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深海採掘の指針となる主要な海洋データベースには欠陥があると科学者は警告

Nature Briefingは2023年05月25日に、ナターシャ・ギルバート(Natasha Gilbert)は海底資源の採掘が迫る中、環境への影響を評価するためには、海底の生物多様性に関するより良い記録が必要であると研究者は述べていると報告した。

コバルトやニッケルなどの金属を海底から採掘するために、ある企業が史上初めて2023年07月に認可を申請する見込みである。その一方で、深海の生物多様性をマップ化し、ライセンス認可の判断材料となる重要なデータベースには、エラーやデータギャップがあると研究者は警告している。

ISA(International Seabed Authority/国際海底機構)は、国際海域での深海採掘を監督する国連関連機関であるが、現在は採掘探査のみを許可している。そのWebサイトによると、中部・東部太平洋の最大600万平方kmに及ぶ海底で、金属を多く含む堆積物の塊があるCCZ(Clarion–Clipperton Zone/クラリオン-クリッパーßトン地帯)の採掘可能性を調査する17の企業や政府組織を承認している。

カナダ・バンクーバーに本社を置くザ・メタルズ・カンパニー(The Metals Company, based in Vancouver, Canada)の子会社であるナウル・オーシャン・リソース(Nauru Ocean Resources)社は、電気自動車のバッテリー(electric-vehicle batteries)や電子機器に必要な金属(other electronics)の採取を目指し、この海底の探査を行っている。
1カ月ほどで商業採掘免許を申請する予定で、認可されれば、2024年に操業を開始できる。

科学者たちは、深海の生息地や生物多様性についてほとんど知られていないため、環境への影響が予測できないことから、企業が海底の採掘を開始することを懸念している。

ISAは、こうした懸念に対処し、研究プロジェクトを可能にするために、DeepDataと呼ばれるデータベースを運営している。このデータベースには、ISAが深海探査ミッションの際にコントラクターに収集するよう求めている情報が含まれている。

生物学的、地球化学的、物理学的データには、例えば、遭遇した生物種や水中に存在する化学物質などが含まれていう。

しかし、2023年03月30日にDatabase誌に掲載されたDeepDataの分析結果1では、この研究を行った研究者を心配させる欠陥が明らかになった。

採掘が海底環境に与える影響を評価するために、「現在の形のデータベースに頼るのは無責任だと思う」と、分析を主導したロンドンの自然史博物館のデータサイエンティストのムリエル・ラボーン(Muriel Rabone, a data scientist at the Natural History Museum in London)は言う。

ラボーンはNature誌に、この分析はISAとは無関係に行われたが、ISAはデータへのアクセスを可能にするために協力した、と述べた。また、ISAは研究の範囲や原稿の初期案について相談を受けたという。

しかし、ISAは、この報告書は時代遅れであるとして、調査結果の一部に抗議している。

2021年07月12日、研究者はCCZで収集したデータをダウンロードし、分析を実行した。それ以来、ISAはDeepDataの品質保証と管理の問題に対処するために「大幅な改善」を行ったという。

この批判に対し、ラボーンは、このデータベースにはまだ欠点があると主張している。しかし、そのような欠点があっても、海底にこれまで見られなかった何千もの生物種が存在することを示すのに役立っている。
「まだやるべきことがある。」と彼女は言う。

データギャップ
研究者らは、データベース研究のために分析した40,518件の記録のうち、約4分の1が重複しており、深海の種の豊かさを過小評価することにつながる可能性があると述べている。科学者たちは、データベースには個々の記録を識別するための独自コードがないため、部分的に重複が生じる可能性があると考えている。

ISAは、他のデータベースと同様に、DeepDataの「機能とデータの質は、技術の進歩により年々向上している」と述べている。また、重複するレコードを特定し、修正していると言う。また、海洋生物のカタログや分類を行うWorld Register of Marine Speciesとの連携や、Ocean Biodiversity Information Systemというデータハブとのデータ共有により、データのクリーンアップを行い、より広く利用できるようにしている。

しかし、現在のデータベースを見ると、重複したデータがまだ存在し、多くのレコードに固有の識別子がついていないとラボーンは言う。

また、DeepDataには一貫性のない情報が含まれていることもわかつた。例えば、2つの種を同じ名前でカタログ化しているレコードがある。また、多くの環境データが欠落していた。業者がデータを提出する際には、種名や動物群の大きさなどの項目があるフォームを使用する。研究者たちは、さまざまなフィールドのデータが全体の90%も欠落していることを発見した。

ISAによると、すでにこれらの問題のいくつかに対処するためにフォームを更新し、データの品質と管理が改善されるように、請負業者向けのワークショップとトレーニングを設計している。

いまさら?

ラボーンは、このワークショップを科学コミュニティに開放し、データベースに関するフィードバックを提供できるようにしたいと考えている。

この研究には参加していないが、ドイツのフランクフルトにあるSenckenberg Research Instituteの深海生態学者ステファニー・カイザー(Stefanie Kaiser, a deep-sea ecologist at Senckenberg Research Institute in Frankfurt, Germany)も同意見で、もしデータベースが改善されれば、研究者にとって、業者が収集したすべての情報にアクセスできるようになり、有用である、と言う。

しかし、ISAは、学術コミュニティが請負業者のプレゼンテーションや年次報告書の作成を支援していることは認めるものの、請負業者がデータを提供しているため、ワークショップは請負業者のみを対象としていると述べている。

そのような場合は、問題に私的に恐怖を感じているからで、まだまだ多くの問題が隠されている可能性が高く。
全てを公開し、誰もなチェックできるようにして、改善すべきである。

DeepDataをめぐる意見の相違にもかかわらず、研究者たちはすでにこのデータベースから学んでいる。

ラボーンはISAと公式なパートナーシップを結び、CCZの海底におけるメタゾア生物多様性の最初のセンサスを主導した。

その結果、この海域で5,500種以上の生物が発見され、そのうちの92%は多くのミミズや節足動物を含む科学的に未知の生物であることがわかった。この研究成果は、2023年05月25日付の学術誌「カレント・バイオロジー」2号(25 May in the journal Current Biology2)に掲載された。

How many metazoan species live in the world’s largest mineral exploration region?

Muriel Rabone 7
Joris H. Wiethase
Erik Simon-Lledó
Helena Wiklund
Tammy Horton
Adrian G. Glover 6
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Open AccessPublished:May 25, 2023DOI:https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.04.052

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-023-01303-7

References
Rabone, M. et al. Database 2023, baad013 (2023).

Article

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Rabone, M. et al. Curr. Biol. https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.04.052 (2023).

Article

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https://www.nature.com/articles/d41586-023-01303-7
https://www.isa.org.jm/exploration-contracts/polymetallic-nodules/
https://www.isa.org.jm/exploration-contracts/
https://www.isa.org.jm/exploration-contracts/cobalt-rich-ferromanganese-crusts/
https://www.isa.org.jm/exploration-contracts/polymetallic-sulphides/
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02242-y
https://www.isa.org.jm/deepdata-database/
https://data.isa.org.jm/isa/map/
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)00534-1
https://www.cell.com/current-biology/pdfExtended/S0960-9822(23)00534-1

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