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アメリカで蔓延するフェンタニルと人種

はじめに

過去10年間で、アメリカにおける違法なフェンタニル使用が急増し、2021年には過剰摂取による死者が10万人を超え、そのうち実に66%がフェンタニル関連だった。フェンタニルとは本来、がん患者などの強い痛みを和らげるために処方される合法的な鎮痛薬である。しかし、中国からの原料を用いてメキシコの犯罪組織が違法に製造し、アメリカに大量に流通させているのが実態だ。

この現状は、過去10年間でアメリカ社会を蝕んできたオピオイド危機の「第4波」を象徴するものである。2010年当時はヘロインや処方鎮痛薬が主な原因で4万人程度の過剰摂取死が発生していた。2015年以降、東部を中心にフェンタニル関連死が目立つようになり、2019年には西海岸でも急増した。コカインメタンフェタミンなどの覚醒剤との併用例も増えており、危険ドラッグと化している。

さらに注目すべきなのは、アフリカ系アメリカ人の間でもフェンタニル関連死が高止まりしている点である。これまでオピオイド危機は「白人の問題」とされてきたが、データは人種を問わず多くの犠牲者を出している事実を示している。生存に必要な医療サービスへのアクセスが困難なコミュニティでは、フェンタニルの存在自体が認知されておらず、覚醒剤の付加的使用などによるリスクも高い。

専門家は、フェンタニルと他薬物の併用によるこの事態を「第4波」と位置づけている。依存症治療の現場は追いついておらず、一層の被害拡大が懸念される。過剰摂取で亡くなった人々のほとんどが「死ぬことを望んでいなかった」とされるが、依存症との闘いを理解し支える社会的インフラが不足しているのが実情だ。

このまま放置すれば、アメリカ社会のあらゆる層がフェンタニルの脅威にさらされることになる。国境を越えた毒物の流入を食い止め、治安当局による取締りと並行して、依存症者本人はもとより家族・コミュニティへの支援体制を整備することが不可欠である。過去の教訓を踏まえ、人種や階級間の隔たりなく危機に立ち向かう必要がある。

本論

2015年以降、フェンタニルだけでなくコカインメタンフェタミンなどの覚醒剤との併用例も増えており、東部に限らず2019年以降は西海岸でも死者が増加している。この事態はオピオイド危機の「第4波」と位置づけられているが、注目すべき点はアフリカ系アメリカ人の死者数が目立つことである。これは人種差別の現れである可能性が高く、早急に対策を講じる必要があるだろう。

現状のデータをみる限り、アフリカ系アメリカ人は他の人種と比較してもフェンタニルや覚醒剤を原因とする過剰摂取死の割合が高い。人種別に見ると白人でも同様の現象が見られるが、人口比ではアフリカ系住民の方が圧倒的に多いのが特徴だ。過去に「オピオイド危機は白人の問題」と位置づけられてきた経緯があるが、明らかな事実とはかけ離れている

この背景には、アフリカ系住民が抱える医療サービスへのアクセスの困難さが関係していると考えられる。歴史的な人種差別がもたらした貧困と偏見が未だに尾を引いており、必要な治療を受ける機会が制限されている現状がある。覚醒剤をはじめとする違法薬物への依存に陥りやすく、フェンタニルの存在自体を認知できずに致命的な過剰摂取を引き起こしてしまうケースが多いのではないか。

これまでのオピオイド危機への対応がアフリカ系コミュニティの置かれた状況を考慮出来ていなかった反省から、啓発キャンペーンなども差別的な印象を払拭するべく見直しが進んでいる。人種や社会的地位を問わず、依存症とその背景にある諸要因を包括的に理解し支援を行う体制を早急に整備する必要があるだろう。過去の教訓を踏まえ、隔たりなく危機に取り組む姿勢が求められる。

結論

アメリカでは、2010年代に入ってからのオピオイド系鎮痛剤の乱用が引き金となり、過剰摂取死が急増した。違法ヘロイン処方薬が中心だった時期もあったが、2015年以降は中国からの流入原料を使ってメキシコの犯罪組織が違法に製造したフェンタニルが最大の脅威となっている。

現在は、フェンタニルに加えてコカインやメタンフェタミンなどの覚醒剤との併用事例も増えており、専門家からは過剰摂取危機の“第4波”と位置づけられている。依存症治療の現場は追いついていない状況で、治療法や施設の不足から被害はさらに拡大する可能性が高い。

実際に過剰摂取で命を落とした人の多くが、死を望んでいた訳ではないとされる。しかし依存症との闘いから逃れられず、最期を迎えてしまったケースがほとんどだ。早期からの適切な治療と継続的なケアが十分に行き届いていれば、救えたはずの命が失われている現状がある。

依存症への理解と支援は個人レベルに留まらず、社会全体で取り組むべき課題である。過去の人種差別的傾向を反省し、孤立させることなく共感を示すことが重要不可欠だ。制度面での抜本的な見直しと広範な啓発活動を並行し、第4波が引き起こす深刻な被害からアメリカ社会を守る必要がある。

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