真冬の道志みちにて。

真夜中のツーリングは臨死体験に近い。
聞こえるのは排気音。見えるのはヘッドライトに切り取られた半径3メートルの世界。それ以外は無限に広がる虚空。
ただひたすらに寒く、手足の感覚はとうに無い。
無感動に車体を揺らし、曲がりくねった世界をひた走る。
いつから走っているだろう。そんなことはもう忘れた。
どこまで走っていくのだろう。そんなことを考える気力もない。
アレ?ひょっとしてここはあの世?もう俺死んじゃってる?
そう思った頃、ふと月が見える。そういえば月を目指して走り始めたんだった。もう何年も前のような気がする。
満月に照らされているのは高い高い山。どうやら日本でいちばん高いらしい。
青ざめた巨大な台形が、じっと見下ろしている。ような気がする。たぶん気のせい。

道の脇に煌々と輝く自動販売機。
ブレーキもクラッチもおぼつかないほどに手が冷えているけれど、どうにか停めて缶コーヒーで暖をとる。どっから電気引いてるんだろうか?いずれにせよ助かる。
腕時計に目をやると午前四時。
道にはうっすらと霜。ぼちぼちこの静寂に別れを告げ、現実に帰る準備をしなければ。
近場のインターチェンジを見つけ、非力な単気筒に無理を言わせて家路を急ぐ。どこまでも続く真っ直ぐな高速道路の向こうから、大きく暖かい光が見えた。朝日だ!

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