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MLB投手の評価基準についての考察

こんにちは。今回はMLBの投手の評価基準について簡単な考察です。よくMLBでは勝利数よりも防御率の方が大事だと言われているのは皆さんご存知ですよね。その理由は勝利数は所属するチームの攻撃力と守備力に大きく左右されるので投手の能力を測るのには防御率のほうが有効であるということです。チーム本塁打数が300以上のヤンキースやツインズを味方打線にして投げるのと、その半分以下のマーリンズやタイガースを味方打線にして投げるのが同じ条件であるはずはないですね。この記事はそれが実際どのように賞の選考や給料に影響しているか考察していきます。

サイヤング賞の選考結果からの考察

勝利数より防御率の方が重要だということを示す最も良い例が2018年と2019年のナ・リーグのサイヤング賞の選考でした。結果的にニューヨーク・メッツのデグロム投手が2年連続で受賞するのですが、その成績を見てみましょう。

まずこちらが2018年のサイヤング賞の選考結果です。

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1位のデグロムの10勝に対し2位のシャーザーは18勝で3位のノラが17勝。勝利数では圧倒的に劣っているデグロムですが防御率は1.70と2位以下の選手を引き離しており結果はデグロムの圧勝でした。この選考結果からメジャーリーグでは防御率がいかに重要視されているかお分かりになると思います。

面白いのは5位のコービンと6位のマイコラスでマイコラスは勝利数と防御率の両方で上回っているのにもかかわらず奪三振数で上回るコービンの方が多くポイントを獲得していることです。このことからサイヤング賞には奪三振数も大きな評価ポイントだということが分ります。

そしてこちらが2019年の選考結果

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ドジャースのリュ投手が勝利数と防御率の両方でデグロム投手を上回っているのにもかかわらず結果はデグロムが207ポイントを獲得して受賞。2位のリュ投手の獲得ポイントは半分以下の88ポイント。これから分かるのは一年通してローテーションを守り200イニング以上投げることがメジャーではとても重要視されていることです。ちなみにこの年の最多勝はストラスバーグの18勝ですが防御率は3.32。もうお分かりのように3点台の防御率ではサイヤング賞は獲れません。

これは余談ですがメジャーで完投することは全く重要視されていません。デグロム投手の完投数は2018は1で2019年はゼロ。よく言われるようにメジャーでは分業制が進んでいるので完投することは求められておらず、それよりも一年通してローテーションを守ることの方が大事だということです。ただし日本は登板間隔が異なるので同じ物差しでは測れないと個人的に思っています。

防御率より精確な指標であるFIPとは?

セイバーメトリクスが進んでいるメジャーリーグでは防御率は味方の守備力や運に左右されるので、その要素を除いてもっと純粋に投手の能力を測る指標としてFIPが使われます。FIPとはFielding Independent Pitchingのことで守備に関わるゴロアウト、フライアウト、単打、2塁打、3塁打という打球の概念を除いて投手の能力を測る指標のことです。ちょっと分かりにくいですよね。もっと簡単に言うと投手の責任能力の範囲を被本塁打、与四死球、奪三振、投球回、防御率に限定した数値でグラウンド内に飛んだ打球は計算から除外します。この数値にリーグ平均の補正値を加えたものがFIPになります。

こちらが2018年のナ・リーグFIPランキングのリスト

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防御率トップのデグロムがFIPでもトップでした。

こちらが2019年のナ・リーグFIPランキングのリスト

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防御率2.92で第6位のシャーザーがFIPではトップに。そして防御率トップのリュ投手はFIPでは第4位になっています。投球回はリュが182.2でシャーザーが171.1、被本塁打はほぼ同じで与四死球ではリュ投手が勝っていますが奪三振数が少ないためにFIP値は防御率よりも大幅に上がっています。逆に奪三振数が多いシャザーは防御率よりもFIPの方が低くなっています。これから分かるようにFIPは奪三振数が多く被本塁打と与四死球が少ない投手が有利になり、打たせて取る投手には不利になる傾向にあります。また一般的に防御率のほうがFIPより良かった場合その投手は運がよかったと考えられ、逆の場合は運が悪かったと考えられます

実はFIPを更に補正したxFIPという数値もあるのですが、今回はややこしくなるので防御率より更に精度を上げた指標があるよということを知っていただければ結構です。

給料にはどう反映されている?

サイヤング賞の選考では防御率が大事であることが分りましたが、給料にはどのように反映されているか調べてみました。

まずメジャーリーグの先発投手を2020年の給料の高い順から選び、各選手の成績を調べ給料との相関係数を求めました。成績の項目は勝利数、防御率、投球回(IP)、奪三振(K)、与四死球(BB)、WHIP、WAR、勝率、FIP。WHIPは1イニング当たり何人の走者(与四球+被安打)の数値。WARは選手の総合的な貢献度を図る指標でその選手がどれだけ勝利に貢献したかを示します。FIPについては既に説明しました。

給料は複数年契約をしている場合、その契約が結ばれた前年の成績を使っています。例えばはシャーザー投手は2015年1月にナショナルズと7年$210Mの契約をしていますので、2014年の成績を使っています。

2020年の給料の額が$5M以上の計67選手を選出しましたがヤンキースの田中投手とマリナーズの菊池投手はメジャーでの実績なしに給料が決められているので除外しています。

こんな感じでエクセルでリストを作り相関係数を出しました。

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相関係数がこちら

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相関係数は1からー1までの間で1に近いほど正の相関がありー1に近いほど負の相関があります。

給料に最も相関があるのがー0.64のFIPでした。防御率はー0.57で勝利数は0.42。この数字から勝利数よりも防御率、更に言えばFIPが給料に影響すると言えるでしょう。

またWHIPも給与と高い相関がありますが(-0.60)、これはWHIPが良ければ給与が上がるというよりもWHIPが良ければ防御率が良くなりその結果給与が上がると考えたほうが良いかもしれません。

WARは勝利への貢献度ですので当然給与と高い相関があります。WARと一番高い相関があるのが防御率ですので(ー0.80)、これも防御率が高いとWARが上がりその結果給与も上がるということかと思われます。

もう一つ見逃せないのは奪三振数が投球回と高い相関があることです(0.73)。奪三振能力が高い投手はWHIPが向上するので長いイニングを投げることに繋がります。

まとめるとFIP・防御率が向上するとWARが良くなり給料が上がる⇒FIP・防御率を向上させるにはWHIPを良くする必要がある⇒WHIPを良くするには奪三振数を増やし与四死球を減らさないといけない⇒WHIPが向上することで投球回数が増える、ということです。まあ当たり前ですね。

選手はどう思っている?

最後に選手はどう思っているかについて触れてみます。少し古いですが2013年に投手を評価するのに最も良い指標は何かを何人かのメジャーの選手に訊いた記事がありました。

結果は防御率が2人、FIPが1人、投球回数が2.5人、奪三振率が1人、WHIPが2.5人、ゾーンコンタクト率が1人で勝利数と答えた人はゼロでした。メジャーの選手も投手の能力を評価するのに勝利数は重要な指標ではないと考えているようです。

おわりに

以上メジャーリーグでは勝利数よりも防御率・FIPの方が賞の選考や給料の査定に重要ですよという話でした。皆さんのご参考になれば幸いです。






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