見出し画像

シンガポール・デジタル・ドル導入へ試験事業「SGD」


将来消えるかもしれないシンガポールの現金


MAS(Monetary Authority of Singapore/シンガポール金融管理庁)は2022年10月31日に、「SGD(Digital Singapore Dollar/シンガポール・デジタル・ドル)」導入へ試験事業の潜在的な用途と必要なインフラを詳述した報告書を発表し、プロジェクト・オーキッド(Project Orchid)の第1段階(Phase 1)を完了した(注1)と報告した。

2.デジタルSGDは様々な形態をとることができる。
CBDC(Central Bank Digital Currency/中央銀行デジタル通貨):MASが発行する紙幣や硬貨のデジタル版。
トークン化された銀行預金や安全な裏付けのあるステーブルコインなど、民間が発行する通貨[注2]。

3.MASは、シンガポールにおけるリテールCBDCのケースは今のところ説得力がないと評価している[3]、しかし、デジタル通貨の優れたユースケースを積極的に探求し続けていく。
プロジェクト・オーキッドは、MASが必要に応じてリテールCBDCを発行するために必要な技術的能力(technical capabilities)とコンピテンシー(competenciesを構築することを目的としている。

4.プロジェクト・オーキッドのフェーズ1では、目的別デジタルSGD PBM(purpose-bound money)のコンセプトが検討された。PBMは、デジタルSGDでの送金の際に、送金者が有効期間や店舗の種類などの条件を指定できるようにするものである。

5.MASは、政府機関や業界関係者とともに、このコンセプトを検証するためのいくつかのトライアルを開始した。
政府バウチャー。
SFF2022(2022年シンガポール・フィンテック・フェスティバル)で、DBS銀行とGovTechのOGP(Open Government Products/オープン・ガバメント・プロダクト)部門は、特定の個人への払い出しにPBMを使うテストを行う予定である。試験参加者は、参加する飲食店でRedeemSG [注4] バウチャーを使用することができるようになる [注5] 。

加盟店はクーポン券の交換に応じたデジタルSGDを直接受け取ることができる。
コマーシャルバウチャー(Commercial Vouchers) : テマセク(Temasek)、FAZZ(Fazz Financial Group Pte. Ltd)およびGrab(Grab Holdings Ltd)は、2022年11月02日から04日にかけて、SFF2022参加者に対して、PBMを商用デジタル・バウチャーとして発行する試験を行う。

試験参加者は、このバウチャーを自分の好きなウォレットアプリケーションを通じて、映画祭の参加店舗での買い物に利用することができる。
政府からの支払い(Government Payouts) : OCBC(OCBC Ltd)とCPFB(Central Provident Fund Board)は、受取人が銀行口座を持たなくても政府機関から資金を受け取ることができるPBMの利用を試験的に実施する。

このテストは、選ばれた参加者を対象に、コントロールされた環境でのテスト支出スキームを用いて行われる。
学習用口座の管理(Managing Learning Accounts) : UOB(United Overseas Bank Ltd/ユナイテッド・オーバーシーズ・バンク・リミテッド)とSSG(SkillsFuture Singapore/スキルズフューチャー・シンガポール)は、現行のSSGクレジット支払いプロセスを強化するためにPBMを使用し、資格条件を満たした場合にスキルズフューチャー補助金が参加トレーニングプロバイダに自動的に支払われるようにするためのテストを行う予定でである。

6.プロジェクト・オーキッドの第1期で得られた知見を詳述した報告書には、潜在的なユースケースを想定したプログラマブルデジタルSGDを実装するための設計上の考慮事項が含まれている。今後の研究分野としては、ユーザーエクスペリエンスの向上、セキュリティとプライバシー機能の強化、幅広い層へのアクセシビリティの向上などに重点を置いていく予定である。

7.プロジェクト・オーキッドに参加する金融機関には、DBS、Fazz、Grab、NETS(Network for Electronic Transfers (Singapore) Pte. Ltd.)、OCBC、UOBである。このプロジェクトの政府用と商業用のユースケースは、それぞれGovTechのOGPとTemasekによってサポートされている。

8.MASのChief FinTech Officerであるソプネンドゥ・モハンティ(Sopnendu Mohanty)は、「電子マネーの導入は、電子的に価値を保存し、それを携帯する能力を提供した。

デジタル通貨はそれを超えて、お金をプログラムして特定の目的にのみ使用することを可能にする。
業界との実践的な実験を通じて、デジタル・シンガポール・ドルの潜在的な用途と、それをサポートするために必要なインフラについての理解を深めた。
MASは、プロジェクト・オーキッドの次の段階において、業界関係者や政策立案者とさらに協力していくことを楽しみにしていると報告している。

ここから先は

1,154字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?