アニメレビュー『月がきれい』#01

4月から3ヶ月間放映していたアニメ『月がきれい』にやられてしまいました。定期的にアニメに引っ張られることはあるんですが、今回は久々でしかもかなりやられた感じです。
そこで、『月がきれい』を観た感想やら、考察やら、検証やらをしていきたいなぁと思っています。というか、何か吐き出さないとやるせないんですよね。
で、『月がきれい』は、そもそもどんなアニメかというと、中学生の、思春期真っ只中の純愛を描いた作品です。南プロデューサーが「実写でやればいいじゃん」と言われたいとインタビューで答えているように、日常をそのまま切り取ったリアル感が、普通のアニメと一線を画するところです。中学生の恋愛なので、劇的なできごとも起きないですし、大人になれば軽くクリアできることに大きく悩んだりします。ラブストーリーではありますが、新春期を垣間見られる切ない物語です。
全12回の放映で、告白回が3話め、付き合い始めるのが4話めと、いわゆる付き合ってしまうところがゴールにはなっていません。付き合うことがどういうことなのか、何をすればよいのかというそんなところから始まっているので、その初々しい様子を描いています。
まあ、その辺りは追々書くとして、その付き合い始めるまでについて書いていこうと思います。
主人公の小太郎は、小説家志望の文芸部部長です。ただ、文芸部は開店休業状態で、活動をしているのかどうかはわからないほどです。部活なので活動拠点として図書室を放課後に自由に使える程度です。これが後に大きく影響したりもするのですが。で、性格的にもおとなしく、クラスでは目立たない存在です。しかも、文化系の部活に入っていながら、成績は中の上程度で、運動はからっきしです。スクールカーストで言えば下位、もしくは別枠と言った存在なわけです。小学校時代からの友達がいるので、ボッチではないのが救いと言った感じです。容姿も背はそれほど高くなく、顔も飛び抜けて良いという描写もありません。ヒロインの茜に最初に与えた印象は寝癖で髪の毛が跳ねているところなので、おしゃれと言うわけでもありませんでした。
で、ヒロインの茜と言うと、陸上部の短距離走の選手を務め、真面目に練習をしています。容姿はクラスで五指に入るほどで、勉強もできるほうです。しかも、中学3年生のクラス替えでクラス一の美人である宮本心咲に声をかけられ、スクールカーストのトップグループの一員になってしまいます。ちなみに公式サイトの茜の解説には小5で川越に転校してきたとなっているので、心咲の「小3の時一緒だった」と言うのはどういうことなのかがちょっとわからなかったりします。茜も曖昧な返事で濁しているので、実際にそれが事実かは微妙な感じ。心咲が茜に適当なことを言ってグループに誘ったのか、心咲もどこかのタイミングで転校してきたのか。もしくは設定ミスだったのか。
それはさておき、こんなに接点のないふたりなので、本来であれば、付き合うことはないわけです。出会いも中学3年生のクラス替えで同じクラスになったという、とくにお互いが好きになる理由にはなり得ていません。好きになった経緯としては、岸監督と南プロデューサーの座談会によると、いつの間にか好きになっていた。ということなので、いわゆる積み重ねで気になる存在を経て好きになっていったわけです。まあ、小太郎の方は好きになる要因は、一目惚れ的、ほとんど無かった女子との会話の相手、背中をはたいてもらった、LINEを教えてもらったうえ個人的なやりとりもできた。など、死ぬほどあるので、そこは別にどうでも良いですが、茜はやはり気になるところです。
きっかけとなったのは、体育祭で同じ用具係となったことであるのはわかります。LINEで用具係同士の連絡を取り合うことになっても、小太郎のLINEだけわからずに聞きそびれていたところ、用具係の仕事の連絡ができず、小太郎は先生からサボったように思われてしまいます。これが自分のせいだと言う後ろめたさがあり、小太郎の存在を認識するようになるわけです。さらに体育祭本番に大事にしていた芋のぬいぐるみ(べにっぽ)を紛失してしまいます。これはライナスの毛布ではないですが、茜にとって、自分を落ち着かせるアイテムです。それが無くなったことで、もはや体育祭どころではなくなり、用具の準備が中途半端だったり、リレーのバトンをうまく受け取れなくなってしまいます。自分の所為で体育祭も負けたと思い、自己嫌悪にかられていたところ、小太郎がべにっぽを見つけてくれます。茜は喜ぶとともに、べにっぽが無いと全然だめな自分を卑下します。そこで小太郎が「そのままでいい」と自分を肯定してくれます。すごく努力家の茜にとって、努力をした結果でなく、そのままの自分を認めてくれたようで嬉しかったのです。このふたつの要素で好きになったと考えるのは、理解はできます。中学生ですしね。EDテーマの「月がきれい」の歌詞に「君からもらった言葉を抱きしめている。私にとってそれはまるで月あかり」とあるように、暗闇を照らす一条の光で、自分を救ってくれる言葉であることはわかります。でも、そう思えるには茜の境遇や性格があってこそだったのではないでしょうか。
