見出し画像

芸術史(アジア2)レポート

はじめに

このレポートは京都芸術大学通信課程の在学中に書いたものです。最初、どのようにレポートを書けばいいのか悩んだ経験から、誰かがレポートを書く際の参考になればと思って投稿しています。

当然ですが
無断転載・転用、著作権侵害行為
禁止です。

レポート本文

メソポタミアの芸術と気候との関係の考察

 メソポタミアはチグリス川とユーフラテス川に挟まれた地域で、温暖な地中海気候と肥沃な土地と豊かな水により農耕が行われメソポタミア文明が発祥した。このレポートではメソポタミア文明からササン朝ペルシアまでの芸術の流れと気候の関連について記す。
 メソポタミアで発掘された品々は当時の出来事や王朝の権威を表したもの、浮き彫りや彫刻されたものが多い。紀元前6000年頃のメソポタミア文明の彩文土器は素焼きの表面を研磨して焼成前に顔料で紋様を描いている。他の地域で発掘された彩文土器と異なり動物的なものが描かれていることが特徴である(1)。ウルク期(紀元前3500〜3100頃)は、シュメール人によって多数の都市国家が建設された。楔形文字が発明され、建築や芸術の各分野が大きく進歩した時代である。代表的な工芸品である「ウルのスタンダード」(紀元前2500頃)は、木箱の表面に貝殻や赤色石灰岩、ラピスラズリなどを貼り戦争や饗宴の様子を表している。アッカド王朝(紀元前2330頃〜2150頃)がシュメール文化を征服した戦勝の記念碑である「ナラム・シーンの戦勝記念碑」は王を中心にそれに続く兵士の姿が山岳を背景に表されている。古バビロニア時代(紀元前1900頃〜1595頃)に全メソポタミアを支配したハンムラビ(紀元前1792〜1750)を讃えるハンムラビ法典碑は上部に神と向き合う王の姿が浮き彫りに、下部に法典の全文が楔形文字で刻まれている。新アッシリア帝国時代(紀元前911〜612)には豪華な宮殿の建立により宮廷文化が生まれた。宮殿は彩釉煉瓦で彩られ「帝国ライオン狩り」のような石版浮き彫りが壁面を飾っていた。アケメネス朝ペルシア(紀元前550〜330)の「アバターナ東階段」の浮き彫りは独自の世界の秩序と平和を誇示するペルシアの世俗美術を表している。パルティア(紀元前247〜224)時代のハトラ遺跡で発掘された肖像彫刻「サナトルク1世像」の表面には刺繍のような紋様が刻まれている。ササン朝ぺルシア(226〜651)では、金属工芸の制作技術が高度に発達した。代表的なものとして表面に浅浮彫で図柄を表した打ち出し嵌め込み技法の「シャブール2世猪狩図銀皿」がある。
 顔料や彩釉に用いられる塗料があるにもかかわらず、絵画、壁画の類は少なく、浮き彫りや彫刻が多いのは何故だろうか。壁画は通常、日差しや乾燥、雨風による彩色劣化を防ぐため洞窟や古墳の内部に描かれたことから気候と関係していたと考え調べると、環境白書の「古代文明の盛衰の歴史」(2)では乾燥化が起こったことが記されている。サンゴ化石からの調査(3)では乾燥・寒冷な気候であったことが解明されている。乾燥による劣化を防ぐために塗料を用いた壁画ではなく浮き彫りにしたのである。また彩釉煉瓦を装飾に用いたのは「西アジアの陶器と彩釉タイル」(4)に記されているように「焼かれているので簡単には剥げ落ちない」という彩釉の特徴を利用したのである。
 乾燥した気候に対抗した躍動感ある浮き彫りや鮮やかな彩釉煉瓦は、王朝の権威を時を越えて現代の我々に伝えたのである。
(本文総文字数 1310字)

註・参考文献


(1) 彩文土器に描かれた動植物 https://www.karakusamon.com/orient/mugi_yagi.html  
(2) 環境白書 第2節 古代文明と環境 古代文明の盛衰の歴史 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h07/9589.html  
(3) 九州大学理学部「サンゴ化石の古気候記録が語るメソポタミア文明の消長」 https://www.sci.kyushu-u.ac.jp/koho/qrinews/qrinews_191218.html  
(4) 西アジアの陶器と彩釉タイル P.112 https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=6564&file_id=26&file_no=1 

参考文献
INAXライブミュージアム「装飾する魂」 https://livingculture.lixil.com/ilm/see/exhibit/tile_story/ (2023年2月27日閲覧)
ブリタニカ・オンラインジャパン「彩文土器」 https://japan.eb.com/rg/article-04509600  (2023年2月24日閲覧)
ブリタニカ・オンラインジャパン「シュメール美術」 https://japan.eb.com/rg/article-05515300  (2023年2月25日閲覧)
西アジアの陶器と彩釉タイル https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=6564&file_id=26&file_no=1  (2023年2月24日閲覧)
ウルのスタンダード https://www.museumanote.com/creations/view/57f3e461-c940-4dda-b65a-65a631d49af6  (2023年2月24日閲覧)
「カンバス」としての土器 http://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DKankoub/Publish_db/2007moundsAndGoodesses/08/008_03_01.html  (2023年2月27日閲覧)

蛇足などなど

2022年冬期に書いたレポート。
演習課題の制作を優先したため、冬期のレポートはこの1本のみ。
そして翌年は卒業制作に集中したため、在学中に作成した芸術史のレポートはこれが最後。
浮き彫りや彫刻、タイルで装飾されたものが多く、絵画的なものがほとんどないのは何故かという問い→気候と関係しているという仮説で構成。
87点。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?