なすび考 〜「なすび」呼称の現れる場面について〜
【序説】
英語で言う"egg plant"に2種類の呼び名があり、「なす」と「なすび」である。
標準語としての名称は「なす」であり、「なすび」は方言、特に西日本で主に使われる呼称とされている。
西日本出身・在住の筆者もその呼称に触れる機会はあるが、ほぼ標準語としての「なす」を使う。
→では、われわれはいつegg plantを「なすび」と呼ぶのか?
参考URL
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000290682
上記URLにて使い分けに関しての質問がされているがクリティカルな回答はされておらず、語源の説明に留まる。
web上での検索の結果、「なす」「なすび」の呼び分けについて説明したものは発見されなかったため、以下の仮説を設定し、かんたんな調査を行った。
【仮説】
日常場面を振り返ったとき、未加工のegg plantを呼称するときは「なす」「なすび」の2つが混在するが、料理の中の具材としてegg plantを抜き出したときは「なす」と呼称することが多いと感じる。
→未加工の野菜としてのegg plantは、調理済みの具材としてのegg plantよりも「なすび」と呼ばれやすいのでは?
【方法】
Twitterにてegg plantの写真を投稿し、これを何と呼ぶかアンケートを行う。
項目は「なす」と「なすび」の2つとする。片方のツイートには未加工の野菜としてのegg plantの写真を添付し、もう片方にはegg plantを用いた料理の写真を添付する
アンケート実施時間は24時間とする
【結果】
・野菜としてのegg plant
約2000回表示
2rt 0qt 8fav
139票
→
なす:101.5票
なすび:37.5票
・調理済みのegg plant
約1800回表示
2rt 1qt 8fav
133票
→
なす:114.4票
なすび:18.6票
※2023年9月末時点
なすび呼称のみを比較すると差は2倍となり、野菜としてのegg plantのほうが「なすび」と呼ぶ人の方が多く、仮説を支持する結果となった。
【考察】
1. RT者による地域差がある?
・筆者は大阪在住者であり、フォロワーも関西在住、あるいはその文化圏に属するものが多い?
・野菜としてのegg plantに関するツイートが関西圏在住者の目により多く触れた?
→RTしたアカウントは両ツイートともにそれぞれ近畿圏在住者、(おそらく)中部地域在住者であるため、ふたつのツイートを目にした者の地域性の偏りは大きくはないと推察される。
2. 料理名の影響
野菜としてのegg plantを「なすび」と呼ぶ地域・環境においても、料理名に関しては地域独自の呼称が無いことが多いと思われるため、料理に用いられた食材を抜き出したときもその料理名に呼称が引きずられる可能性がある
例:麻婆茄子、焼きなす など
3. 呼称を習得する経路の違い
野菜の名称は幼少時、肉親や近い関係性の人間から習得する場合が多いと思われる
→地域性が保存されたままの関係性の中で習得されると推察される
料理の名称はある程度成長してから、レシピやお品書きから習得される場合が多いと思われる
→料理名は全国から集まった文献・web上の記述に依るものが多いため地域性が薄まると推察される
上記の2つの考察をまとめると、
料理に用いられた食材の呼称は料理名に引きずられる
野菜としてのegg plantを「なすび」と呼ぶ地域でも、egg plantを用いた料理の呼称は地域性が薄められた状態で獲得される
そのため、料理名が固定されていると思われる「麻婆茄子」「焼きなす」「なすの揚げ浸し」などに用いられているegg plantは食材だけを抜き出しても「なす」と呼称される確率が高くなる
と、推察される。
【結論】
今回Twitterにおいて未加工の野菜としてのegg plantと、調理済のegg plantを別ツイートにて提示し、それぞれ「なす」「なすび」どちらで呼称するかについてアンケートを行い、どちらが「なすび」と呼ばれやすいかを検討した結果、未加工の野菜としてのegg plantのほうが「なすび」と呼ばれやすいことが明らかとなった。
「かぼちゃ⇄なんきん」「かぶ⇄かぶら」などにおいても同様のアンケートを行うことで本仮説が補強される可能性がある。
あるいは、料理名が確立されていないようなものになるよう調理されたegg plantを提示することで今回と異なった結果が現れる可能性もある(例:egg plantを用いたジャムなど)
また、地域によって独自の呼称がある食材以外のものにおいても地域呼称で呼ばれる頻度が原料>加工品の関係を成せば、本件と併せて方言が棄却されものの呼称が標準語へ均質化されてゆくメカニズムを理解する一助となり得ると思われる。
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