまでの稽古でのものも取り入れられて、それがめちゃくちゃ良い。僕は素敵な芝居が上演できると胸を張って言えます。だから、「台本になってしまった…」というのは全然なくて、今回のメンバーではこの形がよかったと思います。じおらまでの今後の作り方は変わっていくかもしれないし、いるメンバーが変わったら、毎回自由に変えていける団体になったらいいなというのはありますね。
――小松さんは劇団員なので、団体の現状についてもお聞きしたいです。じおらまの目指す「ハラスメントのない健全で豊かな創作の場づくり」は、実現できていると感じますか?
確かに寛容な集団として出来上がったなというのはあるんですけど。今この集団において「ハラスメントはない」と僕は断言できる。でも同時に、寛容さとゆるさは違うから、すごく微妙なギリギリのバランスでいる気もしていて。ゆるくなりすぎないようにしたい。創作の中で感じたことを、実はまだお互いに全部言えてないのではないか?と感じることもあるんです。
でも、これは僕個人の意見ですが、なんでも言える環境の中で言わないことを選び取る自由がある。その方が居心地がいいです。ただ、そうじゃない人も必ずいる。ほんとむずかしいですね(笑)。
この作品で伝えたいものは「人間」
――じおらまでは客席の多様性を目指しています。小松さんの考える客席の多様性について教えてください。
以前僕が出演した演劇祭の公演が、普段役者をやっていない方も出演していたことで、一般的な小劇場より幅広い客層になっていたんです。開演前もにぎやかにガヤガヤして、子供も遊んでいたりして。僕はその空気感がすごく好きだった。劇場はそういう場であってほしいと思っています。
その作品では、耳の不自由な方が来場される回に手話のできる出演者が前説をやったり、字幕をつける試みもされていて、それも「めちゃくちゃいいな」と思いました。
――『たいない』でもU18・障がい者チケット無料、障がいのある方に向けた舞台説明会や台本貸し出しといった観劇サポートを実施予定です。今できることからではありますが、劇場へ足を運びにくい方に向け、劇場をひらくための取り組みを行っていきたいと考えています。
――では『たいない』を観に来てくれる方に、伝えたいことはありますか?
…リラックスして座って、気楽に観てください(笑)。もしかしたら「何か難しそうなことやってる」と思う方もいるかもしれないんですけど、「ついていかなきゃ」とは思わなくていいので、周りを気にせず、そこで起きてることを楽しんでほしい。この作品で伝えたいものは「人間」です。
――最後に、『たいない』はどんな作品になったと思っていますか?
作品って、その人の経験を通して見られるものなので、お客さんがどんな経験をされてきて、作品をどうとらえるかは僕にはわからないんですけど…僕はこの作品から「人間関係の難しさ」を強く感じました。もしそういう人間関係の重荷を抱えている方がいたら、きっとどこか懐かしさやデジャブといった感覚をもたらす作品になると思います。
じおらま『たいない』
2023年5月19日(金)〜28日(日)こまばアゴラ劇場
19(金) 19:00
20(土) 13:00
21(日) 13:00/18:00
22(月) 休演日
23(火) 19:00
24(水) 13:00/19:00
25(木) 休演日
26(金) 19:00
27(土) 13:00/18:00
28(日) 13:00
公演特設ページ
チケットページ(事前精算)https://t.livepocket.jp/t/diorama-exitlight
チケットページ(当日精算)https://torioki.confetti-web.com/form/2011
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