のちに茜は小太郎と付き合っていることが公になると、宮本ら友人たちに女子トイレで小太郎のどこが良いかを聞かれて「安心できるところ」と答えます。中学生だと、運動ができる、容姿がカッコいい、頭が良いなどの理由があるところ、なかなか安心できるところを選ぶことは少ないでしょう。でも、茜にとって、それは重要なことだったわけです。
茜は転勤族の父親の所為で、転校を繰り返してきています。先述した通り、設定的には小学5年生から川越に住んでいるようですが、卒業と同時に千葉に引っ越してしまうときにも「慣れているし」と言うくらいですから、その前にもあったと思われます。仲良くなった友達ともすぐに別れてしまう可能性があるうえ、親の都合には逆らえないと言うことが根底にあるわけです。なので気の置けない友達は多くありませんし、人の意見になかなか逆らえないところもあります。本当の友達と呼べるのは同じ陸上部の千夏と葵のふたりしかおらず、そのふたりとは3年のクラス替えでバラバラになってしまいます。クラスでグループ入りした宮本らのグループがクラスの友達として存在していますが、茜にとっては居心地が良い場所ではありませんでした。陸上部で活躍をしていても、性格はおとなしく活発なわけではなかったので、派手なグループにいるのは自分にあっていなかったと感じているわけです。修学旅行の時、そのグループで写真を撮影したときも若干顔が引きつり、汗までかいている描写があり、気を遣っているのがわかります。修学旅行先で小太郎に誘われたときも、そのグループで行動しているところから抜け出せずに、そして抜け出したいことを話せずにもいました。
茜は学校ではほとんど素の自分を出せなかったんじゃないでしょうか。そんな状態の時に、自分自身を認めてくれた言葉を投げかけてくれた小太郎には、本当に安心感を得たのだと思います。自分もできたら、小太郎のようにクラスで目立たない存在でいたいと思っていたのかもしれません。なので、茜と小太郎はヒエラルキーこそ違えど、同じクラスターであったわけです。そこに惹かれたのではないでしょうか。そういう意味では小太郎のライバルである比良は、陸上部の部長で運動神経抜群で成績も良く、容姿も悪くなく、さらには後輩に取り巻きがいて、告白もされてしまうスーパースターなわけです。端から見れば比良と茜はお似合いに見えるのですが、本来の茜にしてみれば、もっとも遠い存在であるわけです。茜が大会で散々の結果を出してしまったときに、比良は茜に責め立ててしまいます。比良は叱咤激励の意味を込めていたとしても、頑張った茜、頑張っている茜を認めているわけで、小太郎とは本質的に違います。
小太郎にとってみれば、茜の本質を見抜いて言った言葉ではないわけですが、本心から「そのままでいい」と思えてしまう小太郎が茜にとって居心地の良い場所になっていったのでしょう。それでも茜の偉いところはその小太郎の居心地の良さにハマらず自分なりの高みを目指して努力をし続けるところではないでしょうか。物語終盤で千葉へ引っ越すことになった結果、同じ高校を目指す小太郎のことを考えれば、光明高校よりも偏差値の低い高校を受験すると言う選択肢もあったでしょう。
ちょっと話が脱線してしまいましたが、そんな自分に厳しい茜ですが、人には人一倍気を遣ってしまうので、茜からは絶対告白をすることはなかったと思われます。視聴者目線で観れば3話の時点で相思相愛であることは明白ですが、当人にとってみれば、相手の気持ちなどわからない。比良が茜も自分に好意を持っていると思っていても、実際はまったくそんなことがなかったように、当事者としては、相手がどう思っているかは本当にわからないものです。だから、茜は告白して相手を困らせてしまうようなことがあるのであれば、想いを伝えずにいるのではないでしょうか。その点においては、告白してくれたことも茜にとっては重要でした。最終話で茜が「勇気を出して伝えてくれたから、一緒に歩いて行けるって信じられた」と言っており、いくら茜が小太郎のことを好きになっていっても、告白をしてくれなかったら、この状態はありえませんでした。その1点で考えれば、比良は3年になる前に告白すべきだったわけです。小太郎の告白は比良との噂を聞いたことによる焦りからきたものでもあるので、比良にとっては他の誰かが告白しそうな気配であることを知るよしがなかったと言う不運もありますね。小太郎も比良の存在がなければ、あのタイミングでの告白はなかったかもしれませんし。
そう考えると、茜が小太郎に惹かれていったのは、一緒にいる時に心地よさと行動力なのではないでしょうか。中学生の恋愛では諦めて自然消滅になってしまうような事象も、小太郎の行動力で回避していたりしていたので。何か光るものを持っていても行動しなくては、何にもならなず、特に何か持っていなくても行動することで突破できることは実際にも多いわけですよね。まあ、その行動力に対して、しっかりと返事ができる茜あってこそというのもありますけれども。

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