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一年に一度の甘い一日

その日は自分にとって特別な一日。
だけど、みんな知らない。
そんなことを考えて自転車にまたがる。

空は晴れていて、乾いている。
初めての学内アルバイトを終えて、気分も晴れている。
普段とは別の道で帰ってみようと思い、バス通りにそってペダルをこぐ。
すると、正面から駆け寄って来た小学生3人組が「いまなんじですか!」と息を切らしながら聞いてくる。

まるで何かのワンシーンじゃないか。そんなことが自分に身にも起こるのかと思いながら、時間を確認し、お昼の1時。と返すと、
「やば〜〜〜い〜〜!」と顔を見合わせ、「ありがとうございます!」と元気よく背中の方へ駆けて行った。

素直そうで明るく元気な子供達の姿を見て、こっちまで元気になる。その瞬間、右足がペダルにうまく乗らなかった。

階段を小学生みたく駆け上がって玄関を開く。
誰もいない。
ただいまと言ってもそれは狭い玄関で跳ね返る。


ああ思い出した、一人暮らしは寂しいんだった。

けれど、確証はないのに、きっと何かいいことがある。と期待だけが膨らみ続ける。
自分でもはっきりと分かるくらいに、テンションが高い。情緒が安定しない。

家族のことを考える。
確か去年も一人で夕飯食べたっけ。
そして、手紙を書いた。

思い返すと途端に寂しくなる。
そしてついついネガティブな気持ちになる。
情緒が安定しない。もはや悪い癖だ。

夜、コンビニで買った小さなケーキの蓋を開けて、2つあるはずのフォークを探す。
そんな手は止めて、電話をかけて、感謝の気持ちを伝えた。

 18歳の時は19歳になるのが楽しみだったし、19歳のときはいよいよ20歳かと期待が膨らんだ。
そして永遠にそんな時間が続くとさえ思っていた。なんて浅はかでちっぽけなんだろう。

たとえ、ちっぽけな自分だとしても、いいや、未だにちっぽけだから、もう、21歳になってしまったのだろう。

地球が太陽の周りを何周しようと、太陽も銀河をその腕の中で回っているし、この天の川銀河だって隣のアンドロメダ銀河とくっつきそうになっているし、無数の銀河で構成されたものを指す"銀河団"なんて言葉もあるのだそう。
あの時はあまりに大きかった宇宙の図鑑。あの本に載っていたことを、記憶の海から引っ張るほど、自分も、抱えている悩みも、この焦燥感も全部、ちっぽけなんだと感じる。

ならば所詮、誕生日なんぞ。とも思ったけれど、今は少しだけ自分を許すことも必要なのかなと考えた。
そうして誕生日も甘い物を食べる。
めでたしめでたし。


深呼吸をしよう。

いつまでも引きずっていては同じことを繰り返すことになる。そしてきっと、後戻りができなくなる。
そこにはそこでしか生まれない尊さがあるかもしれないけれど、前を向いて見える世界に、その中での気付きに、今は賭けてみたい。

無駄な時間なんてない。
無駄にして良い時間もない。

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